011 「準備はいいか?」 「え、えーと…うん、まあ…」 一撃当てたら、なんてとんでもない事を私が口走ったせいで勝負?…いやこの場合は稽古かな、する事になった。 マリクに手渡された剣をとりあえずブンブン振ってみる。 うーん…剣ってなんかさあ…。 一方マリクは最初に出会った時に背負っていた投刀を持っていた。 まあ剣でも一撃くらいならあたるでしょ。 「どこからでもかかってこい」 「…よし、行きます!」 なんて、考えが甘かった。 「え、軽っ、うわあっ」 思いっきり振ったが予想外の軽さに私はバランスを崩した。 当然、マリクはあっさり避け、私は顔面から地面に突っ込んだ。 「お、おいおい大丈夫か…?」 「いてて…う、うん…大丈夫」 ついた土を払いながら私は立ち上がった。少し擦りむいたけどこれくらい大した事ない。 大した事があるのは剣だ。 久しく剣なんて使ってないから全然わからない。 こんな軽かったっけ? どのくらい間合いを取るべきかとかどのタイミングでどう攻撃を出すべきか。 「うーん…どうなんだろう」 一方のマリクも呆気に取られていた。 あんな事を言ったのだからもう少し出来るものだと思ったが今のは何だ。 あれじゃただの…初心者?いや、初心者でももう少し出来る。 まさか突っ込んでくるとは思わなかったから避けてしまったが…。 このまま続けるべきだろうか? オレの目が間違っていたのか。 …いや、そんなはずはない。 ここでマリクはノアルが剣を振った直後に言った言葉を思い出した。 「…ノアル、今軽いって言わなかったか?」 「あ…うん。予想以上に軽くって…えへへ、私久しく剣なんて使ってなくて」 「久しく…普段は何で戦うんだ?素手か?」 「私格闘家じゃないよー。えっとね…」 ノアルは少し頭を掻いて恥ずかしそうに目を反らした。 マリクが少し首を傾げる。 「斧……なんだけど」 *** 「今すぐ出せるのはこれくらいしかなかったが、どうだ?」 「これくらい…ってこんなに!?」 稽古を一時中断し、マリクに誘われてきたところは、武器庫だった。 沢山の武器があって…なんだか見たこともないのもあった。 なにこれピコハン? 「…お前それがいいのか?」 「え、ううん違う違う、えっとね…」 なんともいえない目でみられ私は慌てて手に持っていたピコハンを仕舞うと斧を見た。 そういえば私が使ってた武器はどこいったんだろ。 まあ大分錆びてたし持ち手何度も折れてるから別に良いんだけど。 とりあえず同じような形をさがしてみると。あっさり見つかった。 「おお…!何これビンゴって感じ」 「!それは…」 「あ、駄目だった?」 「…いや、構わない。寧ろお前が貰ってやるといい」 「うん…って貰っていいの?」 「構わん、入る入らないにしろ武器は必要だろうからな」 騎士学校太っ腹ー。でも貰えるならありがたく頂戴しておこう。 うん、これくらいの重さじゃなくっちゃ。剣は軽すぎるし攻撃力も普通だし私には合わないわ。 「これならイケる!」 「そうか、ならよかった。合わない武器を使っていても仕方がないからな。戻るか?」 「うん!」 早速貰った武器を背中に背負うと私たちは来た道を戻っていった。 *** ―武器は関係ない! マリク:ふむ…斧か…。 ノアル:な、何…?やっぱり変かな…。 マリク:…いや、変ではない。意外だと思っただけだ。 ノアル:そうなのかな?あ、でも騎士になるには剣じゃなきゃ駄目かなあ。 マリク:そんな事はない。現にオレも剣ではないからな。強さと、覚悟があればそれでいい。…とは言ってもそれが全てではないがな。 ノアル:ふーん。強さと覚悟かあ… マリク:お前ならなれると思うけどな、絶対に。 ノアル:そこまで言い切りますか。 