ゆるゆると意識が浮上した。瞼の奥は明るい。もう朝か・・・。あああ・・・やっぱり二日酔いだなあ、頭痛いし気持ち悪い。・・・やっぱり?って、あ!
完全に昨夜の事を思い出した私は抱きしめていた布団を手放した。「んん・・・」が、その布団の中から呻き声が聞こえてきて私は心底驚いた。

「君があんなに大胆だとは思わなかったよ・・・人前で酒を飲むのはもうやめた方が良い」

「え!嘘嘘嘘!私何にもしてないよね!?」

赤井さんの声に、私は完全にパニックになる。そして自分の体をチェックする。下着は上も下もつけていないが、服はちゃんと着ているし他に変わったところはない。よかった、未遂だ。

「仕事に遅れる前に行くといい。・・・服は洗濯しておいたからそれを着て行け。何か勘ぐられたら昨日言った通り友達の家で飲み明かしていたとでも言っておけば良いさ・・・俺はもう少し寝る。・・・ので、邪魔しないように」

赤井さんはそう言うとまたもぞもぞと動いて良い体勢を探り当てると、そのまま動かなくなった。依然頭から布団を被ったまま。息苦しくはないのだろうか。そうは思ったが赤井さんの言葉を思い出して私は急いでお風呂場に向かった。確かに、お風呂場には私が昨日着ていた服が干されている。服と一緒に干された下着を眺めながら、大胆ってこのことだったのねと納得した。しかしこうして赤井さんに服を洗濯されるのはあまり気分がよろしくない・・・。次がいつあるかわからないので着替えくらいは車に乗せておいても悪くはないのかもしれないと思った。



「おはよう、花子」

遅刻ぎりぎりで事務所に飛び込んだ私に声をかけたのは、酷い顔をしたジョディだった。

「おはようジョディ。酷い顔ね。大丈夫?」

「大丈夫よ。あなたこそ、私くらい酷い顔してるけど大丈夫?」

「あー・・・実は昨日あの後友達と飲み明かしてしまって・・・」

「それで昨日と同じ服を着てるのね」

「まあね・・・。私も二日酔いよ。お互い大丈夫って言う事ね」

私が頭に手を当てて見せると、ジョディは力なく微笑んだ。



「外回り行ってきまーす」

夕方になり、そろそろコナンくんたちが下校する時間帯だと気が付いた私は、手にしていた書類をデスクに放って立ち上がった。

「今日は直帰するので、あとよろしくね」

出入り口のところで誰にとも無くそういうと、「お疲れ様でしたー」という声がちらほら返ってきた。私は事務所を出て車に乗り込む。阿笠邸に到着し、門の手前で幅寄せをしていると、まだ知らせても居ないのに玄関からコナンくんが飛び出してきた。笑顔で手を振るコナンくんに答えて窓を開ける。

「こんにちは。コナンくん。私が来たってよくわかったわね」

「こんにちはー!花子さん。・・・アメ車のエンジンの音って日本車のとは少し違うから、すぐにわかるんだよ。それに、花子さんのカプリスは赤井さんのC-1500と同じシボレーだしね」

「すごいわね・・・車が好きなのね」

エンジン音で車を聞き分けたり、あの推理力も・・・一体この子何者かしら。ただの子供じゃなさそうだけど・・・。

「それなら私とドライブしましょうか」

「わーい!ありがとう花子さん!」

大きい声でお礼を言うといそいそと車に乗り込んでくる。そして「わー!広いね〜」なんて言ってはしゃぐ様子を見ると本当にただの子供のように見えるけど。そう思いながら車を出すと、コナンくんが「それで、」と言って口を開いた。だが本題に入る前に確認することがある。

