この距離の虜
 



人肌が恋しくなる季節がやってくると私はわざと薄着をして学校に行く。
バレーボールの朝練に向かう途中本当に凍え死ぬんじゃないかという日もあるけどこれも私の計画のため。


下着の上にワイシャツで体育館にいる西谷のとこへおはようと挨拶しにいくと決まってこう言うのだ。


「おい、またそんな薄着して風邪ひくって何度も言ってるだろ!」

『カーディガン忘れちゃった』

「ったくよ、暖かくしとけよ!これ貸してやるから」



そう言って西谷が私の頭上からポスッと着てきたであろうパーカーを被せてきてフードの両サイドを引っ張りちゅっと口付けてくる。

フードに隠れて周りにキスシーンは見えないけど確実にしてることはバレている。
そんでもって周りはやじを飛ばしたり見て見ぬふりをするのだ。



「これで貸しはチャラにしてやる」

『ふふ、ありがとう』


目の高さがほとんど同じ西谷は先輩たちより身長が低いのを気にしているけど私はこの距離が好きだ。
背伸びをしなくても唇がくっつく距離は心地が良い。


「流れ球気をつけろよ!」

『うん、頑張ってね』

「おう」


背を向けてく彼はやはり同い年の田中に毎回見せつけるなよと小突かれた
まんざらでもない西谷はニィッと笑いながら「羨ましいか龍!」と自慢家である。


私はマネージャーとして部活のサポートをするべく作業を始めた。






この距離の虜



『(でもきっと西谷に見下ろされるのもいいもんだろうなあ)』


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