キミとのセカイ17




次の日の日曜日、少し早めの昼食を食べた後僕たちは一緒に部屋を出た。
昨日の約束通り、アルヴィンは僕をバイト先まで連れて行ってくれる。
アルヴィンは最初の頃と違って今では歩く歩幅が違う僕に合わせてゆっくりと歩いてくれるようになった。
僕がアルヴィンのバイト先が入ってるショッピングセンターに行くのはまだ2回目で、あの布団を買いに行ったときと違うのは今が昼間だということ。
夜と昼ではやっぱり景色も違って見えて、僕がきょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていると横からクククって笑う声が聞こえてきた。

「そんなに物珍しいものなんてあった?」

「昼間にここを歩くのは初めてだから…それに帰りは一人だから覚えておかなくちゃって思って」

流石にアルヴィンのバイトが終わるまで待っていられない。
だって約6時間もの間喫茶店にいなきゃいけないし、それをしていると家事が一切出来なくなってしまう。
それにそんなジュース1杯かそこらで何時間も居座られたらお店だって迷惑だろう。
そう思って返事をするとあぁ、そういうことね、と返ってきた。

そうしているうちにショッピングセンターが見えてきた。
さすが日曜日、駐車場は車で溢れかえっていて止める場所を探しているのであろう車がうろうろしている。
僕たちはそんな車の合間をぬうように歩いて入り口まで辿り着いた。
自動扉を潜ったその先には人人人、とにかく凄い人の数だ。
僕は思わず隣にあったアルヴィンの服の裾をぎゅって握ってしまった。
するとアルヴィンは、ん?って顔をしてこちらに顔を向けてくるとあぁ、と言いながら何かに納得したように頷いて、裾を握っている僕の右手をそっと外すと自分の左手で手を繋いできた。

「ア、アアアアルヴィン!」

「うん?どうした?」

「て、手が…!!」

「あぁ、迷子防止にね、丁度いいだろ」

そう言ってぎゅっと軽く力を入れて手を握られる。
僕はなんだか小さな子供になったみたいで凄く複雑な気持ちだったけど、でもアルヴィンの手の暖かさにホッとしたのも事実だ。
何故なら僕はちょっと人混みが苦手だったから。
世の中にはこんなにも人で溢れているけど、そこに自分を気にかけてくれる人がいなければそれは一人でいるのとなんら変わりはない。
両親がいなくなった時、僕は一人ぼっちになってしまったのだと思った。
でもローエンが僕を引き取ってくれ一緒に居てくれて、今はアルヴィンが僕の傍に居てくれる。
大勢の人の中にいても僕は一人じゃない、大丈夫だって思わせてくれる。
だから僕も繋がれた右手をぎゅっと握り返して歩き出した。

エスカレーターを上って2階にいき暫く歩くと白を基調にしてあるんだろう明るい雰囲気のお店が見えてきた。
その入り口の前で歩みを止めると着いたぜって声が上から聞こえてくる。
どちらともなく繋いでいた手を離すと、僕はこっちだと言いながら入り口から入るアルヴィンに着いていった。
すると「いらっしゃいませ」という声と共に一人の女性が歩いてきた。
なんていうか、凄い美人で迫力のある女性だと思う。

「あら?貴方は…もしかしてアルと一緒に住んでるっていうぼうや?」

「あぁ、どうしても俺のバイト先が見たいって言うから連れてきたんだ」

「そうなの。はじめまして、プレザよ」

そう言ってすっと僕のほうに差し出された片手に慌てて僕も「ジュードといいます」と名前を名乗りながらその手を握る。
するとふふふって笑い声と共に可愛いわねという声がふってきた。

「それじゃあ席に案内するわ、こちらよ」

そんな声がしたかと思ったら横に居たアルヴィンが軽くしゃがみながら僕に視線を合わせてくる。

「じゃあ俺はもう行くけど、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。
 読もうと思って本だって持って来たし、暫くここで見学してるから。
 それよりアルバイト頑張ってね、アルヴィン」

笑いながらそう言うと、アルヴィンは僕の頭を軽く撫でてからお店の奥へと消えていった。
僕は一歩前を歩くプレザさんの後を着いていく。
案内されたのは入り口から一番奥のほうにある座り心地のよさそうな白いソファーがいくつか並んでいるうちの一つの席だった。

