「・・・・・・」

「・・・・・・」

いやあの、サポートはしますよ。しますとも。
だけどね、食事とかってのはプライベートなんじゃないでしょうか。
あと食事の時間にはまだ3時間早いです降谷さん・・・!!
あともう一つ言わせていただけるなら、私、今日非番なんですけど。



時は遡る事10分前。
私は一通りの家事を済ませてテレビを見ながらソファでうとうととしながら穏やかな午後を過ごしていた。
この犯罪の多い国で公安と言う場所に身を置いている中で、こうして過ごせる事が一番幸せだと私は感じている。それなのに。この穏やかな午後を奪い去るチャイムは無情にも鳴り響いた。

「ん、んん・・・?はあい」

一応返事を返して眠たい目を擦りながら、特に何も考えずにドアを開けると、そこには昨日お隣に引っ越してきたばかりの安室透・・・というか、降谷零が立っていた。

「・・・・・・」

絶句。その表現が正しいだろう。
固まっている私に、降谷さんはニコリと微笑むと、「すみません、ちょっと相談がありまして」と言いながら勝手にドアを開けて体を滑り込ませてきた。相談なんて建前だ。そのまま降谷さんは「お邪魔します」と言って部屋に上がると、部屋の真ん中にスマホを置いて大音量で音楽を流し、コンセントを調べ始めた。盗聴器を探している。
私も気をつけてはいるが、やはり降谷さんのことだ。自分で確かめなければ気がすまないのかもしれない。
一通り全ての部屋を調べ終わると、降谷さんは未だに玄関でつっ立って様子を見ていた私の手を引いてソファに座らせた。

「意外と綺麗にしてるんだね」

「え・・・ええ、どうも」

何なんだと思いつつ曖昧に礼を言うと、降谷さんはスマホの音楽を止めてそれをポケットに仕舞った。そして何でもないかのように言う。「この任務についている間は食事の世話もしてもらおうかと思って」聞き逃すところだった。は?いや、聞き逃したのか?ちょっと何言ってるのか分からない。

「生活は不規則になるだろうし、組織の仕事と公安の仕事を両方やってるんだ。正直言ってプライベートな時間は睡眠時間と入浴時間くらいしか取れないだろう。しかし食事も取らなければ体が持たない。これは立派なサポートの仕事だと思わないかい?」

「あー・・・仰る通りですね」

聞き間違いでもなんでもなかったらしい。私はぞっとした。毎日この人に食事を用意しなければならないのか。これは・・・料理スキルが問われる・・・。
生唾を飲んだ私にはお構い無しに、降谷さんはテーブルの上に無造作に置いてある私のスマートフォンを手に取ると、勝手に操作し始めた。あ、あれ・・・なんで暗証番号知ってるの・・・?

「潜入用のスマホのアドレスと電話番号をきみのスマホに登録しておいたから、食事がいらない時とか帰りが遅くなる時とかは連絡をいれるよ」

とんとん拍子に話が進んでいくので、私は情報を整理できない。「よろしくお願いしますね、七市野さん」ニコリと人の良さそうな笑みを浮かべた降谷さんは別人のようだった。
こうして降谷さんは持参してきた資料(これを出した瞬間私は、あ、この人長居する気だと思った)を読み出し、私はテレビを見ながら降谷さんの隣に座っているという私にとっては非常にカオスな空間が出来上がったのだった。
そして今に至る。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「あ、あの降んぐっ・・・!!」

「気を抜くな」

沈黙が辛くなり、コーヒーでも入れようと立ち上がると、テーブルに着いた手を取られてそのまま引き寄せられて口の中に指を突っ込まれた。な、なんて早業・・・。恐るべし降谷零。

「きみ、それでも公安の人間かい?ここでは確かに盗聴器も何も無いとはわかっているけど、日頃の態度でボロが出ることは大いにある。常日頃から気をつけていないと駄目だよ」

降谷さんはまるでお仕置きだと言わんばかりに私の舌を強くつまむ。いだいいだいいだい!千切れる!生理的な涙が滲んだ。数秒間(私からしたら永遠だった・・・)私の舌を弄んだ降谷さんは、漸く満足してくれたようで、ずるっと指を引き抜いた。

「わかったら返事は?・・・それともまだ分からないのかな」

私の唾液で濡れた指を見せ付けるようにしながら言われれば私は恐怖に慄いた。「は、はい。わかりました。気をつけます安室さん・・・」そう言うのが精一杯な私に、降谷さんは満足そうに「よろしい」と言った。
つ、疲れた・・・精神的に。降谷さんの隣にドサッと座り込んでソファに身を預けてばれない程度に深呼吸をする。降谷さんはティッシュを取って指を拭いていた。・・・いや、洗ってこようよ。降谷さんがそれで良くても私は嫌だよ。暫くじとっとその様子を眺めてしまったが、降谷さんの視線が指から私に向いた時、思わずビクッと肩を揺らしてしまった。降谷さんは何も言わずにティッシュをもう一枚取ると、私の方に手を伸ばして口元を汚している唾液を拭いた。

「・・・なんて顔してるんだよ。そんなことより、さっきコーヒーを淹れに行こうとして立ち上がったんだろ?」

「え・・・ああ、はい。そうです。そうでした」

私ははっとして立ち上がった。「・・・ありがとうございました」お礼もそこそこにキッチンへ向かって、ポットに水を入れてお湯を沸かす。
お湯が沸くまで、私はポットから目が離せなかった。





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