青の絵の具と真っ白なキャンバス
 

緩く編まれた青灰色の髪の毛が綺麗だと思った。
長いそれは腰くらいまであり、紺色の服によく映えた。




場末の飲み屋でのことだ。
仕事帰りに幼馴染のチェルヴィエーレの家で夕飯をご馳走になった後、誰も帰りを待つ者が居ない暗い部屋にそのまま帰るのも虚しく思い、飲み屋に入った。
ざわざわと賑やかしい店内で、その女は1人でカウンター席に座っていた。
それなりにアルコール度数のあるカクテルを片手に、ぼんやりとした女だ。
見慣れない顔である。
整った容姿に曲線の目立つ身体つきの女なんて、この街では多くはない。
きっとどこからか流れてきた者だろう。
店の男達がいつものように寛ぐこともせず、そわそわと女を気にしているのもそのせいだ。
声をかけたくても互いに牽制しあい動くことができない男達を気にもせず、頬杖をつきつまらなそうにカクテルグラスをゆらゆらと傾ける女。
数日前にも同じ時間帯、同じ席で女を見た。
その日の僕は好奇心からふたつ隣のカウンター席に座った。
話しかけるつもりもなく、ただなんとなくの行動だった。
店の男達がざわつけば、それもそれで面白いと踏んでの行動でもあった。

席に座り、バーテンに酒を頼む。
飲み慣れた酒がくるのを、今日新しい入荷した本のことを考えながら待っていると、何やら横から視線を感じた。
知り合いでもいたか、と思い、横をちらりと窺えば、視線の主はどうやら青灰の髪の女だったようだ。
目が合うとにこりと笑いかけてきた女に、頬が熱を持った気がした。
なるほど、男達がざわつくのも分かる。
整った容姿は人を近付けようとしない印象だが、柔らかく笑うのを見ると話しかけてしまいたくなる。
じっと見つめてくる女と、周りの男達からの視線に少したじろいだ。視線がこんなに痛いのは初めてかもしれない。
にこにこと笑いながら見つめてくる女に、やぁ、こんばんは、おひとりですか? と無難な問いかけをしてみる。
女は笑みを深めた。

「ええ、1人なんです」

女のアルトの声が耳に心地良い。
人当たりは良いようだ。
にこにこと笑いながら返答をした女に、周囲の男達の視線がより鋭いものとなり、僕に突き刺さる。
その視線を振り払うように女に話をふる。

「あなた、よくここで飲んでますよね? 実は何日か前に見かけて、気になっていたんです」
「あら、見られていたんですね。相手もいないもので、1人で飲むしかないんです」

笑うこの女の意図が知れない。
この女は誘っているのか、美人局であるのか、ただ単にそういう女であるのか、真意が図れないままに言葉を紡いだ。

「僕も同じです。……一緒にどうですか?」

おいしく酒が飲めればそれでいい。
たまたま隣に座った女が綺麗で、たまたま少しばかり積極的だっただけだ。
美人局としても、お持ち帰りなんてことにならなければいいのだ。
すっぱりと線を引いて、楽しくおいしく酒を飲むことにした。

「ええ、ぜひ、ご一緒に」

夜が深まっていくにつれ、女の笑みは柔らかなものになっていった。
時計の針が日を跨いだ。



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