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「チース」
「嶋田さん!こんにちは、お久しぶりです!」
「こんにちは、今日はお一人ですか?」
「たっつぁんさん、仕事ですか!よかったあの人暇しすぎでお店心配してたんです!」
「ははっ何その心配!でも午後なら行けるかもって言ってたよ。」
「オオーッ!テンション、アガる!」
「!冴子さん!お久しぶりです〜」
「さち〜!久しぶり!こーゆーの血が騒ぐよね〜!あっどーも!龍之介がいつもお世話になってます!姉の冴子です!あっ龍〜〜〜!龍ちゃ〜ん!!」

はい、代表決定戦、2日目です!相変わらず賑やかな冴子さん、誘って無くても来てくれたぁー!!
原作はどうだったかな、忘れちゃったけど、自ら来てくれたって事が嬉しいなぁ。

初戦は和久南戦。
私はベンチには行かなかった。これは、完全に私の我儘だ。


何が起こるか、知ってるから。




直ぐに試合開始となる。そして一進一退が続く。やっぱり流石、上手いなぁ。

点数が重なって、19対17。

確か、20点目だったはずだ。本の中で田中に20点目が入ったって言ってた。そうだ、1番長いラリーが続いて、ブロックアウトを狙ったボールを大地くんが飛び込んでレシーブして、

「っ危ない!!」



咄嗟に出た言葉は思いの外大きかったようで。
えっ?と、視界の端でやっちゃんや嶋田さんがパッと振り向いたのがわかった。けれどその時私は弾かれたように走り出していた。

凄い音が、したんだ。そんなの知らないよ、だってあんな、あんなガンって・・・!!
下に降り、体育館の入り口で立ち止まりコートを見る。



「・・・え?」




なんで、



なんでまだ起き上がって、無いの・・・?



冷やりと冷たいものが背中を走る。





「だいち、くん・・・?」





震える足に叱咤し無理矢理動かす。



ベンチまで辿り着いたところで
「ーう〜っ!いてぇ〜」

と、漸く大地くんがゆっくりと起き上がる。



っよ、かった・・・!!はぁっと息を吐く。

「澤村君!今いる場所は?!」

先生のが頭部に問題が無いか確認。指示により澤村が医務室へ行く事に。この頃になって漸く落ち着いて来た。コーチが付き添い、私も行こう。っとその前に!

「縁下!」
「!」

「代わりにならなくていい。貴方は貴方として出来る事が沢山あるから!!それを忘れないで!頑張って!!」

これだけ、伝えたかった。
縁下は凄いんだ。自分の弱さを知ってる。絶対大丈夫!ニッと笑顔を見せて、大地くんとコーチの後ろからついていく。

入り口を出たところでやっちゃんから声をかけられる。これを、と差し出されたのは澤村のジャージ。・・・どんだけ焦ってたんだ自分・・・!私が付き添うから、嶋田さん達に、大丈夫だって伝えておいて貰うよう頼んでおく。「しゃち!」と元気よく挨拶を貰う。あぁぁやっちゃんのがよっぽどしっかりしてる・・・!
再び2人の後ろからついていく。

医務室に着いて先生に見て貰う。幸い頭は問題無し。よかった!でもあんなの痛いに決まってる。歯の神経が傷ついてるかも。口内の出血なんて中々止まらないし・・・!

「口内の血が止まって、痛み止めも効いたら戻ってもいいよ。」
「っ!それ、どれくらいの時間すか?!」
「痛み止めは効くまで30分はかかるかな・・・。」
「そんな、遅過ぎる・・・!痛みくらい我慢します!戻らせて下さい!」




は?




「ーーー気持ちはわかるがな、澤村、あのなぁ、「何言ってんの?」
「え」
「ひ、日向・・・?」

「痛み堪えてベストじゃない状態で出てどうするの?それで勝てる相手じゃないでしょ。」

「っでも!!俺が戻らないと「落ち着きなさい澤村大地!!」
バッと振り向いた大地くんの顔を両手でばちんと挟んで目を合わせる。

「貴方が今すべき事はしっかり休む事!!自分が主将を務めるチームを信じる事!!!わかる?!」
「!!!」
目を見開く大地くん。


「和久南には今コートにいるメンバーで勝てる!勝ったら次の試合、伊達工か青城!もっと苦しい戦いになる!!ちゃんと安静にして、次の試合、人一倍働きなさい!!」



「・・・さち」
「・・・なによ」











「・・・・・・・・・痛い・・・・・・」





はっ!!!!


