桃色めろでぃ | ナノ



003


何事もなくデイドン砦を抜けサイノッサス討伐をルイス君に全てお任せして私たちは特に大した事もなくハルルに…着けなかった。


「あの…ル、ルイス君?私の見間違いじゃないよね?なんか容赦なくでかいんですが」

「そうっすね見間違いじゃないっすよ…なんでこのタイミングでギガントモンスターに…しかもブルータルって、んだよこの鬼畜ゲー…」


ルイス君はそう言い唇を噛み締めた。え、これまずいんじゃね?
私たちの前にはなんかやたら角が長くてでかい図体をした魔物が立ち塞がっていた。
あのルイス君が焦るって多分ただ事じゃあない。


「僕一人なら…いや、どうにもならないか…」

「ど、どどどうしよう…!で、でも先に行くにはこいつを潜り抜けなくちゃいけないんだっだよね」

「ああ…」


カノンがあわわわ言いながらうろうろする。
隣のルイスはさっきまでの彼は何処に行ったのかこの状況を冷静に考えていた。
ふと頭をある人物の姿がかすった。

せめて、僕一人じゃなくて「隊長」さえいてくれれば。

ルイスはハッとした。
彼が唯一尊敬する人物。隊長なら…


「…姫」

「ふえ?ル、ルイスくん…?」

「失礼します!」

「え、は!?」


そう言うとルイス君はいきなり私の…うさみみを掴むとそれを引き抜い…え?


「どうし…て…」


とれるはずのないうさみみはあっさり抜け、と共に

意識が、浮いた。

視界がボヤけ、自分が吸い込まれる。
虚ろな意識で一瞬見えたのは


「ねー…ね…?」


ねーねは、笑った気がした。


***


「ごめん、ごめんね…カノン…」


ねーねが私を抱き締めながら泣いている。
どうしたの?なんで泣いてるの?謝る事なんて何も。
そう言うのにねーねは首を振り、ずっとごめんね、と言うばかり。

ねーね、よくわかんないよ…どうしたの…?


「…っ、私は…ううん、貴方を、…てし…た」


え?
雑音がうるさくてなんて言ったのか聞こえない。
聞き返すとねーねは涙を流しながら笑った。


「私たちね…もう、」


***


「カノン!」

「!…え?は?…え?」


名前を呼ばれ、ハッと飛び起きた。
今のは…夢…?
ええと、私さっきまで何をしてたんだっけ。フレンのストーカー中にお腹が空いて…ってそれは大分前だっけ?


「魘されてたけど大丈夫か?」

「う、うん…ってあれ…、は?ユーリ…?」


飛び起きた横にいたのはユーリだった。
ユーリ・ローウェル(21)。今更彼の説明を長々とする気はないけど私にとって幼馴染みみたいなもの…ちょっと違う?
フレン様との恋路をとことん邪魔するデリカシー皆無な男だ。見た目はいいのに。
あれなのかそんなにフレンが取られるのが嫌なんですかそうですか。


「お前失礼な事考えてないか?まあ妄想っぷりはいつもの事だから慣れてるけどな」

「ユーリの方が失礼だよ。ていうか…なんでユーリ?…ここ下町?」

「ハルルだよ。っておいおい、お前どうしたんだよ…」

「ハルル…下町の外?ユーリいつから下町ひきこもり卒業したの、おめでとう!」

「こっちは心配してやってんのにどういう意味だよ?ったく、また得意の覚えてないか?」

「失礼だね、覚えてないものは覚えてないんだよ」


私がそう頷くと軽く頭を叩かれた。

話を聞くとどうやら私は昨日からハルルのこの宿屋に止まっていたらしい。
一緒に青年もいたらしいが彼は後に来るであるだろうユーリに私を頼んでほしい、と宿屋の女将に言うと去ってしまったという。
いつの間にハルルについたのかよくわかんないが恐らくここまで連れてきてくれたのはルイス君だろう。
本当に覚えていない…何かでかい魔物と対峙したような夢の中で逢った、ような。
まあ無傷っぽいし多分夢だったんだ、うん。

ついでにユーリが何故脱ひきこもりをして此処にいるのかの経緯も教えてもらった。


「…疫病神でも憑いてるんじゃないの?日頃の行いが祟ったんだよ」

「年中フレンのストーカーしてるお前に言われたくねーな」

「ストーカーじゃないよ!愛の追っかけと言ってほしいね」

「…告白もしてねーくせに。あいつ鈍感だからちゃんと言わないと分かんねーよ」

「う、うるさいなユーリには関係ないじゃん!」


ユーリがそう言いからかうからポコポコ殴ってたがむむ…体力だけもあるんだから。

「さっきからだけってなんだよ。…で?お前どうすんの」

「どうするって?」

「これから、だろ。下町に帰るにしてもちょっと遠いからな…」

「え?ついていくけど」


何を当たり前の事を聞くんだ。
エステルとかいう少女がフレンを追っているならそれに乗るしかないじゃないの。
ユーリ、料理だけもできるから空腹で行き倒れることもないし。


「…絶対?」

「絶対」


私がそう自信満々に頷くとユーリは大きくため息をついた。な、失礼だね!


