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中総体が終わり程なくしてインハイ予選。
そして春高予選と続くも敗退。

澤村が主将となり新チームとして前に進みだした。
黒川先輩や引退した3年生も暇なときはよく指導をしに来てくれている。
そんな夏休み。
烏養監督が復帰した。

・・・想像以上の厳しさ。
けど、これがあったからこそ、春高に行けたんだ。ヘトヘトになっても、皆、すごく良い顔をしていた。

スコアを整理し、各自の弱点を強化するための練習メニューに切り替えていたとはいえ、まだまだ甘かったんだ。毎日汗だくで過ごす日々。
マネージャー業も俄然忙しくなった。
しんどい時こそ食事は大切なのだ。
知識を総動員し身体を壊す事が無いよう今まで以上に目を配り、助言を送る。足りない分は烏養監督に知識を貰いドリンクも改良したり、プロテインを用意したり。


潔子ちゃんもどんどん前のめりで頑張ってくれている。元々頭の回転が早い、優秀な人なので覚えるのも早いし最早私が足手纏いじゃあと不安になる程である。


烏養監督は厳しい人だし、顔も怖い!けど、様々な事を教えてくれた。

「監督も休んで下さい!年なんだから!!」
「年寄り扱いすんじゃねぇ!生意気言いやがってこのチビスケが!」
気付けばそんな事を言い合うようになっていた。

少しでも長く居て欲しかった。







それは突然だった。

「日向先輩、コレ、澤村主将に渡しておいてもらえますか。」

そう言って渡された退部届けが2枚。


とうとう来たか、と。
知ってたとはいえ、ここ数ヶ月共に練習してきた仲間だったのだ。

「・・・わかりました。」
「お世話になりました」



誰にも辞めて欲しくなくて、一緒に戦いたかった。こうなる前に何か出来たのではないか、と
1番自分を責めたのは、主将となった澤村だった。

来なくなった1年の所に行って、説得しているけど効果が出ない。
1日2日で効果が出ない事は分かっているんだろうけど、分かってても、自分の言葉じゃ人を動かす事が出来ないんだと思ってしまう。
こういった心理に落ちてしまうのは、彼だからではなく、誰にでも当てはまる事だ。



最近は部活中でも、何だか表情が冴えない。
先輩にも厳しく言われ、余計に空回っている気がしてならない。
自主練も、最近は1人で思い詰めた表情で行なっている。


「澤村、大丈夫?」
「・・・日向・・・」

この人は優し過ぎる。


「1年が来ないのは澤村のせいじゃないんだから、そんな重く考えることないよ。
戻ってくる人は戻ってくるし、辞める人はやめる。しょうがないよ。」
「・・・」
「大丈夫だよ。絶対戻ってきてくれるって!だって、あの子達、バレーが嫌いになった訳じゃー」

ドン、と大きな音。思わず肩が跳ねる

トン、トン・・・とボールの音がこだまする

こちらに背を向けて、ギリギリと音がしそうな程に握られた拳。

「ーー大丈夫って、何がだ?」
地を這うような低い声。

「っ」

何か言わなきゃ、と思うも喉がカラカラで言葉が出ない。頭が真っ白になる。怖い。だけど確実に




澤村が、本当に、怒っている。





「このまま誰も来なくなったら、試合に勝つどころか、出場する事も出来なくなるんだ」

「お前は何もしていないじゃないか」

「嫌いになった訳じゃないと、何故わかる?」



「何の根拠も無く・・・大丈夫、なんて言うなよ」






キュ、と靴が擦れる音がする。
それはどんどん小さくなり、ついに聞こえなくなった。







どれくらいそうしていただろう
ふいに目に飛び込んできたのは、先程彼が叩きつけたボールだった。

ぼんやりとした思考の中
片付けて、帰らなきゃ、と思いボールを拾おうと屈むと、パタパタと水滴が落ちる。
その時初めて、自分が泣いている事に気付いた。

何で、止まれと思っても止まらない。

だって私には泣く資格など無い。

私は知っている。
縁下も成田も木下も戻って来る事を。
だから心配していなかった。
だから動かなかった。
澤村が、いや、他の部員も含めてそんな不安を抱えていた事に気付かなかった。

「っ・・・ごめ・・・なさい・・・」

ごめんね。
澤村の言う通りだ。
何もしてない癖にただ大丈夫だとしか言わないなんて、最低だ。
自分に置き換えてみるとよくわかる。
もし自分が言われたとしても腹が立つ。



ごめんなさい





その日はどうやって家に帰ったのか覚えていない。








翌日から、澤村の目を見る事が出来なかった。

謝ろうと思った。
でも、私は来ない彼らに何かするつもりは無い。
逃げたけど、結局バレーが出来ない方が辛い、と勇気を出して自分から戻って来ないと意味が無い。『逃げる辛さ』を知る。そして、成長する事が大切なんだ。
結局何も行動しない癖に謝っても意味が無い。

・・・これは言い訳だ。
臆病な私は向き合う事が怖いのだ。
こんな、真剣に部の事を考えてない奴は必要無いと言われたらどうすればいい。
だって私は本来居ない人間だ。
『居なくても良い存在』なんだ。
勝手に、無理やり関わってるだけだ。



あぁ、そうか。
こんな事になってようやく自覚する

相手が澤村だからこそ、こんなにも胸が痛む事を。
こんなにも怖い事を。










その後、烏養監督は再び退任された。


そして原作通り、入れ替わるようにして縁下、成田、木下が戻って来た。



良かった。本当に良かった。
知ってても、心からそう思った。

澤村が、また良い顔を、前向きな顔をするようになった。
いつも紙面で見ていたような、強い眼差しでボールを見ている。




それで、いい。




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