「寂しい、よ」
そうやって小さく呟いた時、情事を終え同じ布団の中にいた晋助はピクリと眉を動かして、さも不機嫌そうにこちらに視線を向けた。また始まった、とでも言いたげに薄く開いた唇からは、私のための言葉ではなく、ゆらりと紫煙が立ち上った。
「てめぇ、何度目だ?それ…」
「知らない…。数えたって無駄だもの」
何度目なのか、なんて、そんなの愚問だと思う。あえて正解を作るなら、たったの1度きり。なぜなら、私は終わりの無い、たった一つの深い寂寥から抜け出せないのだから。「面倒臭ェ女だ」と、キセルを置きながら呟いた晋助の手が、彼に背を向けた私のお腹に巻き付いた。面倒臭いだなんて、晋助は至極的確に私の事を表現している。それが可笑しくて、私は小さく笑ってしまった。
「だったら、棄ててしまえばいいんじゃない?晋助の得意技でしょ?」
「馬鹿。てめぇが拾った野良猫の世話を最後までできねェようじゃァ、笑われちまうだろーよ」
「そう…」
誰に笑われるの?と尋ねたい衝動を押し殺して、私は晋助の指に自分の指を絡めた。浅はかな質問をするつもりなんてないのだ。
晋助が何のために新しい世界を創ろうとしているのか、彼自身が明確に言葉にすることは滅多にないけれど、この前…紅桜の件で銀時達と久しぶりに会った時だっただろうか。あれほど自分の感情を顕わにした晋助は久しぶりだった。あの時、何が晋助をそうさせたのかわからない。けれど、晋助も私もヅラも銀時も、忘れられない恩師は同じだというのに、私達はこんなにもバラバラになってしまったのだということだけは、痛いくらい思い知らされた。
「俺はお前の前から消えやしねェ。だから、これ以上寂しくなんかならねーさ」
「当たり前、でしょ?私は、また昔みたいに主を失って野良猫に戻るのは嫌だもの」
そう言って晋助に身体を向けると、私は小さく微笑んだ。晋助は一瞬驚いたように目を見開くも、すぐにその表情は長い前髪に隠されて見えなくなってしまう。
この世界で私に残されたのは晋助だけ。少しでもその晋助に近づこうと、額を彼の胸元に押し付けて、その心音に耳を澄ませた。一方晋助は私の耳に唇を寄せて、やんわりと耳たぶを食んでは熱い吐息を落とす。
他人の死も、自らの死も、何も恐れない男。だからこそ強い。それが私の知っている高杉晋助なのだ。でも、どうしてだろう。「お前も消えるな」そんな晋助らしくない言葉が吐息混じりに脳みそに溶け込んで、晋助の温かい腕と、小さい頃に頭を撫でてくれた松陽先生の大きな手の温度が重なった時、吐き気がするほど胸がざわついた。晋助が私を痛いほど抱きしめれば抱きしめるほど、松陽先生の最期の姿が消えかかった蝋燭の火のように頭の中に何度もちらついた。
世界は幸福強奪犯
小さな野良猫がやっと手に入れたちっぽけな幸福ですら、奪っていくのですか?
Fin.
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