「ああ・・・待って、その前にあなた、盗聴器は仕掛けられていない?」

「もちろん・・・花子さんこそ、仕掛けられてないよね」

「来る前に一度確かめたわ。私の体も車もね」

「まあもっとも・・・花子さんに盗聴器なんて仕掛ける奴は物好きかストーカーくらいしかいないだろうけどね」

「わお、急に辛口ね。・・・さて、本題だけど・・・計画は無事成功したわ」

「本当に?やったね」

「ええ。彼は今別の人物に成りすまして生活しているわ。誰が彼なのかは私と有希子さんしか知らない」

「今はまだ誰なのかは聞かない方がいいよね。あくまでも初対面の方がリアリティーがあるし。・・・それで、どうやって会わせてくれるの?」

「それを今考えあぐねているのよ。彼は思いついているようだけど、まだ私に話さないってことは決めかねているのね」

私は交差点の角にファーストフード店を見つけて、そこに寄った。注文の前にコナンくんが「きっと決めかねているわけじゃないと思うよ」と囁いた。私は「バニラシェーキを二つ注文して」と頼んで会話をきった。私の車は左ハンドル。右側に座っているコナンくんに注文を任せるのが一番だ。「嫌いだったかしら」「ううん。ありがとう」コナンくんは大人しく注文すると、商品の受け取りからお金の受け渡しから全て頼まれてくれた。「はい、おつり」「ありがとうね」私はおつりを受け取るとポケットに仕舞い、再び車を発進させながらストローに口を付けた。・・・まだ硬くて吸えない。諦めてドリンクホルダーに戻して「で、さっきの続きだけど」と切り出した。

「どうして決めかねてるわけじゃないって言えるの?」

「それは言い辛いからだよ」

コナンくんは私のシェーキを手に取ってストローでかき混ぜながら言った。「だって、あの人の性格を考えると『恋人役になって欲しい』とは言えないでしょう?」恋人役・・・?私ははっとして「だからか」と呟いた。

「彼、以前恋人を亡くしているのよ。その人の事が忘れられないから、言い辛かったのね」

潜入捜査の際組織に近付くために仮に作った恋人だったが、真面目な彼は本当に彼女の事を愛していたのだろう。彼女が亡くなったと聞いたとき、ポーカーフェイスの彼の表情が少し崩れた事を良く覚えている。「柔らかくなったから、そろそろ飲めると思うよ」と言ってシェーキを私に手渡したコナンくんにお礼を言うと、ストローに口を付けた。本当だ。飲める。流動性のバニラアイスのようなそれを喉に流し込むと、二日酔いが抜けない頭が冷えて頭痛がなくなった。

「ボクも彼の案が良いと思うな」

今度は自分のシェーキをかき混ぜながらコナンくんがニコニコと笑う。「だって、そうなりやすいように花子さんの好みに合わせてって有希子おねーさんに頼んだんだもん」「何だって!?」無邪気に爆弾発言をされ、思わず聞き返してしまった。まさか・・・私を悩ませる元凶がこの子だったとは・・・!!

「・・・まさか、ここまでとはね・・・」と私が静かに言うと、コナンくんがしまったと言うような顔をした。どうやら口を滑らせた事に気が付いたらしい。誰よりも先を読んでいて、誰よりも頭を働かせている彼はどう考えたって只者じゃない。

「きみ・・・何者なの」

赤信号で車が止まり、私はコナンくんの目を見て言った。コナンくんは小学生に似つかわしくないような不適な笑みを見せて「江戸川コナン。探偵さ」と言った。
その後、ジェイムズに気付かれて真相を話してしまったことと沖矢昴と恋人になる算段を話し、私はコナンくんを阿笠邸に送り届けた。家まで送ろうかと言ったが、まだ博士とゲームの途中なんだと言って断られてしまった。

「ばいばーい!花子さん!また遊んでね!」

「ええ。帰るときは気をつけて帰るのよ」

「はぁーい」

来た時同様笑顔で私を見送るコナンくんを一瞥すると、私は思考をシフトチェンジした。あの猫を被った探偵さんの言う通り、沖矢昴とは恋仲になるしかないのだろうから。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -