「あー、最悪。ほんと最悪……」
「どうしたんだいアツシ?」
「室ちんには関係ねーし」
今日のアツシはとにかく機嫌が悪いみたいだ。
少し遅れて部室に入ると、アツシは練習着に着替えることもせず黙々とお菓子を食べていた。その背中から放たれる負のオーラに気圧されて誰も話しかけられないようだった。
「そう言われると身も蓋もないけど、でも、もしかしたらオレが何か力になれるかもしれないだろ?」
「ふーん。じゃあ、スモールライトちょーだい」
「え? small light?」
「その発音なんかムカツクんだけど」
「うーん、そんなこと言われてもオレはネコ型ロボットじゃないからな……」
「じゃあ、室ちんには用なんてねーし。放っておいて」
「ねえ、アツシ。とにかく話だけ聞かせて? 帰りにポテチ買ってあげるから」
ポテチの言葉にオレよりもずっと大きな背中が揺れる。「約束だし」と念を押すようにこちらを睨んだアツシは、はぁと溜息をついてからオレの方に向き直った。
「今日、名前ちんのシャーペン壊しちゃった」
「ん?」
「昨日部屋で使ってから筆箱にしまい忘れてたみたいでシャーペン家に忘れた。それで、名前ちんにシャーペン借りたから、お礼に芯を足してから返そうって」
「へぇ、アツシもいいことするんだね」
「んで、キャップ外そうとしたんだけど、あれってすげー小さくてオレの指じゃどうにもならなくて、やっと取れたと思ったら床に落として、それ拾おうとしたらシャーペンまで床に落として」
「それで?」
「やべぇって焦ったら床に落ちてたシャーペン踏んじゃって、バキって割れた……」
「なるほどね」
「名前ちんは安物だから気にしなくていいって言ってくれたけど、初めて席が隣になった時にお気に入りのやつなんだって言ってたの覚えてるし、実際、今にも泣きそうな顔してたし……。オレ、絶対名前ちんに嫌われた。もう死ぬ」
一連の出来事を話し終え、アツシは再び項垂れてお菓子を食べ始めた。
アツシの体験と先程の会話をあわせて考えると、どうやらアツシは自分の大きすぎる身体をスモールライトでどうにかしたいと考えているのかもしれない。
「ねえ、アツシ。スモールライトで小さくなっても、不器用なのは治らないんじゃないのかな?」
「室ちんってさ、笑顔でひどいこと言うよね」
「そう? とにかく、スモールライトなんてないし、ここはもう一回ちゃんと彼女に謝るしかないんじゃないか?」
「はぁ……。室ちんに諭されるとかマジありえねーんだけど」
「これでも、オレはアツシの先輩だからね」
小さく笑ってアツシの肩をぽんと叩くと、アツシは「ちょっとでかけてくる」と立ち上がって部室を出て行ってしまった。その背中にgood luck と声をかけてから、オレはカバンから練習着を取り出した。
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