「まあその方が安心だけどな。ていうかお前、レイピアくらいは持ってるみたいだけど戦えるのか?」

「無理だよ、みてるだけ」

「…」


今度は思い切り頭を叩かれた。


***


「ん?あれは…」


宿屋を出るとユーリはなんとも言えない声を上げた。視線の先を見るとピンク髪の少女が騎士の人に囲まれてた。

あの人…何処かで…。


「しつこいな…カノン、行くぞ」

「え?…え、あれ…もしかして…」


あたふたしている間にユーリといつの間にか現れたラピードがそちらに歩いて行くから私も慌ててついていく。
ユーリが近づくと騎士の一人が気付いたのかこっちを向いた。思わず私は後ろに隠れる。


「ここで会ったが百年目、ユーリ・ローウェル!そこになお〜れぇ〜!」

「あれ、デコとボコじゃん」

「デコと言うなであ〜る!」

「ボコじゃないのだ!ってうさぎまでいつの間に…」

「うさぎじゃないよ!」

「なんでカノンまで仲良くなってんだよ…」

「ね…ねえユーリその人は…」


突然現れてルブラン等と言い合いしているカノンの事を訝しげにカロルは尋ねた。
ユーリは一度溜め息をつき後でな、と言うとカノンの肩を掴むと後ろに下がらせた。


「口喧嘩してる場合じゃねーの。下がってろ」

「わっ、むむ…」

「あーもう面倒ね!さっさと消えなさいよ!」


カノンが下がったところでいい加減痺れを切らしたリタが魔術で騎士を吹き飛ばした。
すると今まで黙っていたエステルが高台にいた黒装束の男たちに気付き声を上げた。


「ユーリあれ…!」

「面倒だな…おいカロル、ノール港ってのはどっちだっけ?」

「え、あ、西だよ西!」


カロルと呼ばれた少年がノール港の説明をしながら走り出した。
ん?もしかしなくてもユーリ達騎士に追われてて逃げようとしてるの?
ピンク髪の少女は少し悩んでいるように立ち止まったが茶髪の少女に何か言われると決心したように走り出す。


「カノンもボーっとすんな、来るんだろ!」

「ワンッ」

「ふええ、は、はいっ」


何がなんだかさっぱりだがユーリに急かされラピードに軽く押され私も慌ててハルルを後にした。

…あ、結界魔導器、見たかったな…。



***


「え…えと、私はカノン・レーティアです…その、宜しくお願いします」


ハルルから逃亡、ノール港へ行きながら私たちは自己紹介をした。
エステルにリタにカロル…私名前覚えるの苦手なんだけど大丈夫かなあ。
因みに私の定位置はさっきからユーリの後ろだ。べ、別に怖くなんか


「あいつら相手に怖がることもねーだろ」

「はうっ、怖いなんて言ってないんだよ、てか勝手に人の心読まないでっ」

「ああ、悪い。でも顔に書いてあるぞ」

「え、そんなことないよ!」

「なんだか…面白い人だね…。ね、ねえところでカノン…?」

「はっはい!」


カロル君に突然話しかけられ思わず大声で返事してしまった。
ユーリが小さく吹き出したのが見えた。この男、ほっんとムカつくな…。


「その…うさみみは何?ギルドに所属してるとか?」

「ギルド…?そっそんなのは知らな…それに耳は耳だし…」

「え?」

「へ?あれ…私変な事…え?」

「前に全く同じ質問オレ達もしたな…カノンにとってうさみみは耳なんだとよ、オレにもよくわからん」


む、なんだか馬鹿にされてるみたい。
私は正しい事を言ってるだけなのに…。
それでも尚カロル君が引き下がろうとしないのにリタが口出しした。


「そんなのどうだっていいじゃない、人の趣味に口出す事はないわよ」

「そうですよ、カロル」

「え?あれ…なんかボク間違ってる?間違った事言ってるかな…」

「諦めろって事だろ。それよりカロル先生、この道で合ってるのか?」

「えっあ、うん。今からエフミドの丘を越えるんだよ」


カロル君はそう言うとまた歩き出した。エステルとリタも続く。
同じく続けて行こうとするユーリの袖を私はガッと掴んだ。


「おわっ、なんだよ…」

「丘ってなに越えるってなに疲れそうなんだけど」

「旅なんだから仕方ないだろ。それにフレンに会いたいんだろ?」

「うっ…そうだけど…」

「じゃあ頑張れよ。まあどちらにしろ戻る事も今更出来ないし進むしかないけどな」

「…ユーリの鬼」

「なんとでも言えよ。ていうか早々にくたばってどーすんだよ…ほら行くぞ」


爽やかに答えると手まで差し伸べてきてなんかムカつくからぺしっとその手を叩くとずんずんと私も後に続いた。


「ラピード、どう思うよ?遅めの反抗期?」

「ワンッ」



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モドル