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翌日、起きてきた翔陽。
少し目が腫れていたので冷たいタオルを渡してあげる。
ちょっとだけ恥ずかしそうに、でも笑顔でありがと、と言ってくれた。
今日は朝練は無しだから、ちょっと遅い登校時間。夏ちゃんも、朝、笑顔でおはようと言ってくれたお兄ちゃんを見て、ホッとしたような、 嬉しそうな笑顔を浮かべ大きい声でおはよう!と言ってくれた。
いつもの日向家の朝が、戻ってきて 嬉しかった。




その日の昼休み、クラスに東峰、潔子ちゃんが来た。
3人は教室の外のベランダへ。潔子ちゃんと私は教室の中。3人の声が聞こえるくらいの窓の近く。

「さち、あのね、」
潔子ちゃんが何か言おうとした時、ふいに澤村の声が聞こえてきた。
「ーー俺は、ここで退いた方がいいと・・・思ってる」
はっとした顔をして振り向く潔子ちゃん。

大丈夫だよ。思いを込めて笑顔を返す。だって私は知っている。大地くんの本音を。

今日は朝からずっと考え込んだりぼぅっとしたりしていた大地くん。心配したけれど、理由なんてわかっていたのであえて何も言わなかった。

だって、スガちゃんが大地の本音じゃないって言ってくれる。彼の本音、やりたいって言わせるのは、やっぱり3年間同じコートに立ってきたこの2人じゃなきゃダメなんだ。


「・・・俺は・・・」


真っ直ぐな瞳。

光の戻った、真っ直ぐな、私の大好きな目だ。



「俺は まだやりてぇよ!!」
ーーお前らと まだ、バレーしてえ」




自然と口角が上がる。うん、やっぱりそうゆう、真っ直ぐな目をしてるのが1番大地くんらしい。
潔子ちゃんも、ホッとしたようで少し口角を上げている。



万が一スガちゃんが説得しなかった場合は全員にビンタでもして目を覚まさせてやる!とか思ったけどそうならなくて良かったー。
いやー泣き落としとマジ切れのプランしか出て来なかったので脳内会議の結果、マジ切れが採用されたんです。すみません・・・。
スガちゃんも、東峰も笑顔だ。良かった・・・!


「ーー大体巣ごと飛ぶって言ったの大地だべ〜!」
「おまっ良く覚えてたな!ってここで言うなっての!」
「ハイハイごめんごめん」


チラチラこっちを見たりスガを見たり忙しく動く大地くんの目線。

・・・うん?何の話だ??そんな台詞あったっけ?
はて?と思ってると、潔子ちゃんが再び口を開く。

「さち」
「ん?どうしたの?」
「もう一度、後輩マネージャー勧誘しよう。」
真剣な目で私を見つめる潔子ちゃん。
「この仕事も、繋いでいかなきゃいけないって思った。
それに、貴女に誘われて良かったって言ったでしょう?だから、今度は私が頑張って、新しい子を見つけたい。任せて欲しい。」


・・・まさか、こんな風に話してくれるなんて・・・。正直、私から話そうと思っていた。4月はチラシを貼るくらいしかしていなかったけど、何も言わなかったから・・・。
あぁ、嬉しいなぁ。

「わかった、じゃあ任せる!」
「ありがとう。」
「でも、チラシ作りとか、手伝えることがあったら言ってね、無理しないでね!」

潔子ちゃんは嬉しそうに頷くと、そのまま教室を出て行った。

なんかさ、皆成長したよねぇ。それを見る度に嬉しくて泣きそうになる。よく考えてみると中身年齢は完全に皆の親世代だし・・・。自分の時はどうだったのかな、今になっては忘れてしまったけれど。