「うわああああああごごごごめんごめんごめんなさい!!!ど、どうしよう大丈夫?!わあああ」
「ぶっは!お前が落ち着け!」
「せっ先生どうしよう!だ、大地くん死ぬ!!」
「いや殺すなよ!ぶはははは!!」
「死なないからね、マネージャーさん落ち着いて!」

ひいいいやっちまったぁぁ!!!!そのまま両手で大地くんのほっぺを摩る。

「大丈夫?!ごめんね本当ごめん!!痛い?!痛いよね!わああごめんねぇぇ!!」
「ふ、はははっ大丈夫だから。・・・お陰で落ち着いた。」

「はははは!ま、日向の言う通りだ。お前はとりあえず休んどけ。俺はもう戻る。勝って、次の舞台用意してやるから休んでろ。」
「・・・ハイ。」
「わ、私付き添っておきますので!」
「おー。澤村が勝手に帰って来ねーよーに見張ってろ〜」
そう言ってコーチは医務室を出て行った。
あああ!!!
「せっ先生今更ですけど騒いですみません!!」
「ほっほっほっ!今更だねぇ。ま、今患者さんいないし、ベッド使っていいから、そっちで休んでなさい。それと、コレで患部を冷やしておくように。痛み止めが効いて、痛くなくなったら戻っていいからね。」
「本当すみませんでした・・・。」

すごすごとパーテーションで仕切られたベッドへ向かおうと思ったらあああああ!

「大地くんのジャージ落としてしまいましたすみません・・・」
「はははっ!いいよ、ありがとう」

大地くんはベッドに座り、私はその前に置いてあった椅子に座る。
ああああやってしまった・・・最悪・・・悪化させてどうするよ・・・。駄目だ、ちょっとこれ頭冷やそう!

「私、ちょっと試合の様子見てくるね。どーせだし寝てたら?寝転がって目瞑っとくだけでも疲労回復になるらしいし。」
「う〜〜〜ん・・・」
「気になるのはわかるけど、ちゃんと休んで。」
「・・・わかった。」
「じゃあすぐ戻ってくるから」

そう言い残して医務室を出る。
試合は2セット目の最中。やっちゃんのところへ向かい、多分フルセットになるから15点3セット目15点くらいになったら連絡して欲しい事を伝え、・・・冷たい水ってしみるよね。いや虫歯じゃ無いけど。歯折れてたもんね・・・。冷やしてない水や必要なものを持ち再び医務室へ。そうっと中に入っていく。あれ、先生がいない・・・10分程席を外す書き置きがあった。

そっとベッドを除くと、眉間に皺を寄せている大地くん。・・・痛そう。大丈夫かな・・・。
「冷たくないお水、持ってきたよ。」そのまま先程のベッド脇の椅子に座る。
「ありがと。試合どうだった?」
「1セット目はとれた。今は2セット目。やっちゃんに実況頼んで置いたからとりあえず横になっておきなよ、まだ痛いでしょ?」
「あー・・・そうする。」

ごろりと横になって目を瞑る大地くん。

その姿を見て、漸く息を吐く。・・・良かった。無事で良かった・・・。
どうやら自分でも気付かない程、相当神経をすり減らしていたみたいだ。

現実は、簡単じゃない。影山の鼻血もだけど、やっぱり紙面と現実では全然違う。聞く事の無い音、血の匂い。大地くんは、ぶつかってすぐに起き上がって無かった?やっぱり私という異分子がいるから、何かしら悪い方にいってるんじゃ・・・。
自然と、ぎゅっと手を握りしめる。手が、小さく震える。
どうしよう。どうしたらいいんだろう。


「・・・さち」

大袈裟なくらいビクっと肩が震えた。

むくっと起き上がる大地くん。
握りしめていた手が暖かくなる。・・・大地くんの手だ。

「お前、またネガティブな事考えてるだろ。」
「っ!え、なんで・・・」
「勘。」

えぇ・・・


「あのさ、俺はね、この怪我ラッキーだったと思ってる。」
「え!」
「バレーの試合中に怪我はあるけど、例えば捻挫とか手足の怪我だったら今後試合出れないだろ。そう考えると痛み止め飲む程度はラッキーだろ?」

「・・・うん?」

そうなのか?

「怪我しないに越した事は無いけどさ、でもそう考えると最悪じゃない。だからさち、そんなに重く考えんな。大丈夫だから。な?」



「・・・うん」

「俺がそう言ってんだから、それでいいって思っとけよ!」
「っわっ」
くしゃりと髪を撫でられる。


・・・優しいなぁ。いつもこうやって、ずるずる沈みそうな私をすくい上げてくれる。


「・・・ありがとう。」

「・・・ん、よし!じゃあ俺は遠慮なく体力温存する!だいぶ痛み止めも聞いてきたし。寝る!」

「うん、・・・ありがとう。」

にっと笑ってまたごろりと横になる大地くん。


こんな何も出来ない私にも優しい。
凄いなぁ。ありがとう。














「・・・あの」
「んー?」
「っ、て、手・・・」
「・・・患者の特権って事で。」


「・・・・・・耳が赤「うるさい!」」



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