「はあ・・・明日、ですか」

素っ気無い声しか出なかった。
ずっと前から分かっていた事だった。降谷さんが例の組織に潜入するという事は。ただ、その報告が些か急過ぎだというだけで。
恐らく間の抜けた顔をしているであろう私の鼻をつまみながら、降谷さんはにやりと笑った。

「鬱陶しいハイエナ共には遅れを取れないだろう?」

「なにするんですか」

くぐもった声が出た。なんで鼻つまんだんだろうこの人。私は眉を寄せて困った振りをして、指を丁寧に引き剥がした。そして「お気をつけて・・・」と小さく呟く。もとより私達は公安。いつ命を落としてもおかしくはない場所に身を置いている立場だが、今回のヤマは少し大き過ぎる。常に死と隣り合わせの任務となるだろう。安全な場所でバックアップばかりしている私からしたら、それはもうエベレスト級の危険度のはずだ。

「そんな顔をするな。七市野とはまだまだ顔を合わせるだろうからね」

ふっと笑った降谷さんの余裕あり気な顔を見て、少しだけ気分を悪くした。人が折角心配しているというのに。さっきまでのセンチメンタルを返せ。

「初めて七市野をバックアップに指名した日から随分たつが・・・きみの働きには助けられているよ。今回も、頼んだぞ」

珍しく私の事を褒めるものだから、私は面食らった。ちょっと、それって、死亡フラグなんじゃ。

「・・・少しは照れるくらいしたらどうだ。・・・ほんと、かわいくない」

「一言多いです」

言葉と共に振り上げたチョップはいとも簡単に避けられて悔しい。思わず地団太を踏みそうになるが、だめ、やめろ。私は大人だ。降谷さんの方が少し年上ではあるけれど(ついでに地位も上だ。当然だが)、歳相応の落ち着きを見せなければならない・・・。既に手を上げてしまっているので説得力には欠けるが。

「ああ、そうだ。潜入は明日からだが、その1週間後に七市野の隣に引っ越すことになっているから。しっかりサポート、頼んだよ」

「なにそれ聞いてない」

その八日後、私の隣の部屋には安室透という男が引っ越してきたのだった。




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