03
それからというもの、会長に呼ばれて生徒会室に行ったり、生徒会と無理やりではあるが食事を一緒にしたりするようになった信司は、書記である和田弥生に初めは驚いたものの、特に何も言ってこず、目を合わせようとも、近づこうともしない相手の態度に、苦手に輪をかけて嫌いになったのである。
相変わらずその人を見下し、全てをわかりきっているかのような目はもっと嫌いで、人と必要以上にかかわらないようにしているとこも、不必要なことを極端に嫌うところも、他人を顧みないようだ。自分もそんな節があるが、友達ができ楽しく他人と関わる一般高校生の信司は、そういうところも嫌いであった。
もっと人に優しくするばいいのに。友達が一人もいない弥生に、信司は少し心配と、多大な自業自得だろ、という言葉をいつも心の中で言う。
それが自分に対して優しくしてほしいという願望であると、信司は微かに気づき始めていた。
「…あんなやつ嫌いだ」
呟く声はどこまでも偽りのようで、信司は空を見上げるのをやめた。
いつからか分からない、意外にも自分の目線は弥生を追っていて、観察成果としては彼のことをこと細かくわかるようになっている。
男になど興味はないが、どうしても弥生を意識してしまう。嫌いなのに。否、そもそもなぜこんなにも嫌いなんだろうか。
あの態度だって、今までの信司にとっては軽く流せるものなのに、なぜか弥生の態度は自分の心に引っかかり、掻き乱す。
「俺って…本当は……」
そうとしか思えない。
生徒会や風紀の美男子達。会長などはランキング一位で家柄も良く、包容力のあるいい男なはずなのに、信司は全く興味がわかない。
友達ならなってもいいとは思えど、それ以上なんて考えられない。
しかし、弥生ならどうだろうか、友達、ましてや恋人なんかになりたくはないが、もしもなんて考えるとなぜかしっくりくる自分がいる。
弥生の隣で笑ってる自分、弥生も一緒に笑ってて、結構幸せだったりするんじゃないのか…。
でも弥生は自分のことを嫌っている。あの眼差しはそうとしか思えられないし、信司をいないものとして、生徒会室に行っても声ひとつかけないとなれば、それは確実だろう。
信司は顔を手で隠すように屈み、なんとも言えない苦しい気持ちになった。
出会った日以来、彼の声を聴いていない。
極偶に目線が合うが、あの目の冷たさは他の奴らに向けるものと一緒で。
態度だって他の奴と同じように、自分を寄せ付けないようにしている。
信司は弥生が嫌いで嫌いでたまらなかった。
自分にかけられることのない声も、自分を見ない瞳も、自分への態度が他人と同じなことも。
嫌いだ。嫌い。嫌い。
「大っ嫌いだ…」
あの時の静かに本を読む弥生の姿が脳裏をよぎったが、それを止めることなく無理やり流し、次の教室へ向かうべく信司はゆっくりと立ち上がった。
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