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翔陽が東峰に会いに行った日の部活の時間。
GW合宿最終日、音駒との練習試合をが行われることが皆に知らされた。
その日の夜、再びバターンという音と共に翔陽が突撃訪問してきてGW合宿知らなかった!教えておいてよー!合宿って何やるの?!とか、アサヒさん、どーやったら戻って来てくれるかな?!とか、一頻り喋り倒して出て行った。嵐か。
と思ったら次の瞬間再びバターンとドアが開き夏ちゃんがお姉ちゃんあやとりしよー!って入ってきた。嵐か。・・・なんなのこの弟も妹も可愛すぎかよちくしょう!と顔面崩壊して全力で遊んであげた。



その翌日。
お昼休み、ゆきちゃんとお弁当を食べようと思ったら大地くんが近付いてきてちょっと部活の事で、と言うのでゆきちゃんが気を使って、席を外してくれた。
そのまま私の前の席に座り、一緒にご飯を食べる事に。
スガちゃんは進路相談で職員室らしい。


「日向と影山が、旭に会いに行ったって聞いてさ。」

「ふふっそんな気になるなら本人に聞けばいいのに」

あんまり俺が行くのもさー。旭の意思で戻って来ないとって思うし!日向にプレッシャー与える訳にも・・・。と。
成る程、わかってたけど、やっぱり相当気になってるんだなぁ。

「ちなみに今日も行ってるよ。」
「んぐっ!」
「エェッ!」
連日訪問とは思ってもみなかったらしい。
そんなに驚くと思って無かった私も驚いて、ペットボトルの蓋を開けて差し出すと勢いよく飲みこむ。

「・・・っわ、悪い。ゲホッ、きょ、今日も?!」
「だ、大丈夫?そうそう、昨日の夜アサヒさん戻ってきてほしいなーエース見たいなぁーって。」
「はー・・・」
「なんかアサヒさん居ないと、2年生も3年生も元気無いし!だって」
「っ」
「翔陽は、チームになれたことが嬉しくて、皆の事が大事で、大好きだからね。ネットのこっち側が気不味いのが嫌みたい。」
「うん」
「あの子、真っ直ぐだからね。きっと旭くんの事動かせるよ。影山くんを動かしたみたいにね。」

大地くんは腕を組み、嬉しそうな、ちょっとバツが悪そうな笑みを浮かべ、はーっと溜息を零した。

「俺もまだまだ、だな。後輩に気を使わせて」
「ふふ、頑張って、主将!」
「おー・・・。」

大丈夫だよ、貴方がずっとずっと東峰を心配していた事を知ってるから。それは皆にも伝わってるからね。




「あっそれと、合宿の練習メニューなんだけど」
「あ、うん、でも今年はコーチと決めた方が・・・」
「コーチ?」





し ま っ た





「・・・ん?」
「・・・さち?」
机に肘をつき頬杖をついてにっこり笑顔で見つめられる。

ひいい!うわー言うつもりなかったのに!ぁあああえーとえーと・・・
で、でもたしかもうすぐだ、音駒との練習試合があるって聞いて、町内会チームと練習試合?をする時にいる筈!
つーか武田先生、ほんとに誰にも言ってなかったんだ申し訳ない・・・

「あー・・・その、武田先生が、指導者を探してくれておりまして・・・」
「えっ!本当に?!」
「うん。OBの人らしくて。合宿くらいの時期には良い返事が貰えるかも、って・・・だから、まだわからないんだけど・・・」
「へー!いや、有り難いなぁ!でもなんで知ってたんだ?」
「わ、たしも偶然知っただけで、あんまり言って期待させても無理だったら申し訳なかったんじゃないかな。」
「あーそうかそうか!いやーでも、西谷が戻って、旭も戻って来てくれて・・・指導者も来てくれたら本当に、烏野は強くなると思う。勿論俺達の努力ももっと必要だけどな。楽しみだな!」
「うん、楽しみだね!」

大地くんが嬉しそうだ。なんだか、嬉しいことがあった小学生のような目だ。
そんな顔をされるとなんだか自分まで嬉しくなってくる。




「で、お前も動いたんだろ?」
「え、な、なんで?!」
「当たりか。・・・だって指導者探してる事を知って、お前が何もしないなんて考えられない。まして武田先生はバレーに関して素人だしな。色々動いてくれたんだろ?」
「いや、私はほんとに何も、っ!」
「ん、そう言うならいいけど。・・・ありがとうな。」

そう言って、また、優しい目で、くしゃりと頭を撫でてくる。
暖かい、大きな手だ。



胸がぎゅーっと痛くなる。
・・・この手が、好きだ。
本当は、振り払うなり、逃げるなりすべきなのに。

廊下の方で誰かがさわむらーと呼んでいる。
おー、と返事をし、また部活でな、と言って立ち去っていった。
その手が離れていくと、涙が出そうになり慌てて机に突っ伏した。




私はなんて狡いんだろう。
指導者探しは、元々私が言わなくても、武田先生自ら探し出して来てくれるのだ。
少しでも早く、と思っての行動だったけれど、
私は、何処かでこの流れ″が変わら無いことを理解していた。

私が動いた事を知れば、彼は優しいから、こうして褒めてくれるのだ。
そして、それが私は嬉しい。




それを、少しでも期待していたのだ。





狡い。狡い。
なんて汚くて、狡いんだろう。やる必要の無い事をやって、褒めて貰って喜ぶなんて。
誰にも知られなければ、こんな汚い自分に気付かずにいれた。


ダメだなぁ私は。









それでもここに居る事をやめられないのだ。





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