あああ、とんだ茶番だ。なんだってこんな…。

当初私の計画は完璧だった。その後のことまでしっかり考えていたし、抜かりはなかったはずだった。配役と役割の振り方、誰がどのように動くだろうと判断しての采配、全てに自信があった。
しかしこの計画を使った上で自分の思いのままのシナリオに書き換えた人物がいたのだ。
それはあの少年探偵のボウヤだった。
よもやあの少年に一本取られるとは思ってもいなかった私は、あの時点ではたった一つの小さなドジに翻弄されたのだと思っていた。何なら、ドジと言うより偶然だと思っていたのだ。蓋を開けてみればそれは必然であり、少年の策略であり、私の身の振り方や思考を利用された、それは見事な計画だったのだった。あどけない子供の振りをしているが、その裏に潜んでいるのはシャーロック。どんなに難解なロジックも、絡まった糸を解くようにして正解にたどり着く。今の時点では私や彼の行動が正解だったのかどうかはわからない。私が計画を話した時少年は、お姉さんすごいね。ボクもそう思ってた所。お姉さんが先手を打ってくれたのなら話は早いね。と不適な笑みを見せたことを思い出す。同じ考えにたどり着く人がいるのなら、それが正解なのかもしれない。あの場面ではこうした方が良かった、別の選択肢があったかもしれない。そう思う事はあるが、時が過ぎてしまってからでは遅いのだ。
あの少年は私のことを異常なまでに警戒していたが、警戒していたのは彼だけではない。私もだ。赤井秀一や他の捜査官の周りでウロチョロしている不審な小学生というその存在は、私にとっても脅威だった。彼の振り方だけがどうしても分からなかった。それが敗因だったのだろう。私が直接関わったのはあの時が初めてだったというのに、彼は私の振り方まで計算に入れていた。有希子さんと私の接点を知り、私の人物像を先に捕まえた彼の勝利と言えよう。情報力の勝利だった。私は彼に尋ねた。きみ、何者なの。不適に笑った少年は江戸川コナン。…探偵さ。と決め台詞を放ったのだった。


さて、何故私は今、こんな考えを起こしているかと言うことなのだが。
それは数日前、有希子さんにとんでもないお願いをされたことから始まる。
住んでいたアパートが火事になり、住む場所がなくなってしまった昴さんにコナン君が親戚の家の留守を預かって欲しいと申し出てくれた。そこまでは良かったし、私は私でもう一部屋倉庫としてアパートを借りていたのでそこを昴さんに使ってもらおうと思っていたくらいで、その申し出は些かありがたかった。だがしかし、それについて住人の夫妻が条件を出したのだ。それが私にとっての大問題。昴さんが見知らぬ女性を家に連れ込まないように見張りとして、私もそこに住めというのだ。それなら断ろうかと思っていたが、昴さんの無言の圧力でついに決定となってしまったのだった。以上回想終了。
そして今日から仮住まいに寝泊りするというわけだ。工藤邸の近くに借りた月極駐車場に車を停め、門の所までたどり着くと、丁度隣の阿笠邸から子供たちが出てきた。「お邪魔しました!」という元気な声と共に。あ、なんか嫌な予感。そう思って急いで中に入ろうとするが時既に遅し。「あー!花子さんだあー!」見付かった。

「あら」

「あ!あの時のお姉さんー!」

「ほんとだ!」

「こんにちは!お隣さんに用事ですか?」

矢継ぎ早に声をかけられては逃げられない。観念して振り返ると、目線を合わせるようにしゃがんだ。

「こんにちは」

「花子さんは、今日からこの家の留守を預かることになってるんだって」

そばかす…光彦くんの問いに答えたのはコナン君だった。

「そうよ。……よろしくね、哀ちゃん」

哀ちゃんの方を見てみると、あからさまにホッとした顔をしていた。「急に見知らぬお隣さんがやってきたので、少し不安だったの。あなたも住むなら初めから知っておきたかったわ。よろしくね、花子さん」コナンに対して棘を飛ばしながら私に笑みを向けてくれる。この子も鋭いところがあって油断ならない存在だけど……仲良くなれそうな気がする。「お前なー…昴さんが駄目で、なんで花子さんは良いんだよ」納得のいかなさそうな顔でコナン君が哀ちゃんに耳打ちをしているが、聞こえてんぞこら。「彼女は良いのよ」機嫌よさげに哀ちゃんが囁くと、時計を見た光彦君がそろそろ帰らないと、と言った。しっかりしている子だなあ。

「そうよー。早く帰んなさい。親御さんが心配するからね」

「うん!バイバーイ、灰原さんにお姉さん!また遊ぼうね!」

「じゃあな!」

「さようなら!」

「じゃーな」

それぞれ一言言うと、彼らは仲良く帰って行った。……はあ、何言われるかと思った。緊張感が解けた脱力感を感じて頬に手を当てると、「花子さん」とまだいたらしい哀ちゃんに声をかけられる。

「あの沖矢って言う人…ちゃんと監視しておいてね。あと、あんまり大きい声出すと隣近所に聞こえるから気を付けることね」

「!!」

驚愕。え…この子何のことを言ってるの…?監視って…。それに後半のところはもしかして情事のことを言っている…?最近の子は進んでるとは聞くけど、まだ小1だよねこの子。
思わぬところからの爆弾投下に思わずポカンと口を開けたまま固まっていると、哀ちゃんは「じゃあね、花子さん」と言って家に入って行った。
そのまま暫く固まったままだった私を不審に思ったらしい昴さんが私を迎えに来たのは、そのすぐ後の事だった。



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