垂れる青
 

ギシリ、とベッドが軋んだ。
白いシーツの上に青灰の髪が広がる。
白いキャンバスに青灰の絵の具を零したようだと、余裕のない頭で思った。
はあ、と苦しそうに息を吐く女の口から赤い舌が覗く。
ぽろりと目尻から汗とも涙ともつかない雫が零れた。
シーツを汚した赤はもう止まったようだ。
それでも痛みからか、女はシーツをぎゅっと掴み、顔を歪めている。
唇を噛んでいるのは声を漏らすまいとしているのか、痛みに耐えているのか、どちらであるかは分からなかった。
遠慮がちにゆるゆると動けば、ぴく、と女の肩が小さく跳ねる。
はぁ、と息を吐く女の汗ばむ額に手をやると、伏せていた目を緩く開けて僕を見上げて小さく頷いた。
大丈夫かという問いはどうやら自分の顔に張り付いていたらしい。
女の唇がかすかに動く。

「−−−−」


聞き取れた言葉の意味は図りかねた。
それは一体、どれに対しての言葉なのか。
酒と熱でぼやけた頭ではうまく理解ができない。





どろりと何もかも溶けたような気がした。







開け放した窓から差し込む光で目を覚ます。
女は先に起きていたようで、身体を起こしぼうっとしていた。
するりと腰に手を回して首筋に吸い付くとぴくりと反応を返した。

「おはようございます。シャワーを浴びるの?」
「ええ、そう、あなたは?」
「僕は君の後でいいよ」

そう言ってパッと離れる。
女はそのままふらふらとシャワールームへ向かった。

ぼふりとベッドに沈み込み、昨夜のことを思い返した。
お互い酒には弱くなかったようで、次々とカクテルを頼み続け、気が付けば飲み屋の閉店時間だった。
暗い夜道に女の一人歩きは物騒だと、女を送ろうとしたところまでは良かったと思う。
きゅっと服の裾を掴みもたれかかる女に酒に酔って鈍くしか動かない頭は熱を持って、いよいよタガが外れてしまった。
抱きしめた身体は細くも柔らかく、どろどろと理性が溶けていくのが分かった。

やるまいと思っていたお持ち帰りをしてしまうとはなんたる失態かと頭を抱えた。
慣れているかと思えばそうでなく、ぎこちなく応える女を思い出しては頬が熱くなる。
シーツに染みて乾いた赤褐色をちらりと見やる。
二日酔いもなくすっきりとしていた頭が棒で殴られたかのように痛んだ。
まさか、まさか。

ガチャリとドアが開く。
振り向くと、タオルは……と声をかける女がドアからひょこりと顔を出していた。

「え? ああ、ごめん」

立ち上がりクローゼットからタオルを取り出して女に渡した。


シャワーを済ませてドアを開けると、ぽふぽふとタオルドライを続ける女が、シャワーありがとう、と微笑む。

「髪、乾かしてあげる」

柔らかい髪にブラシを当ててドライヤーでパパッと乾かした。
艶やかな絹糸の様な青灰の髪が綺麗だった。
柔らかい髪も柔らかい女もどちらも劣情を誘う。
まだ酒が残っているのか僕は。
邪な考えを振り払おうと頭を振った。
そういえば、この女は家とか宿に連絡しなくていいのだろうか。
飲み屋では常に1人だったが、もしかしたら連れがいるかもしれない(連れがいるかもしれないのにお持ち帰りした現実に頭痛が増した)。
この時には既に美人局という考えは綺麗に無くなっていた。
まさか慣れていない女に美人局をさせる程の鬼畜など居ないだろうと、むしろそうであってほしいと希望的観測からそう考えた。

「君は−−」

そういえば、まだ名前も知らない。
女がきょとんと首を傾げ見上げてくる。

「あ、いや、僕はリーベだ。君は? 君の、……名前は?」

問いに、微笑む女は一拍置いて、口を開いた。



「マリア、−−マリアというの」



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