沖矢宅についてインターホンを押すと、間髪いれずにドアが開いた。まるでそこで待っていたかのようなタイミングに、なぜ来たことがわかったんだと思ったがどうせさっきのコナンくんのようにエンジン音でわかったとか言うんだろうからあえて聞かなかった。何か言いたそうにした私に気付いた昴さんが「上がってください。・・・どうかしました?」と首を傾げたが「いえ、なんでもないわ。・・・お邪魔します」と言ってやり過ごした。

「これ・・・頂き物ですが、どうぞ」

「いただきます」

昴さんが出してくれたのはアールグレイのような紅茶とクッキーだった。アメリカ土産のような甘いクッキーを齧るとFBIの仕事でアメリカにいた頃を思い出す。・・・ああ、そう言えば赤井さんと初めて会ったのもアメリカだったな・・・あの時も確か、「それで」・・・と、私が回想に入ろうとした所で昴さんに話しかけられ、私は回想を中止した。まあその時の話はまたの機会と言うことで・・・。「あのボウヤに会って来たんでしょう?」

「ええ、そうね・・・。作戦の成功とその他諸々を話してきたわ」少し考えるような素振りをしてから続ける。「そうそう、赤井さん・・・ジェイムズにバレていたわね」

「ああ・・・たまたま指先を見られてしまい・・・。彼はとても鋭いですから。それで今日花子さんの挙動から真実に辿り付いた・・・と言うところでしょうか」

「あなたも大概鋭いわね。その通りよ。流石は我らがボスよね。侮れないわ」

「そうですね」

「そう言えば、今日の授業はどうだった?」

「ええ、とても有意義でした。しかし及第点を取るのにはまだまだ掛かりそうですね」

「そりゃあそうよ。いくらあなたが器用だったとしてもね・・・」

「ああ、それと・・・食事くらいは自分で作るように言われました。切って焼いて味をつける程度の簡単な食事は作れるのですが、毎食作るとなるとレパートリーがなくなってしまいそうですよ。明日から少しずつ教えていただけるようなのですが・・・。もしよければですが、簡単な家庭料理で良いので教えてもらえませんか?彼女にしか教われない大切な授業を別のことで妨げるのは時間が惜しいので」

「家庭料理ねぇ・・・。そうね。では今日から一緒に夕食を作りましょうか。どうせあなたの食費は私の懐から出ているのだし、安く済むならそれに越した事はないしね」

「すみません」

「食費の事ならツケって事にしたんだから、気にしなくていいのよ。どうせ私も夜は殆ど自炊だし、一人分作るのも二人分作るのも変わらないわ。・・・ああ、そう言えば料理なんてしないと思っていたから調理の道具は必要最低限も揃っていなかったわね。必要なものは買い足しておきましょう」

「そうですね。では、出かけるまでの間に読みかけの本を読みきる事にします。寛いでいて下さい」



「あのさ、」あれから暫く思い思いの時間を過ごして私的にも時間を潰していたが、そろそろ出かけなくてはならない時間帯になってきたので少し焦りを感じて口を開いた。言えないままじれったく過ごすよりも思い切って言ってしまった方が気が楽だと思った。夕方コナンくんと話した内容が頭にリピートする。神妙な顔をしている私にすぐ気が付いた昴さんは読んでいた小説に栞を挟んで膝の上に置いた。「どうしたんですか?」

「あなたをさり気無く皆に紹介する手段を考えていたんだけど・・・」と言って悩む振りをする。大丈夫、コナンくんに言われた通り言うだけだから。「あんまり良い考えが思いつかないのよね・・・。昴さんは何か良い案がある?」

「僕ですか・・・そうですね・・・あるにはあるんですが・・・」

「やっぱり、あなたならもう考え付いていると思ったわ。どんな考えなの?」

「・・・あー、いえ、やっぱり良い考えとは言えないです」言葉を濁して昴さんは俯いた。そしてそのまま考える素振りを見せる。私はそんな昴さんを見つめて「あっ、」と何か思いついたように声をあげた。

「あー・・・これこそあまり良い考えとは言えないけど、昴さん。あなたがもしよければだけど、その・・・私の・・・恋人役って言うのはどうかしら。ほら、私周りから赤井嫌いで通ってたから、よく女の子たちに言われてたのよ。赤井さんぐらい良い男の事を嫌いだなんて、それなら一体どんな人が好みなの?って。その時私が決まって答える理想が、まさに昴さんのような人だから」

「だから・・・ね?」とはにかんで昴さんを見つめると、昴さんはぽかんと口を開けて数秒固まった後、「・・・それは、なんていうか・・・」と口篭った。「そんな嘘でも立派な告白・・・されたのは初めてです」私は鈍器か何かで思いっきり頭を殴られたような衝撃を受けた。「・・・・・・」嵌められた。あのクソガキ・・・!さっきの私の言葉は偽りではなく私の好みのタイプが昴さんだと言ったようなものだ。つまり私はコナンくんの口車に乗せられてまんまとまともな告白をさせられたのだった。「しかしまあ・・・」と昴さんが囁いたので顔を上げると、すぐ目の前には彼の顔のアップ。私は息を飲んだ。「偽りと言っても、嬉しいですよ。花子さんがそんな事を言ってくれるなんて」思った以上に優しげな顔をしている昴さんに、私の心臓は情けなく小刻みに鼓動し始めた。

「それでは、恋人の振りをしましょう」

そう言って近付いてきた唇を、私は拒む事が出来なかった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -