短編 | ナノ


02

それは信司が生徒会の親衛隊に追われていた時のことだった。

信司の容姿はそれはそれは結構にかっこよく可愛い。身長が平均な分、強気受けとして広まった転校生に生徒会も興味を持ち、頭の良さや運動神経の良さなどからも、ぜひ生徒会に、とちょっかいをかけていたのである。

すでに会長や副会長、委員長などに好かれているとしか思えないほどで、否、実際好いていたのだが、それを見て面白くないのは、学園内の美男子を崇拝してやまない団体”親衛隊”であった。

毎日毎日飽きもせず、嫌がらせをしてくる親衛隊に、信司はイライラを募らせながらも、なかなかあの男にしては可愛い顔に拳をぶつけるのにも気が引け、逃げ惑う日が続いていた。

「…あきねぇ奴ら……ぁ…」

ぶつぶつと呟きながら、信司が裏庭まで来ると、そこには先客がいる。

ベンチに座り、静かに本を読む男の姿に一瞬目を奪われたが、すぐに後ろからガヤガヤと声が聞こえ、慌ててベンチ裏の茂みに身を隠す。

男と一瞬目が合ったが、あの時の冷たく鋭い眼差しは一生忘れないだろう、身が凍る思いがしたのだ。

射抜くような目が、信司を軽蔑でもしているかのようで、カッと頭に血が上ったが、我慢してサッと隠れる。

足音が近づき、ベンチの前で止まったのがわかった。

「わ、和田様!!」

様付など一般生活を送ってきた信司には到底聞きなれないものだが、和田と呼ばれた男は返事をするでもなく、その長い足を組み替えて、目線を親衛隊に送った。

見つめられた親衛隊の可愛らしい容姿の男は、顔を真っ赤にしながら、おずおずと話始める。

「ここに転校生が来ませんでしたか?」

滅多に出会えない和田という存在に、可愛い男はそれこそ熱に浮かされたように艶っぽい声をだし聞いた。

隠れていた信司はそれにドン引きしながらも、和田がなんと答えるかハラハラと耳を澄ませ、手元にある草を握りしめる。

あの時の冷たい眼差しを思い出すと、軽く、此処にいるぞ、と言って親衛隊へ引き渡すに違いない。

そしてまた逃げる俺を冷酷な黒目で、見下すのだろう。

しかし、次に聞こえた言葉はそれとは真逆のものだった。

「来てない」

低くすぎない、ちょうどいい男の声があたりに響き、次にはその視線をさらに鋭いものに変え、和田は親衛隊に言い放つ。

「まだ、何かある?」

さっさと消えろ、とでもいう言葉と眼差しに、先ほどまで紅く染めていた顔を真っ青にして、失礼しました!と親衛隊は去って行った。

意外にも信司を庇った和田に、一瞬ときめいた信司だったが、その後に。

「お前も邪魔、どっか行け」

と言われればそうもいかない。最近のストレスも溜まり、とうとうキレた信司はすぐさま立ち上がり、和田の前に出る。

頭一つは身長の高い相手に、信司は食って掛かったのだ。

「庇ってくれた礼は言うけどなぁ!その態度なんとかしろよ!それにここはお前の場所じゃない、学校の敷地内だし、生徒の俺はどこで何をしようが勝手じゃねぇか、邪魔って言われる筋合いねぇよ!」

グッと睨みながら言うと、和田は一瞬驚いたように目を見開いたが、そのまま何事もなかったように、手持ちの本に目線を移した。

どこまでも信司を無視する態度に、己の怒りが爆発を通り越して、静かなものになっている。信司はクソッと言葉を吐いて、その場を後に、また親衛隊から逃げる。

これが、久喜信司と和田弥生の出会いであった。



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