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第3セットが始まった。

いや、これはもう本当に予選レベルの試合じゃない。試合は青城が優勢で進む。
旭くんのサービスエースがあり同点に追い付くも、すぐに取り返される。

・・・田中の顔が怖い。他校に喧嘩売る時の顔だ。どんどん険しくなるなぁ。あ、京谷くんか・・・。ま、まぁ気にしないでおこうと思ったその瞬間、ツッキーと田中のブロック位置が入れ替わり、ガンという音。

「どシャットオォォ!」
「っきたぁ!!」

ここだ!ココでこのブロックポイントは大きい!!流れが変わる。烏野に来るっ!そして、再び京谷くんがスパイクを打つもアウトとなり、烏野が9-8で逆転した。
そして青城タイムアウト!

「田中よくやったー!」
「ハイ?!」

しょりしょり頭を撫でてやる。素晴らしい習性!ヤカラも役に立つのぅ!まぁもっと素晴らしいのは見逃さなかったツッキーですけどね!



そして一旦京谷くんが下げられるも、再び戻ってきた時には冷静さを取り戻していて・・・再び一進一退の攻防。
やっぱり、及川さんは凄い。バレー脳発達し過ぎだ。本当に、選手の最大を引き出す能力が凄い・・・!
だから影山が焦ってる。

だけど、彼は1人じゃないんだ。





「俺が居ればお前は最強だ!!」





翔陽がいる。烏野がいるから影山も生きれる。ひとりじゃなくなった影山は、強い。

それにしても、頼もしい事言っちゃって。ほんと、男の子はいつまでも子供だけど、いつのまにか大人だ。

「打ち下ろせ!」
影山の叫び声に反応し、翔ちゃんが手首だけでスパイク。アタックラインよりも手前、真下にボールが落ちる。

「っしゃ!!」

うわぁぁー!!凄い凄い!!いつのまにあんな事出来るようになったんだ!!スナップだけで打つスパイク大好き!!格好良い〜!
やだー弟ながら最高か!そんで自分で打ったくせに自分からが1番驚いて感激してるとか可愛過ぎか!!
「翔ちゃん格好良い・・・可愛い・・・!先生うちの弟ヤバくないですか!!」
「え、ええそうですねぇ、日向くんは凄いですね!」
「ですよね!!ですよね!!」
「・・・(先生、否定しろよ・・・)」

コーチが顔と目で語ってくるし通じてるけど気にしない!最高だわ翔ちゃん!!

なんて、思ってたけれど。
それでも点差は離れてくれないのだ。
22-23。この場面で及川さんのサーブ。

ここで・・・今までで一番良いサーブって・・・ノータッチエース・・・

凄い。きっと、及川さんはここでここまでのパフォーマンスが出来るように、ずっと練習して来たんだ。圧倒される、感動すら覚える。
なんて格好良い人なんだろう。

それでも、それでも・・・。

烏野はタイムアウトを取る。

「拾うしか無いっすね。」

大地くんはなんて事無いように言う。自分に、言い聞かせているんだ。
そして、それがわかるから

「触りゃあ何とかなる!!


負けねぇよ 俺達は」


その背中を押す仲間がいる。

ピーーとタイムアウトが終わる。皆からタオルやらドリンクやらを受け取る。
「絶対勝てる。」
一人一人に、そう言って受け取る。皆、いい顔してるなぁ。誰も諦めて無い。それしか言えない私は、役に立たないなぁ・・・。

再び試合再開。及川さんのサーブは大地くんが綺麗に上げる。そして、旭くんのパイプ!

「っ!!!」

言葉にならない。たくさんの思いが詰まったレシーブとスパイクだった。
ふいに上を見上げると、潔子ちゃんと目が合う。きっと同じ思いだったんだろう。お互い、口角を上げ、頷き合う。

そして再びスガちゃんがコートへ。
サーブは岩ちゃんを牽制。エースに打たせ無いように。
そして、翔陽のブロック!!影山に思っ切りぶつかったから後で謝る!でも止めた!!
「止めた!!」
「っしゃあ!!」
ああ、スコアなんか書いてる暇が無い!!あとで、後で書こう!追い付いた・・・!!こんなの見逃せない!



