クリスマスに向けて

ショーケースと睨めっこしては頭を悩ませた。贈り物ですか?と女性店員が目尻を下げながら問うてきた。
「そうです。女性はどういうのが好きなんですかね」
「こちらとか人気ですよ〜。リボンがアクセントになってて、若い方を中心に人気です」
差し出された長財布を見た。確かにリボンがアクセントになっているが美優希ちゃんに似合うだろうか。いっそベタベタに可愛らしいものを贈って嫌がられるのも楽しいが、使ってもらえなくては意味がない。それに、俺が欲しいのは財布ではなくキーケースだった。
「あ、欲しいのはキーケースなんです。すみません」
「あら、申し訳ありません。でもお揃いのデザインでキーケースもございますよ」
にこにこと笑みを絶やさない店員が同じデザインのキーケースを出してくれた。クロコ型押しの赤のキーケースは光を反射していた。悩んで喋らない俺に店員は言った。
「ブランドはこちらのものでよろしいですか? 他のブランドでもよろしければお出ししますよ」
「はぁ、じゃあお願いします」
店員は次々に人気のキーケースを出してくれた。編み込まれたものだとか、ブランドロゴが目立つデザインのものだとか、様々なものを出してくれてはその分俺は押し黙っていった。どれもこれも美優希ちゃんに似合うような気がするし、似合わないような気もした。あれこれ考えて頭が疲れてきていた。喋らない俺に店員は少し困ったふうに笑っていた。

「パパぁ、どれにするの?」
「まだわかんない」
ふいに後ろから腰に抱きついてきたのは真愛だった。俺の後ろから女性店員を見上げて目が合うと、恥ずかしそうにはにかんでいた。
「なにをかうの?」
「キーケースかな」
「わたし持ってないよ」
「真愛はいらないでしょ」
「……なんで!?」
「え?」
はにかんでいた真愛はどこへやら。突然怒っては俺の腰をポカポカと叩いてきた。頭を撫でながらいなすと、不満気に頬を膨らませていた。
「わたしも持ってないのに、なんでみゆきちゃんだけにプレゼントするの!」
「真愛には他のプレゼントがあるでしょ」
「やだ! わたしもキーケースほしい!」
やだやだと訴えてきて腰に頭をぐりぐりと擦り付けてきた。少し苦しい。店員はそんな真愛を見て微笑ましいといったふうに笑っていた。膝を折り、ぶすくれる真愛と目線を合わせて聞いた。
「なんでキーケースが欲しいの」
「……みゆきちゃんとおそろいがいい」
俯いて目を合わせない真愛が呟いた。どうやら相当美優希ちゃんのことを好きになったようだ。今日も美優希ちゃんはどうして一緒に来れないのか散々問い詰められた。ただ休みが合わなかっただけなのだが、真愛はなぜか疑ってかかっていた。最初の頃に内緒で会っていたことを根に持っているようだった。お揃いのものが欲しいなんて、俺だってお揃いのものを持っていない。
「パパだって美優希ちゃんとお揃い買いたい」
「なら三人でおそろいしようよ!」
ねっ! おねがい! と言いながら今度は首に抱きつきては上目遣いに見てきた。娘のお願いの仕方が末恐ろしいと感じた。店員を見上げると、笑いながら「お揃い良いですよ〜、色違いでもかわいいと思います!」と商魂逞しく勧めてきた。
「みゆきちゃんは水色がすきでしょ? わたしは赤がいいな!」
「水色も赤も色違いデザインのものがございますよ! お父様は青とかどうでしょうか? 黒もございますよ!」
俺は何も返事をしていないのに話が進んでいった。買わせようとする女の力はすごい。真愛は既に色違いデザインのキーケースをどれがいいかと選んでいた。


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