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つい先日、インハイの組み合わせ結果が出て、一回戦で勝てば2回戦で再びあの伊達工と対戦。そして、それも勝てば次に青城との対戦。
なんだか合宿が終わったのが随分と前の事のように思えるほど、部活漬けの毎日だ。


何だろう、不思議な気分だ。変わらない物語なのに、毎日練習を見てると、何か、勝てるんじゃないかとか思ってしまう。



そんな事を思いながら日々を過ごしている。
次の授業は何だっけかなーなんて思って廊下を歩いてると


「日向さん」
「あ、道宮さん」
「ごめん、澤村いるかな?」
「あ、いると思うよ、ちょっと待っててね。」

教室を覗くと、丁度スガちゃんと話す姿。

「だぃ・・・、・・・。」

てってってーと入って行ってとんとん肩を叩く
「大地くん、道宮さんが呼んでるよ。」
「え?」
「澤村〜〜」
書類片手に入り口で道宮さんが大きい声で呼ぶ。
「スガ、ちょっと行ってくるな、さち、さんきゅ」
ガタっと立ち上がって入り口へ向かう。
道宮さんはそのまま「日向さんありがとー」と手を振ってくれたので、振り返し、自分の席に向かう。

話の内容なんて、壮行会の話だと分かっているのに、気になって入り口を見ると、笑顔で話す道宮さんと澤村。
見たら凹む事ぐらいわかってるのに見て案の定凹むとか何やってんだろ私。
はぁ、とため息をこぼすと

「ひーなちゃん」
ガタっとスガちゃんが前の席に座る。
「ひなちゃんも気付いてた?道宮のこと。」
「あ、あーうん、大地くんの事・・・。」
「うん。さっき名前を呼ばなかったのは気を遣ったから?」
「あー・・・へへ、うん。」

その通りだ。苦笑いしか出来ない。
なんか、何でかな、彼女が澤村って呼ぶところで私が大地くんって呼んで、彼女を傷付けることになるんじゃないか、でも今さら大きい声で澤村、なんて呼んで、理由を聞かれても上手く答えれ無いし・・・。呼びたくないなぁと思ったのだ。

「なー、なんでさ、ひなちゃんはそんなに道宮に遠慮すんの?」
「え、遠慮とは」
「だってひなちゃんも好きなんでしょ?大地のこと。」
「あー・・・」
「俺からしたら、わかりやすいもん。ま、他は誰も気付いて無いと思うけど。」
「そっかぁ」
「で、なんで?」

どうしましょうスガちゃんがグイグイくる。

「・・・道宮さんが素敵な人だから、なんか、お似合いだし・・・敵わないなぁって・・・」



「は・・・?何それ本気で言ってる?」




ポカンと口を開けたかと思うと、一気に眉間に皺を寄せて少し怒ったように言う。

「うん。それに、大地くんにとって私はそーゆー対象じゃ無いんだよ。」
「え、待ってどういう事?」
視界の端で、澤村が教室に戻って来たのが見えた。

「お帰り大地くん。壮行会のこと?」
「おう、当たり」
「挨拶、まだ考えてないの?」
「そーなんだよ、やべーよな。」

そんな会話を続けていると、スガちゃんは、何か言いたそうな顔をしていたけど、澤村が戻って来た事に気付いて、何事も無かったきのような表情になる。

しかし、やっぱりスガちゃんにはバレたかぁ。本当は言ってしまいたかった。澤村は、私のこと妹みたいに思ってるんだよ、って。そしたら優しいスガちゃんは、そんな事無いって言ってくれそうだから。・・・そんな事無いって言われたかった。自分がちょっとは楽になりたいから。