「かげやまぁぁあ!!!」

何っじゃーそりゃああああ!!!!ぎゃー!!って言いながら先生とハイタッチ!!痛い!!お互い力加減無しだ!!ここでツー!ツーアタック!!ぬあああどんっだけ負けず嫌いなんだコイツ!青城対伊達工で最後の方に及川さんやってたよね!スゲー!どんな心臓!25-24で烏野マッチポイント!このまま行けーと思ったけどタイムアウト!皆が戻って来たので、影山にはタオル渡しついでにワッシャワッシャしてやった!
「とびおちゃん最高かよ!翔ちゃんがごめんね!この負けず嫌いめ!バレー脳どーなってんの最高かよ!」
「えぶっ!ちょ、やっめっぶっ」
「日向さん落ち着いて!!」
ちょっと嫌がられたけど気にしない!!

そして、最後のボール。
東峰のスパイクで乱すも、及川さんの超ロングセットアップ・・・!!

ブロックは追い付けない。凄い。なんて綺麗なトスなんだろう。そして、彼の1番の武器である岩ちゃんが打つ。ボールは大地くんの腕を弾き後方に飛ぶも、田中が追いつく。それを旭くんが返す。
息をするのを忘れるくらい見入っていた。

ラスト、影山は翔陽へとボールを託す。

きっと、及川さんが1番の武器を選択したから、影山も選択したんだ・・・翔陽を。
2人にしか分からない、何かがあった。
この2人は間違い無く宮城で1.2のセッターだから。

翔陽が打ったボールは、及川さんの手を弾き、後ろへと外れて・・・ボールが、落ちた。


「ーーーやった・・・」
「勝った・・・」

勝った・・・勝てた・・・あの、青城に。
嬉しい・・・嬉しいんだよ、すごく凄く嬉しいっ・・・!!
あの絶望から、勝てる所まで来た。っ堪えようと思うのに、勝手に涙が出て来る。







あぁ、だけど、だけど。

青城が、負けた。青城は、たくさんの部員がいる。その中で掴んだレギュラーという座。きっと、ずっと競争があったんだ。
こんな気持ちになるなんておかしいかもしれないけど・・・。負けた後の事を、私は知っている。だから、悲しいんだ。悔しさを知ってるから・・・。この涙の半分は青城の分なんだろう。

でも、だからこそ次も勝つ。烏野に負けたチームの分だけ、悔しい思いをしたチームの分だけ勝つ。勝ち進まなければいけない。



それでも今は、喜びが勝る。

勝てた・・・知ってた筈なのにこんなにも嬉しい。皆が頑張ってた事を知ってるから。あぁ、良かった・・・

ぐしぐし涙を拭って顔を上げると。


「・・・え?!」

何故か皆にめっちゃ見られてる!

「なっ何?!」

「ぷっ・・・ひなちゃん、明日も試合あるから!泣き過ぎだしっ・・・」
「「「あはははは!!」」」

えぇ?!そこ?!
はっ恥ずかしい!!つーか!
「うるさいわ!おめでとうこの野郎どもが!!」
「「「キャラどこいった!」」」

ほっとけ!

くっそめっちゃ笑われたー!涙も引っ込んだわ!!
わはははと笑われたり、微笑ましく見られたり、からかわれながら片付けをして、バスで学校まで戻る。

青城の人達が流した涙の分まで、勝たなきゃ。


バスの中では皆が寝てた。大変な試合だったもんね。


いよいよ、明日だ。





夢が叶う日。

二度と、『飛べない烏』なんて言われる事が無くなるんだ。






気合いを入れて、バスでは寝ないようにしていたのに、気付いたら夢の中だった。

なぜか、入学した時の事を回想のように振り返る夢だった。懐かしい日々を。








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