嗚咽としゃっくりでどうにかなりそうなジョディをキャメルに押し付けて私は愛車カプリスに乗り込んだ。ジョディに付き合って多少お酒を飲んだので飲酒運転になってしまうがバレないだろう。本当はだめなんだからね。飲酒運転、だめ。絶対!・・・と、そんな事を言っている場合ではない。随分と遅くなってしまった。時計を見ると午後7時。阿笠邸に向けて私は車を走らせた。

「あら・・・珍しいわね。こんばんは、花子さん。どうしたのかしら?」

阿笠邸のインターホンを押すと、出迎えてくれたのは哀ちゃんだった。

「哀ちゃん。こんばんは。阿笠さんはいらっしゃるかしら?」

「ええ・・・いるわ。あなたのその趣味の悪い車を路駐しているところとあなたからお酒の匂いがしてるところを見ると、あまり長居をするつもりはないらしいわね。ここで待っていてくれるかしら?すぐに呼んでくるわ」

「ありがとう」

即バレた!と内心冷や汗をかきつつ、察しの良い哀ちゃんに礼を言う。察しが良いからこそ、会話を盗み聞かれる心配がある。十分に気をつけて会話しなければ。

「おお・・・花子くんじゃったか。哀くんが『お客さんよ。急用』としか言わなかったもんじゃから・・・」

「こんばんは。すみません、急にお邪魔して」

「こんばんは。いや、大丈夫じゃよ。それで・・・どうしたんじゃ?」

当たり障りの無いように阿笠さんが喋ってくれて助かる・・・が、彼のこの態度を見ると、十中八九哀ちゃんが聞き耳を立てているのだろう。私はボロを出さないように努めて喋る。

「それが・・・私たちの仲間が亡くなって・・・。生前彼がコナンくんと仲良かった事を思い出したので、コナンくんにも話してあげたいと思いまして。でも私彼の家を知らなくって」

「そうか・・・それはご愁傷様じゃったのう・・・。コナンくんには明日放課後家に寄るように哀くんから伝えてもらうから、明日の夕方、また来てくれんかの」

「ありがとうございます。ではこれで失礼しますね」そう言って踵を返そうとしたら、阿笠さんに呼び止められた。「あのー・・・これはちょっとお節介かもしれんが、今日は真っ直ぐ家に帰ることじゃな。駐禁で切符でも切られたら、今の花子くんには言い逃れ出来んからの〜」ほっほっほ、と笑う阿笠さんに、私は悟った。彼にも飲酒運転がバレている・・・!「ええ・・・ありがとうございます。では・・・」と足早に車に戻ると、私は沖矢宅に向かって車を出した。転がり込んでしまえば駐禁だけで済むだろう。


「はい・・・。ああ、花子さん」

沖矢宅に着き、チャイムを鳴らすと彼はすぐに出てきた。そして顔を顰める。「とりあえず・・・早く上がってください」
お邪魔しまーすと言いながら上がりこみ、「そう言えばあなた食事は?ちゃんとしている?」と聞くと、「外食ですが・・・していますよ」と返ってきて安心した。「そう。なら良かった」
着ていた上着を脱いで適当に腰掛けると、沖矢さんが目の前に座って言った。「花子さん・・・自分では気がついていないかもしれないですが、一体何杯飲んだんですか?」「・・・え、」ここでもバレた!!

「飲酒運転で捕まらなくて良かったですね。こんなに・・・言い逃れ出来ないほどにアルコールの香りをさせているんですから」

「あ、あははは・・・」

「それで?何杯飲んだんですか?」

「いやあ・・・覚えていないけど・・・だって、ほら私仲間が殉職したじゃない?みんなが強いお酒飲んでる最中ノンアル頼んでたら不自然でしょ・・・」

「では今日は泊まっていってください。こんな状態のあなたを見て簡単に帰せる筈がない」

沖矢さんはそう言うと立ち上がってどこかに行ってしまった。暫くすると戻ってきたが、その手にはウイスキーのボトルとグラスが二つ。「折角なので二人で飲みましょうか」

「明日二日酔いにでもなれば同僚達には不審がられないでしょう。あの後飲み足りなくて友人と飲み明かしたとでも言えばね」

「確かに・・・それもそうね」

「それにこうした方が都合がいい・・・さて、では先にお風呂に入ってきてください。着替えとタオルはまた用意しておきましたので」なんて準備のいいこと。「ありがとう。借りるわね」二日酔いを演じるよりも本当に二日酔いになってしまえとは・・・明日は酷い一日になるなと思い、私はお風呂場に向かった。「今日は指の調子良いから、手伝わなくていいからね」と釘を刺すのも忘れない。

かくして、本当に手伝いと言う名の邪魔が入らなかったおかげで、私はゆったりとお風呂に入ることが出来た。体が温まると緊張で固まっていた一日の疲れが解れた気がした。ふぅ、と一つ息を吐いてお風呂から出る。体を拭いて着替えると、沖矢さんが待っている居間に向かった。

「お風呂ありがとう」

「いいえ、いいですよ。さあ、どうぞ」

座った私に手渡されたグラスには琥珀色の液体が注がれている。あまりこういった類のお酒は飲んだことがなかったのだが・・・一口飲んでみると、途端に強いアルコールが喉を焼いた。テーブルに広げられたおつまみを口に入れてからもう一口飲んだ。それを見届けた沖矢さんがテレビに視線を戻す。テレビは映画を映していたが、今日は洋画なんて放送しなかったはずだ。どうやら昼間有希子さんが持ってきたものらしい。頬杖をついて洋画を見ながら時折グラスを傾ける彼はやけに色気がある。不思議だ・・・中身が赤井さんだと知っているのに、彼から色気を感じるだなんて。赤井さんのどこが嫌いなのか自問自答をし始めるくらい、私は腑に落ちなかった。
また一口グラスを傾けると、沖矢さんの指が私の眉間を撫でた。「難しい顔をして、どうしたんですか」眉間の皺を伸ばすように撫でる沖矢さんを見て、私は何となく思った。そうか、赤井秀一と沖矢昴は別人なのだから、赤井さんの事が嫌いだからと言って沖矢さんも嫌いだなんてそんなことがあるはずがないのだ。「少し考え事をしていたみたい」「ほぉー・・・それは僕にも言えない考え事ですか?」「そうね」私は少し笑うとグラスの中身を飲み干した。頭がくらくらする。普段はお酒に強いはずの私だけど、なんのケアもしないまま眠ってしまえば簡単に二日酔いになってしまう。今日はこれだけの量で十分だろう。テーブルにグラスを置いて溜息をついた私を見て、沖矢さんもグラスをテーブルに置く。

「もう寝るのなら、布団に入ってください」

「そうするわ・・・沖矢さんはまだ寝ないの」

「そうですね。まだ寝ませんが・・・その、」

私の肩に手を貸して支えてくれながら沖矢さんが言葉を濁した。

「その、沖矢さんと呼ばれるのはなんだか他人行儀な感じがして少し寂しいので、名前で呼んでいただけませんか?僕だけ花子さんの事を名前で呼んでいるのは少し不自然ですし」

「ああ・・・確かにそうね。では昴さんと呼ぶわ。今日はありがとう。先に休ませて貰うわね」

「おやすみ」と言うと、優しい声が「おやすみ」と返してくれる。私が布団に横になるのを確認した昴さんはまたテレビのところに戻って行った。
昴さんて紳士なんだなぁとそんな事をぼんやりと思いながら私は意識を手放した。



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