キミとのセカイ21




ジュードがアルヴィンの元からローエン宅に戻っていった丁度1週間後の、土曜日の夜の7時を過ぎた頃。
とある洒落た居酒屋にアルヴィンとローエンの姿はあった。
というのも今から4日程前、ローエンからアルヴィンにこの前のお礼がしたいから飲みに行きませんか?というお誘いのメールが入ったのがきっかけである。
誘いに乗ったアルヴィンが指定された場所に行くともうローエンは一人カウンターに座っており、店のドアが開いたと共にちりりりんと鳴った鈴の音に釣られて視線をアルヴィンに向けると「こちらです、アルヴィンさん」と言って片手をあげた。

「悪い、ちょっと遅れた?」

隣の椅子をひいて座りながらそう言って腕時計を見るアルヴィンにローエンは首を左右に振って答える。

「いいえ、わたしが少し早く来ていただけですので」

気になさらないでください、と言うのと同時くらいにカウンターの中にいた店員が注文を聞きに来た。

「とりあえずビールで」

そう言うと「かしこまりました」とあまり抑揚のない声で返事が返ってくる。
注文をしてじきにカップなみなみに注がれた美味しそうなビールがアルヴィンの前にトンっという音と共に置かれた。
この時季、暖かい部屋でぐいっと冷たいビールを喉に流し込むことほど気分のいいものはないな、と思う。
既に半分ほど飲み干したビールを机の上に置くとそれを待っていたかのようにローエンが話し始めた。

「では、改めまして。
 アルヴィンさん、この度はジュードさんを預かって頂いて本当にありがとうございました。
 前にも少しお話したかもしれませんが、ジュードさんはご両親以外の身寄りがなくて、そのご両親が不幸な事故でお亡くなりになられたさい私がひきとったのですが、私も出張の多い仕事をしているのでお留守番を頼むこともちょくちょくあるのです。
 …その度にジュードさんには寂しい思いをさせてしまっているかもしれません」

そこまで言うとローエンは一呼吸置くようにぐいっと前に置いてあった日本酒を飲み、また話を続ける。

「ジュードさんは頭のいい方ですし大変物分りの…良すぎる所がありまして、寂しくても私の前ではそれを一切表にだそうとはしない。
 でも今回はアルヴィンさんが一緒に居てくださったことで本当に楽しかったのでしょう。
 あのジュードさんを迎えに行った日、彼はずっと貴方の話ばかりしていたのですよ。」

にこにことなんだか嬉しそうに笑いながらそういうローエンにアルヴィンは

「あいつ、どうせろくな事話してなかっただろ?」

とローエンのほうに顔を向けて薄っすらと笑いながら尋ねた。

「いえいえ、そんなことありませんよ。
 アルヴィンさんはとても優しかったし、一緒に過ごせてよかったと言っておりました。
 ただ、やっぱり家事は一切任せちゃいけないとは言っておりましたが…何かしたのですか?」

そう尋ねるローエンにアルヴィンは顎に指を置きながら少し考えてみる。

「うーん…一度朝食を作ろうとして見事に失敗したこと…か?
 それとも洗濯をしようとして洗剤入れる量を間違えてあわあわになったこと、かな?
 あ、それか掃除機をかけようとしたら変なボタン押しちまって掃除機ん中に溜まってたゴミを床中にばら撒いたこと…かもしれない」

「それはそれは…やはりアルヴィンさんは家事には不向きなようですね」

笑いながら言うローエンにアルヴィンは違う話題を持ち出して話を逸らそうとする。

「そ、それよりローエン、結局あいつは今どーしてるわけ?元気?」

「あいつ、とはジュードさんのことですかな?
 彼ならわたしには元気にしているように見受けられますが。
 ただ…」

「ただ?」

「たまに少し寂しそうな顔をするときがありまして。
 それとやたらとアルヴィンさんのことが気になるのか、今どうしているかをわたしに聞いてくるので電話をかけてみたらどうですか?とこの前提案したのですが」

「電話?きてねーけどなぁ」

アルヴィンはそう言いながら自分のポケットから携帯を出して着信履歴を見てみる。
やはりジュードからの電話ははいっていなかった。

「はい、なにやら恥ずかしいし緊張するから、なかなか自分からはかけられないみたいでして。
 ついこの前ソファに座ってじっとなにを見ているのかと思ったら携帯電話と睨めっこしておりましたよ。」

「ははは、何やってんだあいつは」

「アルヴィンさんに迷惑がられたらどうしようと思っているのですよ。
 よければ今度…いつでもいいのでアルヴィンさんのお暇な時にでも電話をしてあげてください」

「…そーだな、じゃあ明日の夜辺りにでも電話かけてみるか」

アルヴィンはそう言うと残っていたビールをぐいっと飲み干して店員を呼び今度はローエンと同じ日本酒を注文した。
どうやら気に入ったらしく、ローエンも同じものを再びオーダーしている。


あれからけっこうな量を二人とも飲んで、酔いに任せて話す内容はジュードのことばかり。
それはどうやら無意識に話題に上るみたいで、酔いに任せて段々ジュードのあんなとこが可愛いとかこんなことが優しいとかのまるで自慢大開のようなものにまで膨れ上がって行った。


二人が分かれたのはもう夜中の12時になろうかという時刻で。
ローエンが自宅に帰りついたのは12時半をゆうに超えていたせいかジュードはもう自分の部屋で就寝していた。
その様子をドアを少しだけそっと開けて覗くと、ローエンは口元に笑みをたたえながら寝る前のシャワーを浴びに脱衣所に向かって行った。



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