入力を終えたサーシャは立ち上がり部屋を出て少年の眠る部屋へ行く。エイルもそれに続いた。
相変わらず眠り続ける少年は、呼吸をしているのかもわからないほどで、マネキンのようだった。
「喋りかけていいよ」
エイルは背後で声を聞き、意を決して少年に喋りかける。
「ずっと探してた…本当に綺麗だ”シャロン”。早くお前を抱きしめたい」
「名前まで付けてるのかい?」
「あぁ、彼はシャロンだ」
「そう…。まぁなんでもいいけど、そろそろお別れだよ」
呆れたとでも言う顔をしたサーシャは初めの扉を開け、暗闇へと顎をしゃくる。
「お別れ?」
「まだプログラムが完了していない。俺たちが出て、この扉を閉めたらインストールが始まる仕組みだ」
なんたって人形の命をインストールするのだ。それなりの時間がかかる。
「そうか…。シャロン、暫くの別れだが待ってろよ」
エイルは腰をかがめると、ガラスケース越しの彼にキスをした。
「必ず迎えに来る」
何の反応もない彼だが、エイルは「頑張れよ」と言った。サーシャは無言でそれらを聞いたが、名残惜しそうに振り返りながら部屋を出たエイルにからかうように笑う。
「アツアツだな」
「……」
無言のエイルにも気にせずサーシャは続けた。
「頑張れって…知ってるのかい?この扉を閉めてインストールが始まると、どうなるか」
「聞いただけだが…」
「そう、じゃぁ耐えろよ」
ニッと試すように笑ったサーシャは持っていたノブを押し、扉を閉じた。
ピピッっと言う音と共に、古めかしい扉の上にあるランプが赤く光る。それはインストール中の知らせであった。
『ああ…あああッ!!あぁあぁぁ!!!』
微かに耳を劈くような悲鳴が扉の向こうから響いた。それは彼の声だった。
『ゔあ゙ッッ!!あ゙あ゙あ゙あああぁ!!』
あの細く白い喉から出ているとは思えないほどに、獣じみた苦しそうな声はエイルの心を締め付けた。
「……ッ…」
バァン!!
突然聞こえた音に驚き、振り返ってしまったが、ノブに伸ばされた手はサーシャに止められる。
「ガラスを叩いてる音だ。でもあれは強化ガラスだから割れない」
「……可哀想だ」
「しかたないことだね。彼は人形なんだから」
「……」
「さ、行くよ」