Jeanne d`Arc | ナノ



016


アスベル主導でオーレンの森を進む。時折出てくる魔物を退治しながらたどり着いたのは、小さな村だった。・・・とはいっても、最早壊滅状態で、悲惨な姿になっていたけれど。

「酷い・・・誰がこんな事を・・・というより、人為的ではなさそうだけど」

「焦げたような後があるな・・・火事でもあったのか・・・?」

「その原因を調べるためにオレ達が此処に来たんだ。おい、現場から既に分かっていることはなんだ?」

教官が既にこの現場に駐屯している若い騎士にそう訪ねると騎士は敬礼をしてから答えた。

「はっ。我々がたどり着いた時には既に住民はいなく、蛻の殻でした。破壊された村の様子を見ると恐らく魔物の仕業かと・・・」

魔物ねえ・・・。
私は騎士の話を聞きながら辺りを見回す。確かに引っかいたような痕跡があり、正しいと思う。でも、そしたら魔物の集団だったのかな?もしこれがたった一匹の魔物が原因だとしたら。たった一匹で一つの村を陥落させる程の力を持っているなんて考えただけで恐ろしい。

「よし、ではお前達もこの村を調査してこい。何か見つかったらオレに報告するように。いいな?」

「「はっ!」」

教官の指示にアスベルと声を揃えて返事をした。どこかにまだ見落としている魔物の痕跡があるかもしれない。どうやらアスベルは左に進んだらしいので、私はそのまま奥へ進む事にした。


***


「むー、攻撃の跡はあるけどこれってのがないなあ・・・でも沢山あるっていうより一撃って感じ。・・・やっぱり一匹なのかな」

言われたとおりに辺りを調べてみるけどなんだかこれといったものはない。どうしたものかな・・・。
隣のアスベルはどうしてるかなと思い、向かおうとした時。

「!・・・な、なに・・・?」

ガサリ、と突然音がした。今何か、茂みを通った・・・?
教官を呼ぶべきなのかな・・・でも、今私が目を離して何処に行ったか分からなくなってしまったら元も子もない。
どうするか悩みつつ、腰にある武器に手を伸ばそうとする前に後ろから声がした。

「今こっちに・・・ノアル?」

「っ!ってアスベルか脅かさないでよ・・・今そこの茂みに、あっ!」

「くそっ、あっちか!」

後ろからアスベルが現れ、少し気が緩んだと思った瞬間、その声に驚いたのか先ほど音を立てた茂みの中の何かが左に走っていった。
舌打ちをし、そっちへ向かうアスベルの後を慌てて私も追うと、そこにいたのは。


「あんな魔物・・・見たことないんだけど・・・!」

真っ黒で狼のような姿だが、今まで見た事ある魔物と似ているようで何か圧倒的に違う。雰囲気というかオーラというか。なんというか、この世の生物ではないような印象すら受ける。
見るからに凶暴なその魔物なら、小さな村くらい壊滅させるのには動作もないことかもしれない。

「アスベル!」

「分かってる!くるぞ!」

どうやら教官を呼んでいる暇なんてないみたいだ。
自慢の武器を握りしめると、先に私は勢いよく飛び上がった。

「はああっ!爆砕陣!っ!?」

感触が、違う。
確かに直撃したのに、魔物を見ると、全く利いていないようだった。
利かないなんて聞いてない!
でも魔物だって待ってくれない。雄叫びをあげるとこちらに向かってきた。
攻撃が利かない事に唖然としていた私はつい判断が遅れてバランスを崩す。
まずい、と思ったがそれより速く、アスベルが私より前に出ると魔物の攻撃を跳ね返した。

「っ、気を抜くな!」

「ごめん、ありがとう!でも攻撃が利かないっぽいんだけど!」

「みたいだな。くそっどうしたら・・・!」

そう悩んでいる間にも魔物の攻撃は容赦なく続く。時折攻撃を繰り出してみるものの、利いてる様子は全くない。
試しに術技も使ってみたが効果は同じだった。
攻撃が全く利かない魔物なんて聞いたことがない!一体どうしたら・・・

その時だった。

「な、っ右手が光って・・・!」

突然何が光ったのかと見ると、何故かアスベルの右手が光っている。本人も驚いているらしく、思わず構えた剣を少し下げている。
そして、それに気付かない魔物でもなかった。

「アスベル危ない!」

「!っ、雷斬衝!」

ザシュッ!という短い音と共に、何をやっても全く利かなかった魔物がうめき声をあげると、その場に倒れた。

「あれ・・・倒したの・・・?というか今の何・・・」

「俺にも・・・さっぱりなんだが・・・」

あんなに苦戦していたのに、アスベルの謎の一撃であっさり魔物は倒れてしまい、二人で拍子抜けしてしまった。
というか、いつの間にアスベルはそんな一撃必殺技なんて持ってたんだ。使えるなら早く使っててよ・・・!
とも思ったけど頻りに右手を眺める彼を見ていると、どうやら彼自身にも本当によくわかっていない・・・?
それに見間違いじゃなければ確かにさっき、彼の右手は光っていたと思うんだけど。

「おい、お前達!凄い音がしたが無事か!・・・これは」

なんだか腑に落ちない気分でいると、音を聞きつけてやってきたらしい教官とさっきの騎士たちが集まってきた。
アスベルの前に倒れている魔物を見て顔をしかめる。

「はっ、現場を捜索していたところ、突如魔物に襲われた為、彼女と共に撃破しました!」

アスベルの言葉に教官はしかめっ面のまま、魔物と私たちを交互に見る。

「これを、お前達がか?」

「正確にはアスベルが、です。アスベルが一人で倒したようなものだもの」

アスベルがそれに何か言いたそうな顔をするが実質私は何も出来なかったわけだし、手で制すと少し不機嫌そうな顔をしたけど黙っていてくれた。
教官はしばしば魔物を眺めていたが納得したのだろうか。構えていた武器をしまうと言った。

「だがお前達のおかげで原因は見つかったんだ。よくやったな、二人とも」

「あ、ありがとうございます・・・!」

アスベルが嬉しそうに礼を言う。私もアスベルに続けて頭を下げた。




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