「あの、マクゴナガル先生、わたし今日は図書室に行きたいのですけれど・・・」

わたしが空き教室で塞ぎ込んだ一件があってから、まわりからのわたしに対する見方が少しだけ変わってしまったようで、わたしは何をするのでも逐一寮監のマクゴナガルに報告をしなければならなくなった。
いつだったか「まるで監視されているようだわ」と呟いた時、アルバスがいたずらっ子のように目を細めて「これでハリーの心配をせずとも良いじゃろう」と言った。一体どういう理屈なのだろうかと思った。

「ええ、わかりました。マダム・ピンスによろしく伝えて置いてくださいね」

「彼女、休暇で帰ってはいないのですか?」

なんと!マダム・ピンスは家に帰っていなかったらしい。驚いてそう返すとマクゴナガルはたまにしか見せないような笑顔でおどけたように言った。

「彼女は休暇中であっても、書籍たちと恋愛するのに忙しいようですからね」

マクゴナガルでも茶化す事があるのだなと、彼女の新たな一面を知った。


図書室に入ると、マダム・ピンスの変わりにスネイプがいた。

「あ、スネイプ先生。こんにちは」

入った瞬間目を向けられたので、咄嗟に挨拶をした。対してスネイプは「ああ・・・」とだけ言って再び本に目をおとしてしまった。
マクゴナガルによろしく伝えておいてくれと言われたので、マダム・ピンスを探そうと思ってあたりを見渡したけれど、いつも彼女が座っているところはもぬけの殻で、どうやら彼女はここにはいなさそうだった。

「・・・マダム・ピンスなら所用で出かけているが、なにか用があったのかね?」

わたしがマダム・ピンスを探している事を悟ったのか、本から目を離さずにスネイプが言った。

「いいえ、マクゴナガル先生によろしく伝えておいてくれと言われたので。それだけです」

「いないなら仕方ないですね。マクゴナガル先生にはかわりにスネイプ先生に挨拶しておきましたと言っておきます」と続けざまに言うと、スネイプはふん、と鼻を鳴らした。愛想のない先生だななんて思ったが、抱きしめられたときの事をふと思い出した。急に図書室に暖房がかかったみたいに暑くなる。
それをごまかすためにわたしは当初の目的だった本を探すためにうろうろ歩き始めた。

「・・・あった、これだ」

ようやくお目当ての本を見つけて閲覧席に腰掛ける。今までわたしが歩く音とスネイプが本のページをめくる音しか聞こえていなかったのが、静寂に包まれる。
呪文学の本をめくりながら、今度はその中で探し物だ。わたしが閉心術のページを見つけた頃には、もう図書室は完全な静寂に包まれていた。見つけてみたのは良いものの、この本はあまり役には立たなかった。幼い頃からずっと使い続けていたわたしには、当たり前の事しか書いてなかったのだ。さて、どうしたものかと腕を組んでイスに深く座りなおす。「!」そのとたん、柔らかいものに頬をくすぐられてヒキガエルのように飛び跳ねそうになった。さっとその柔らかいものの正体を見ようと顔を横に向けると、かなりの至近距離でスネイプが目を見開いてわたしの顔を凝視していた。そして、頬に当たったのが彼の髪の毛だって事に気が付いた。

「っ!!きゃあ!」

それにさらに驚いて椅子から転げ落ちてしまった。
スネイプも同じくらいに驚いたものの、落ちる寸前でわたしの腕を掴んで床と仲良くなるのを防いでくれた。
「あああありがとうございます」と搾り出すようにしてお礼を言うと、スネイプは「・・・どうやら11歳の可愛らしい少女には落ち着くということが出来ないようですな」と皮肉を返した。驚かせたのはどこのどいつなのかしら!
しかし、それを口にする勇気はわたしにはなく、スネイプに腕を引っ張られて大人しく立ち上がった。

「ないとは思うが一応聞いておく、怪我はないかね」

スネイプはなぜか、椅子ではなく机のほうにわたしを座らせ(ああ、ここにマダム・ピンスがいたらきっとわたしたちは即行で図書室を追い出されていた事だろう)、むき出しの膝や靴下に隠れている足首などを確かめた。

「ええ、ありません。すみません。大丈夫です」

なんとなくどぎまぎして答えると、スネイプは机に両手をついた。わたしの両側についた手を見て、スネイプの服の袖が思いの外長い事に気が付いた。服の袖は半分くらい彼の手を隠している。きっちりと服を着込んでいる彼だったからこそ、違和感を感じた。そして、その袖の長さがなんだか可愛らしく思えてしまった。
それから何も行動を起こさないスネイプに不信感を感じて、わたしは「先生・・・?」と顔を覗き込んだ。

「・・・レジリメンス」

「・・・え?なんですって?」

スネイプはもごもごと聞き取りづらく何かを言ったが、あんまりにもはっきり発音しなかったので何を言ったのか聞き取れなかった。
何かがっかりしたような顔を一瞬見せたスネイプは、ふぅと息を吐くと、目を閉じてわたしの額に自分の額を押し付けた。あつい。

「先生、お熱があるようなので、少し休んだほうがいいと思いますよ」

「・・・・・・そのようだな。ではその忠告を甘んじて受け入れるとしよう」

すっとわたしから離れたスネイプは、長いローブを翻してカツカツカツと足早に(しかも大股で)去っていった。まるで時間を早める呪文を使ったみたいだった。

「ミス・七市野!!!何をやっているのですか!?」

丁度入れ替わりにこちらへやってきたマダム・ピンスに机に腰掛けるわたしを咎められ、今日一日図書室には入室禁止とこっぴどくしかられてしまったが、今回に限ってはわたしのせいではないと主張したい。断じて。


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