「これがメニューよ、何を頼むかもう決まってるかしら?」

机にメニューを広げながら尋ねてくるプレザさんに

「オレンジジュースってありますか?」

と逆に尋ね返すともちろんあるわ、という返事が返ってきたのでそれを注文した。
メニューには色々な種類の飲み物が書いてあったみたいだけど、あまりこういう所に来ない僕は沢山種類がありすぎて目移りしてしまう。
だから無難であろうオレンジジュースを頼もうと前から決めていた。

暫くすると制服に着替えたアルヴィンがオレンジジュースを持って僕のほうにやってきた。
真っ白のシャツに腰から下は黒い…何ていうのか、巻きスカートのようなエプロンをつけている。
シンプルなんだけど身長が高くてすらっとしているアルヴィンにはよく似合っていた。

「お待たせしました、オレンジジュースになります」

「あ、はい。ありがとう…ございます」

アルヴィンのいつもとは違う口調に釣られてそんな返答を返す僕の前に置かれた少し大きめのグラスに入れられたオレンジジュースはとても美味しそうだ。

「ご注文は以上でよろしいですか?」

そう尋ねてくるアルヴィンに「はい」と返事をすると、「ではごゆっくりお過ごしください」という返答が返ってくる。
仕事モードのアルヴィンはいつものだらしないアルヴィンとはあまりにかけ離れていて僕は驚きを隠せない。
でも最後にこそっと「じゃーまた後でな」って小さな声で言ってくれたから僕は肩の力をぬいてうんって返事をすることが出来た。
去っていったアルヴィンの後姿をなんとなく眺めながら目の前におかれたオレンジジュースを一口飲んでみるとほんのり酸味があって、でも思ったとおりとても美味しかった。
なんだか結構緊張していたみたいで、ようやくふぅと一息つけたので鞄の中から一冊の本を取り出す。
おとつい学校の図書館で借りてきた本で魔法使いが主人公のファンタジーだ。
店内はざわざわと騒がしかったはすなのに、僕は暫く本を読んでいるうちにそれが気にならなくなるほど本に熱中していった。

はっと気がついて腕時計に目をやるとちょうど1時半間余りが経過していた。
店内には先ほどよりも人が増えているように思う。
ちょうどおやつの時間…というか一息いれたくなる時間なんだろう。
僕は氷が解けて少し味の薄くなったオレンジジュースをぐいっと飲み干すときょろきょろとアルヴィンの姿を探す。
彼はすぐにみつかって、入り口付近のお客さんの注文をとっていた。
その様子をぼーっと見つめながら、あんな笑い方も出来るんだ、となんとはなしに思う。
いつものアルヴィンはいじわるでにやにやという表現が似合うような笑い方をよくしているんだけど、今のアルヴィンは好青年と言えば通じるんじゃないかとう雰囲気をかもし出している気がする。
なんだか面白くないな、と一瞬ちょっと思ったけどその思考をぶんぶんと頭を振って脳裏から無理やり消した。
まだ彼と初めて出会って2ヶ月くらいしかたっていないのだ、僕が知らない面だっていっぱいあるのだろう。
さっき会ったプレザという女性とも仲が良さそうだったし。
…これ以上ここにいると、自分でもよくわからない胸がむかむかするというかなんとも言えない気持ちになってくる。
もう帰ろう、そう思って読んでいた本を鞄にしまってソファーから立ち上がった。

レジまで歩いていくとお会計はプレザさんがしてくれた。
500円渡して50円のお釣りとレシートを受け取ると、それをお財布に仕舞う。
ふとプレザさんのほうを見ると、きれいな笑みとともに「またのご来店をお待ちしております」という言葉がふってきた。
それに僕は「は、はい。ありがとうございます」となんだか自分でも意味のわからない返事を返すとお店から出る。
少し早足で歩いてお店が見えなくなるとやっと僕ははぁ、と一息ついた。
僕が大人な女性と接したことがあまりないからかもしれないけど、なんだかプレザさんのまえだとやたらと緊張する。
でもアルヴィンの意外な一面を見れてそれはそれでよかったし、まぁいいか、と思い直して僕は自宅に向かって歩き始めた。

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