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今日は朝から忙しい日だ。小さなバッグにおにぎりとバナナ、・・・本当は、白鳥沢まで行って、ボール拾いでいいから翔ちゃんを参加させてください!って頼もうかと思った。でも、白鳥沢は部員数も多いしボール拾いに困らない。断られるのは目に見えている。それに、あの監督だし・・・。

今度、羊羹でも持って行こう。ついでにツッキーにはケーキだ。お詫びお詫び・・・!



何故こんな事をしているのか。勿論例の合宿が本日から、だからである。
腹ペコで帰る事になるだろうからなぁ。多少足しになるといいな。っていうか気付かないかもしれないから、終わる時間を見計らってメールも送っておかなきゃ。と、こっそりと準備をして学校へ向かう。

翔ちゃんだけ気にしているだけではいけない。もう1人、手のかかる子がいるのだ。とはいっても、こちらは武田先生がすっっっごく細かく教えているので基本的に問題は無い。保護者の鏡である。なので、私がやる事といえば・・・


「影山待って待って!」
「??ハイ?」
「明日から合宿でしょ、武田先生から、東京駅からの行き方書いた紙、貰ったよね?それにちょっと追記したい事があるの。すぐに終わるから借りていい?」
「・・・コレっす。」

す、既に皺になってる・・・。影山の命綱なのに!!

「ん〜・・・よし、これでオッケー!じゃあ合宿頑張ってね!道、迷ったら連絡するんだよ!!」
「あ、ハイ。・・・ッス」

うん、ふりがなです。ふりがな追記しただけっす。だって宇都宮読めなかったんだもん・・・あれは中々の衝撃だった・・・『う、うと・・・?』は二度見した。
ま、ともかく私が出来る事はこれだけだ。後は流れに身を任せていくしか無いんだ。


さぁ、今日の私はいかに自然にビックリするか、が仕事である。女は女優、女は女優・・・!



「影山無事着いたかなぁ」
「ルートは武ちゃんが細かく書いて渡したらしいし、大丈夫じゃないスか」
「ふりがなはちゃんとふったのかな・・・」
「え?」
「ふりがな・・・」
「・・・」

「ヘイ任せろ!ふったぜ!」
「「さちさん!」」
「ひなちゃんっマジで?!」
「うん!大丈夫だよ!」
「うおおおさすがだぜ・・・!!」

「さちさーんっ!日向、まだみたいなんですけど、何か聞いてます?」
「ぐっちー・・・ううん、知らないけど・・・」
「日向さんっ!!!」
「ビックリした!って武田先生・・・どうかしましたか?」

「・・・ちょっと。」
「・・・ハイ」


キャアアアアアア!先生笑って無いー!怖ー!!めっちゃ怖いィィ!!!


そのまま先生と体育館の外に出る。
「日向さん。・・・実は、日向君が乗り込んだようです。」
「は?」
「白鳥沢に」
「・・・」

女は女優とか言ってましたけどね、そんな事する必要ありませんでしたよ。だって!普通に怖いんですよ武田先生!!!思わず絶句してしまいました!!

「もっ申し訳ございません・・・!」
ガバーッと頭を下げる。

「あっイエイエすみません!そうではなくて、何かご存知かと思ったんですが・・・その様子ですと、ご存知無いようですね」
「ハイ・・・」
すいませんすいません知ってます。大いに知っております。何なら東京行くつもりだった事も知ってます・・・




その後体育館に戻ると、スガちゃんが
「ひなちゃーん。何だったの?」

「・・・実は・・・」




「は?」

「縁下・・・私二回も言えない・・・」

「のっ・・・えぇー・・・
例の1年合宿に乗り込んだらしいです。で、今白鳥沢にいるって・・・」
「ブフーーー」
「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃっ」
「やるなぁ翔陽!!」
「ーーほんと」


「やってくれる」



「ひぃぃごめんなさいぃ!!!」
「あ、いや、知らなかったんだろ?さちは悪く無いんだから、気にすんなよ。」
と、頭ぽんぽんされた。

いやもう罪悪感がぁぁぁぁ・・・!!すいませんすいません・・・!!ついでにぽんぽん嬉しがってすいません・・・!!!



「じゃあランニングー!」
「オアース!!」










そして、その日の夜。


カラカラカラ
「・・・ただいま」
「お帰り!」
「ねっ姉っ・・・姉ちゃん・・・」
「まずはご飯ね、で、お風呂に入って、その後お姉ちゃんの部屋ね!」
「ハイ・・・」




コンコンとノックの音。
どうぞ、と促すと翔ちゃんが入ってくる。
座るよう声をかけ、用意していたお茶を出してあげる。

「・・・あの、オニギリ、ありがとう・・・でもなんで・・・」
「翔ちゃん、あのね、私は別に怒って無いよ。」
「えっ」

パッと顔を上げた翔ちゃん。眉が八の字になっている。

「・・・強い人がどんな練習をしているのか、知りたかったんだよね。・・・あとは、影山や月島が選ばれて、自分が選ばれ無かった事への焦り。」
「・・・うん、・・・ごめんなさい・・・」
「翔ちゃんはすぐ行動にうつすでしょ。だからね、もしかしたらって思ってオニギリ入れといたの。・・・お姉ちゃんはね、翔ちゃんに相談して欲しかった。」
「!」
「そしたらさ、一緒に先生に頼みに行けたのに。説得出来たかもしれない。だけど、それをしなかった事によって、先生やコーチ、白鳥沢にいる監督さん達に迷惑をかけた。そこは反省しなさい。」
「あ・・・!ハイ・・・」
膝の上においてある翔ちゃんの手は、固く握り締められている。
両手で、その手を握る。・・・大きくなったなぁ。

「姉ちゃ・・・」
「ふふっ!ほら、そんな顔しないの!明日からまた帰りに食べれるようにオニギリ作ってあげるからね。」
「ごめん・・・」
「約束してね。今回の事で、自分がたくさんの人に迷惑かけちゃった事はわかるでしょう?・・・それに対するお詫びは、この合宿で、力を付ける事以外無いよ。」
「っでも俺、球拾いで・・・」
「コートの上には情報がいっぱいあるんだよ。ただ、球拾いするのか、考えるのかでは全然違う。・・・それを見つけるの。大丈夫、翔ちゃんなら出来る。」
「うん・・・おれ、頑張るから・・・!」
「よし!あ、でも明日は多分朝から色んな人に説教されると思うからね!それは心して置くよーに!」
「ウエッ・・・はい・・・」



私は何もできないけど、だからこそ信じてるからね。



翌日は案の定、朝練前に大地くん、昼休みにコーチ、放課後は武田先生と立て続けに説教をうけ、しおっしおに萎びた翔ちゃんでした。














「やだ萎びた翔ちゃん可愛い・・・写真写真・・・」
「ひなちゃんそれ盗撮だから。気付いて!」


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