マリク:そこまで言い切れるさ。 *** 「うーん…いつの間にか夜になっちゃったねえ」 「元々はじめた時既に日が傾いていたからな」 辺りを見回すとすっかり日は落ちていて、街灯の明かりが私たちを照らしていた。 夜のバロニアはそれはそれで素敵だ。なんだか幻想的。 「…今日はやめるか?」 「ううん、やめない!試してみたいの。マリクこそいいの?こんな夜まで」 「構わん。部屋に戻ると書類整理が待っているからな」 「あはは、何それー」 そう笑いながら私は斧を構えた。 マリクも気付いたのか投刃を構える。 大丈夫、過剰意識ってわけではないけど人並み以上にはできるはずだから。 「今度こそ行きます!はあっ!」 「お、っと。やっぱりオレの目に狂いはなさそうだ」 私は走り出すと、再び振り回した。今度はちゃんと斧だけども。 さっきと違ってマリクはそれを投刃で払った。やっぱ見た目通り力強いな…。 吹っ飛ばされたが一回転して着地する。 …一撃当てるくらい直ぐに出来る思ったのは間違いだった。けどさっきと感触が違う。 これなら。 「いけっ、蒼牙刃!」 「フン!中々太刀筋は良いようだな、言うだけの事はある」 「なんか、っムカつくんだけど!はああっ剛招来!いけ!」 中々、なんて物じゃない。 この子は…まだ荒いが育てればかなり強くなる。 まだ幼いのにこのパワーは凄い。予想以上だ。 「そうだな、オレからも行ってみるか、壱心!」 「ふええ!?ちょ、攻撃されるなんて聞いてない、うわっ」 マリクの投げた刃がこっちに向かってきて…避けられないと思った私は武器で防いだ。 思った以上の衝撃に反動で私はしりもちをついた。 「何今の…じんじんするー」 「よっ、と。大丈夫か?加減するべきだったか」 「そんな事ない!」 むむ、敵わないってわかってるけどやっぱり悔しいじゃない。 立ち上がろうとして、少しよろけたけど問題ない。 それよりも一撃、よ。真正面から突っ込んだって弾かれるか避けられるがオチ。だったら。 「はああっっ!爆砕陣!」 「こんなもので当たるわけが、ん?」 「っ、震影刃!」 「なっ…」 爆砕刃で地面ごと攻撃して砂煙が舞った直後に震影刃で攻撃。 正直今の私にはこれくらいしか思いつかなかった。でも… 「…ってやっぱり無傷じゃない!やっぱり撤回ーマリク強すぎだってば!」 「いや、そうでもないぞ。今の一撃は効いたな。…まさかこのオレが古典的な手段でダメージを食らうとはな、油断した」 「え…?」 マリクはそう言うと右の手の甲を私にみせた。 そこには確かに傷が。…小さいけど。 「あれ…じゃあ私、マリクに当てたの?…騎士学校入っていいの?」 「ああ。ってまあ騎士学校にははじめからお前の承諾さえあれば入れたけどな。」 「ほんと!?わあ、嘘…やった…!」 「お前には騎士の素質があるのかもしれんな。オレに一撃当てるなんて中々だぞ?」 そう言うとマリクは笑いながら私の頭をポンポンと叩いた。 なんでだろう、凄く嬉しい。 この力が少しだけ認められた様な気がするから? あの騎士学校に入れるから? …ううん、多分マリクに誉められたからだ。 彼に誉められるだけでこんなに嬉しいなんて。 なんて浮かれてたら突然頭を捕まれた。 「え…な、何…」 「でも攻撃の間に隙がありすぎるしパターンも読まれやすい。他にも及第点がありすぎて今上げていくと少々疲れそうだ」 「そ、そんなにあるの…」 「ああ、困るくらいにな。これから毎日ミッチリ鍛えてやるから覚悟しろよ?」 「う…お、お手柔らかにお願いします」 「考えておくさ」 「どういうことよ!」 威張ってみせたけどこのままだと置いてかれるので早々と歩いていったマリクを慌てて追いかけた。 [*前] | [次#] モドル |