「火神くん、君は名字さんに何をしたんですか?」
今日はバスケ部1年で集まって昼飯を食った。そんで、教室に戻ろうと歩いている時、隣にいた黒子はまるで何かを責めるみたいな目でじーっとオレを見上げた。
「ああ? なんもしてねーよ。つーか、なんでそんなこと訊くんだよ!」
名字っつーのは、同じクラスでオレの隣の席の女子。
あんま話したことねーけど、授業中寝てたオレが先生に指されそうになるとこっそり起こしてくれるいいやつだと思う。
「なんで、って。キミと会話をする名字さんがいつも怯えているように見えるからです」
「はあ?」
「知らず知らずのうちに何か失態を犯しているんでしょうね。なんせ、ば・火神くんですから」
「黒子テメエ……!」
「あ。もう授業が始まってしまいますね」
「逃げんなッ!」
本人にはそんなつもりはなくても、人混みに紛れた黒子はまるで魔法みたいにその姿を消してしまった。
******
「はあ……」
「火神くん、似合いもしない溜息はやめてください」
「うるせー」
「あ、僕としたことが……。すみません、帰国子女のくせに英語の成績が悪くて補習。今日は部活に出れないなんてなったら、いくら火神くんだって溜息くらいつきますよね……」
「オレ、お前になんかしたか?」
「昨日の帰り、マジバで僕のバニラシェイクをこぼして無駄にしたことなんて全く気にしていませんが」
「…………」
「それでは、僕は先に部活に行きます。カントク達には僕が伝えておくので、安心して補習を受けてきてください」
丁寧なお辞儀をして黒子は教室を出て行った。
くっそ。別に英語はちゃんと喋れるんだから問題ねーじゃねーか。つーか、発音ならあのハゲ教師に負ける気しねーし。
「ああ……、バスケしてぇ……」
オレは机に突っ伏した。完成したら提出しろと言われたプリントがはらりと床に落ちたけど、それを拾う気にもなれない。
「あの……これ、落ちたよ……?」
「んあ?」
とんとんと肩を叩かれて顔を上げると、例のプリントを手にした名字がオレを見ていた。
「あー、わりい、サンキューな」
「う、うん……」
その瞬間、黒子に言われたことをふと思い出す。こいつ、怯えてんのか?
言われてみれば、さっきだってオレと目を合わせたのほんの少し。そのあとはサッと目を逸らしてしまった。
なんつーか、モヤモヤする。
「お前さ、オレが怖いのか?」
オレの隣である自分の席に座ろうとする名字を引き留めるように立ち上がると、名字を見下ろした。
「今だって、すげービビってんだろ? 顔見りゃわかる」
「え……。そ、れは……」
「黒子にもオレがお前になんかしたのかって言われたし。けど、名字は授業中オレに優しくしてくれっからさ、理由がわからなくて困ってんだよ」
「えっと……、ごめん……なさい」
名字は今にも泣いちまうんじゃねーかってびっくりするくらいに、目をうるうるとさせてからオレに頭を下げた。
「は……?」
「本当はね、火神くんともっと仲良くなりたいなって……」
ゆっくりと顔を上げた名字はぽつりぽつりと話し出した。
懸命にオレの目を見て話そうとしているのがはっきりとわかる。
「火神くんはいい人だって知ってるの。でも、火神くんは背が高くて目つきもその……ちょっと……。だから、いざ話そうとしても、今みたいに見下ろされると怖くなちゃって……」
頭ン中のもやもやがパッと消えた。
それに、オレと仲良くしたいって言ってくれたこともすげー嬉しい。
「あー、えっと、こうすれば怖くねーだろ?」
「え……、きゃあ……!」
ひょいっと名字を持ち上げて、オレの頭よりも高く持ち上げる。
オレ達の目線は逆転して、顔を赤くした名字が足をバタつかせながらオレを見下ろした。
「か、火神くん、た、高いよ……!」
「大丈夫、落としたりしねーって」
「それに重いし……」
「ああ? ボールとたいして変わんねーよ」
「それはありえないと思うんだけど……」
「そうか? つーか、今普通に話せたな?」
「あ……、本当だ」
「なんつーか、やっぱこっちの方が嬉しいわ」
ゆっくりと名字を降ろした。
元に戻った身長差でもう一度オレを見上げた名字は、今度は真っ直ぐにオレを見て笑った。
「なんて言うか、私が勝手に火神くんのイメージを決めつけちゃっただけなんだよね……ごめん。でも、もう火神くんは怖くないよ? さっきの笑顔すごくかっこよかったもん」
「っ……!」
「あ、今度の誠凛の試合友達と見に行くの。そしたら、火神くんを一番に応援するね?」
「お、おう……」
「へへ、それじゃあ、私も部活があるから。また明日、火神くん!」
名字はキラキラと眩しいくらいに笑って教室を出て行った。今までの態度が嘘みてーだ。
あいつの「応援するね」という言葉が妙に気になって頭から離れない。とにかく、こんなところでボーっとしてる場合じゃねえ。
早く練習に戻るために、オレは黒子から借りた教科書を開いて、プリントの空欄を埋め始めた。
身長差=心の距離?
ちゃのこさんから、かがみん相手で「身長差」が絡んだお話、というリクエストをいただきました!
そして、女の子を持ち上げちゃうかがみんが思い浮かんだのでこんなお話になりました。
身長差と言えば、この前アニメイトで黒バスキャラの等身大パネルが公開されていたんですよね。
みんな大きくてびっくりでした。特にむっくんとか。赤司くんがいないのはわかっていたので、あまりショックを受けていないつもりです( ;∀;)(笑)
話はそれましたが、今回のお話はそこで見たかがみんとの身長差を思い出しながら楽しく書かせていただきました(*´ω`)
ちゃのこさん、リクエストをありがとうございました。
以前からこのサイトに来てくださっていたと知って、胸がときめきました(`・ω・´)
今後もよろしくお願いいたします!
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