「何をしているんですか?そんなところで」そう言って背後から腕を回してきたのは先程までの会話の中心にいた人物だ。後ろから抱きしめられて耳元で囁かれる。「早く帰ってご飯にしましょう」こんな人目につく場所で一体何をしてるんだ。頭に血が上って、昴さんの腕を掴むがびくともしない。それどころか腕の力はますます強くなった。というか強すぎいたあああ!

「わかった!わかりましたから!痛い!いたたたた」

私の返事を聞いた昴さんは満足気に笑って腕を解いた。絞め殺されるかと思った。


「食事の用意はもう出来ていますが、どうしますか?先にお風呂にしますか?」

広いリビングにある大きなテレビの電源を入れながら、昴さんが問う。私は時計を見てまだちょっと早いかなと思い、「じゃあ先にお風呂入っちゃってもいいかしら」とザッピングしている沖矢さんに言った。「では一緒に入りますか?」だなんて色気たっぷりの声で言うのは予想済みでした残念ながら。「寝言は寝てから言った方が良いと思うわ」皮肉をNOの返事とすると、昴さんは余裕ある笑みで「そうですか」と言った。弄ばれている気がして堪らない。
一旦部屋に着替えを取りに戻ってから脱衣所に入ると、まずは浴室のドアを開けた。・・・わお、もうお風呂入れてくれたんだ。熱気の篭った浴室と蓋がしてある浴槽を見て感心した。流石に一日中家に居れば暇を持て余すか。なら後は入るだけねと上着を脱げば、見計らったかのようにドアが開いた。「ああ、タオルですが・・・」「見え見えなのよ!」同じ手に何度も引っかかると思うなよ。顔を出した昴さんに上着を投げつければ、彼は簡単にそれをキャッチして衝突を免れた。

「ああ、すみません。私としたことが。またノックを忘れてしまいましたね」

「そういう問題じゃないのよ」

昴さんは私の上着をハンガーにかけながらしれっと「タオルはそこのチェストの中にありますから」と言った。私は溜息を吐いて上着を受け取る。「わかった」

「では私はリビングに居ますので、ゆっくり温まってきてくださいね」

戸口の所でニコリと人の良さそうな笑みを浮かべた昴さんに、私は一瞬見惚れそうになったけれど「はいはい」なんて可愛くない返事をして彼を見送った。


「お風呂空いたよ」

ソファに座って本を読んでいた昴さんに声をかけて彼の隣に座る。時計を見ればまだ夕食には早そうな時間だったので「先に入ってきたら?」と勧めるが、「いや・・・」と言葉を濁された。

「私はまだいいですよ。もし急用が入ってしまったら困りますし・・・」

それもそうか。一度変装を解いてしまったら身支度を整えるのに時間がかかるだろう。そうか・・・だから私いつも昴さんがお風呂入っている所を見たことが無いんだ。「そう、」と納得して言うと「それに、」と昴さんは言葉を続ける。

「それに、もしその状態で花子さんと同じ部屋に居て、本性が出てしまったら大変ですから」

「・・・っ!」

肩を抱き寄せられて耳元でそう囁かれ、私は自分の頭が沸騰しているのではと思った。赤くなった顔を見られたくなくて顔を背けるけど、昴さんにはそんなことお構いなしで、ノーガードの首筋に唇を寄せた。「・・・んっ」くすぐったくて身を捩ると、ふっと笑って昴さんは体を離した。顔に手を当ててみると、やはり顔は熱くて。熱を取ろうにも指先まで熱が広がっている所為でなんともならなかった。


どれくらい時間がたっただろう。ぼんやりとテレビを眺めていた私は時計に目をやる。私がお風呂から出てきてからまだ20分程しかたっていない。いや・・・20分も、か。冷静になるのにこんなに時間をかけているようではこの男との生活は厳しいであろう。隣でまだ本を読んでいる昴さんを見てそう思った。




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