その日の授業が終わった時。

教室の入り口を見ると、ちらちら見えるオレンジの髪。入り口へ向かう。

「翔ちゃん何やってるの?」
「!!!」
「あ、ねっ姉ちゃん!」
「超不審だったよ。何かあった?」

あくまできょとんとした顔で言う。
確か引退するんじゃないか心配で来たんだよね。

「あのっ」
と言いかけたところでスガちゃんが教室から出てきた。
「あれ日向だ。ひなちゃんも、姉弟揃って何してんの??」
「!!!」
「なんか挙動不審な翔ちゃんがいてさ、」

「菅原くん、日向さん。」
と、ここで武田先生の登場である。
「他の3年生と一緒に、ちょっといいかな。」
「ーはい。」

「と、いう訳だから、翔ちゃん。」
「あ・・・」

ふふっ心配そうな顔しちゃって。

「他の1年と2年に、3年は全員ちょっと遅れるかもしれないって伝えてくれる?」
「!!」
「大丈夫だよ。ね?」
さぁ、大好きな部活の時間だよ。だから笑って。

頭をぐりぐり撫でてあげる。

「!うん、わかった!」
後でね、と手を振り合う。あぁぁぁ可愛いなぁもう。やっぱり天使だわうちの子!

その後は武田先生に将来の話をされて。
私は春高行く気満々だったため、以前から良い成績キープはしていた。
元々苦手な数学なんかもう必死だ。でも、なんせ二度目なもので、前より理解は出来る。昔は頭の良い子の勉強方法を聞いても実践なんかしなかったけど、今世はそれプラス傾向と対策でクリアしてきたのだ。

だけど、いざじゃあ将来の夢は?って聞かれると、悩んでしまう。前世は結婚してぇ!という独身アラサーなまま死んだから、今世は結婚して幸せな家庭を築きたい、が夢だし。うーん、でも翔陽や夏ちゃん見てたら、学校の先生とかいいなぁっとも思う。小学校の先生とか。
でも私がそんな職に就く頃にはモンスターペアレントが!とか余計な心配してしまったり。
でも、とりあえず大学は出ておきたいからそれは決定だけど。そーいや皆はどこの大学行くんだろ。東峰以外進学だよね。・・・今度聞こう。・・・大地くんはどこに行くのかな。あんまりそんな話してきた事無かったけど。大地くんって学校の先生とか似合いそう。・・・ハッいかんこれ以上想像したら格好良すぎて鼻息が荒くなるわこれ!わー真面目な顔して座ってたけど、全然武田先生の話聞いてなかったー!
グダグダ考えてる間に部活だー!遅れるー!と急いで体育館へ入ると、・・・あれっ2年がソワソワしとる!
1番最初に入り口を開けたスガちゃんが、そんな2年をみて、ニッと笑って

「行くぞ、春高」

って言うと田中やノヤっさんの、
「おっしゃあああ!」っていう声と、翔陽の
「だから!来るって言ったじゃないスか!もー!」という声が被って聞こえた。
うふふふ、信じてくれた翔陽マジで天使だわー。いい子いい子。



そして、その日の練習後のミーティングで、IH宮城の結果・・・青城と白鳥沢の決勝戦、白鳥沢が勝った事が伝えられ、改めて大地くんからも、もう一度、東京、オレンジコートへ行くと宣言。
皆の気合いも十分だ。

昨日、負けてしまったから翔陽のことが1番心配だった。影山も山口も月島も、皆の事も心配していたけど、大丈夫そうだ。
皆、強いなぁ。・・・羨ましい。私も見習わなきゃ。


ってほわーんっとしてたら!
バンッと凄い勢いで武田先生がはいってきて物凄いびっくりした。それはそれはびっくりした。油断してた!
「行きますよね?!」
「どこに?!」
「鼻血でてます!!」

「東京!!」

そうだ東京遠征だ!わぁもうそんな時期か!!早いなぁあ!!と思いながら先生にティッシュを渡す。
遠征、音駒とか梟谷とか・・・おおおお・・・!本物に会えるんだぁ!ますます今後が楽しみだ!










・・・その前に、うん、わかってるんです。アレだよねぇ、アレ。



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