ほら、スガちゃんの優しさを利用しようとするなんてやっぱり私は性格が悪い。こんな奴、澤村には相応しく無い。


いいんだよ、マネージャーとして必要とされたし!それでいいんだ。




無理矢理納得させて、自分に嘘をつく。まだ、平気なフリが出来るから。









さて、予選まで明後日と迫ったある日。

「あ、清水〜〜!大地が肉まん奢ってくれるって言うんだけど・・・」
「ゴメン・・・私、やることあるから・・・」
「ふーん・・・お疲れ!ひなちゃんは行・・・あれ?」
「さちさんなら先に帰ったみたいっスよ」
「へーめずらしい・・・」





「お待たせ。・・・ふふっそこに隠れてたの?葉っぱついてる」
「あはは、ありがと!こんな時間にお邪魔しちゃって大丈夫?」
「ウチは全然。さちこそ大丈夫?何なら泊まって行ってくれていいよ。」
「え?!潔子ちゃん家にお泊り?!なんて魅力的!!でも、突然だし」
「まぁ、終わる時間次第だね。」
「うん!今日は仕上げだからそこまでかからないだろうし!」


はい、横断幕である。
これはやっぱり潔子ちゃんが『がんばれ』を言うべきだ!と。ぶっちゃけとっくに発見してたけど隠しといて良かったー!潔子ちゃんに発見させ、武田先生を巻き込みサプライズだ。
明日はもう予選前日のため、こうしてこっそり潔子ちゃんと落ち合い、潔子ちゃん宅へ向かっている。


「ただいま」
「あらお帰りなさい。」
「お邪魔します。初めまして!同じ部活の日向さちです。」
「まぁ貴女が!いつも潔子に良くしてくれてありがとうね。」
「いえいえとんでもない!」

潔子ちゃんのお母様・・・は、う、美しいっ・・・!え、お姉様でなくて?!お子様いらっしゃるんですか?!と衝撃を受けていると、更に奥から潔子ちゃんによく似たイケメンが歩いてきた。潔子ちゃんのお兄さんかな?

「初めまして潔子の父です。」
「はっ初めまして・・・!」
父?!父・・・だと・・・?!
「お父さんまで出て来なくていいのに・・・」
「まぁ潔子ったらテレちゃって。さちさん、夕食、食べて行ってね。」
潔子がお友達連れてくるっていうからはりきっちゃったわーとにこやかに話すお母さん・・・いやお母様?お姉様って感じ。
「もう、後でいいから!さち、2階が私の部屋だから早く行こう。」
「じゃあ、また夕食出来たら呼ぶからね。」
「はぁい」



「潔子ちゃんありがとうもう目が幸せです。」
「え?!」
「美しい・・・あのご両親からこの潔子ちゃんが生まれたのね・・・納得した・・・!」
「そんな、若作りなだけよ。さちの両親はどんな感じなの?」
「うちのお父さんは中身翔陽だよ・・・」
「ふふふっ!楽しそう」
「あとねー夏ちゃんって妹がいてー・・・」

なぁんて話をしながらせっせと横断幕を繕っていく。潔子ちゃんは裁縫が得意のようでほとんど直す所が無くて、予定より大分早く終える事が出来た。
そしてお言葉に甘えて夕飯もご馳走になった。夕飯まで美しかった。ちがあっ間違えた、美味しかった。ンマァ!ベルサイユ宮殿の晩餐会かしら?!と思ったくらいだ。
その後、潔子ちゃんと、潔子ちゃんのお父様が自宅まで送って下さった。ら。今度はうちの母の目がハートになり、一緒に出て来た夏ちゃんは、「王子様・・・!お姫様もいる・・・!」なんて目をキラッキラにして言うから皆で笑ってしまった。





翌日のサプライズは潔子ちゃんの『がんばれ』効果があったようで、皆泣いてた。ガタイのいい男ともが「こんなの初めてっ・・・!」なんて言うからちょっと笑ってしまった。1年生のポカン顔も面白かった。





何はともあれ、いよいよ予選開始だ!













ちくちくちく


「・・・ねえ」

ちくちく

「んー?なにー?」

「・・・澤村とはどうなってるの?」

ブスッ

「痛っ!え、あ、え、どう、どうって?!」

(分かりやすい・・・)


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