他の生徒たちが家に帰るためにあの真っ赤な列車に乗っている頃、またしてもわたしはこのホグワーツに残っていた。
目の前で飛び切り嬉しそうにニコニコしているアルバスに、わたしは思わず噛み付いた。

「アルバス!わたしはここにいても良いといったのに、どうしてハリーはあの最低な親戚たちのところに帰らなければならなかったのですか!?」

「君とハリーでは違うということじゃよ。君はここにいなければならないし、ハリーは親戚の家に帰らねばならぬという事じゃ」

なんでもない風に言うアルバスにわたしはもっと頭に血が上った。「もういいです!アルバスのわからずや!」そう叫ぶとわたしは校長室を飛び出した。
多くの先生方もすでに家に帰っていて、この広い学校にはもう数人の先生やフィルチ、ハグリッドのような職員の方しか残っていなかった。そのうちの誰とも(もちろんゴーストたちとも!)会いたくなかったわたしは、絶対に誰もこなさそうなところにと思って知らない道をずんずんと歩いていった。
地下がスネイプの砦だと知っていたわたしは、おのずと上へ上へと足を運んだ。もう自分がどこにいるかわからなくなってしまったけれど、それでも構わずに、ここしばらく使われていなさそうな教室に入り込んだ。机も椅子も床も、どこもかしこも埃だらけだった。わたしは窓際の一番後ろの席まで歩いて行って、椅子の埃を軽くはたいてから座った。

「わたしだって帰ろうと思えばあの腐れ親戚の家に帰れるはずじゃない・・・どうしてハリーはあんなひどい人たちのところに帰らなければならないのかしら」

ぽつりとこぼすと、一緒に涙もこぼれた。
わたしは机の埃も少々乱暴に払うとそこに両腕を乗せて突っ伏した。涙が止まらない。
ハリーはこの前、闇の帝王と初めて戦った。ハーマイオニーやロン(それからロングボトム)といった勇敢な中間達と、その脅威に立ち向かったのだ。それなのに、対してわたしは何もしておらず、魔法薬学の罰則をさせられた後、疲れただろうと言ってスネイプに出された紅茶を飲んでいたらいつのまにか眠ってしまっていたのだ。なんたる不覚!!
涙を流しながらもぎりぎりと歯を噛みしめていたけれど、わたしはただの保険という役割に過ぎないということを思い出した。わたしはただの保険で、何の力も持っていない・・・。自分の無力さに、今度は涙が出た。わたしの役立たず!!

しばらくそうやって、どれくらいの時間が経ったんだろう。窓の外はもう暗くなっていた。そろそろ夕食の時間かな、と思ったけど、わたしはご飯を食べる気にはならなかった。
このままぼんやりしていたらそのうち机や椅子と同化してしまうだろうか。もしそうなったら、わたしの事を盾に加工してほしい。自然現象とかそういうのからは守る事が出来ないけれど、ヴォルデモートや闇の魔術からは守る事ができるだろう。
そんなことを思っていたら、突然背後の扉が開いて息を荒くした誰かが入ってきた。
その誰かは息を整えて一度咳払いをすると、「ミス・七市野・・・探しましたぞ」うんざりするような声で言った。
わたしが往生際悪くうつ伏せたままいると、スネイプは「・・・寝ているのか?」と呟いて、わたしに近寄ってきたのが足音でわかった。

「校長はひどくうろたえてマクゴナガルにこっぴどくしかられていた。早く戻ってやらないと大広間の天井がいつまでたっても大嵐のままだ」

そんな事を言ってわたしの横に立ったスネイプは、床の埃で自分のローブが汚れる事を全く気にしていない様子で片膝を付き、机に突っ伏したままのわたしの肩に手をまわして、そのまま抱きしめた。アルバスだけじゃなくて、今度はわたしがうろたえた。
恐る恐る顔を反対側に向けると、スネイプの肩が目に入った。薬草やらなんやらのにおいがする。すっと鼻から空気を取り入れると、目の前の肩が揺れてさっとスネイプが離れていった。ぬくもりがなくなった肩がやけにすーすーするなと思った。

「なっ・・・七市野!起きていたのなら、もっと、早く反応すべきだと思うがね?」

取り繕うように慌ててスネイプが言ったが、もう遅かった。

「すみません、スネイプ先生。でも、ずっと大広間の天井が大嵐だったらわたしも困ります!」

伝染のようにうつった狼狽が今度はスネイプにもうつったのを見てしまった。話をそらそうと大広間の天井の事を言うと、「七市野は、もっと我輩たち大人の言う事を信じなさい」と言われた。スネイプはいつもの調子を取り戻したようだ。

「校長の言っている事はいつも8割方正しい。七市野はここにいなくてはならないし、ポッターは帰らねばならん」

アルバスが言った事と全く同じ事をスネイプは言ったけれど、なぜだか今回はその言葉がすとんとわたしの中に入ってきた。


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