「悪かった。少し悪ふざけが過ぎた・・・」

私は癖っ毛を撫で付けながら神妙な面持ちで言う沖矢さんを見下ろしていた。所変わって居間。私は沖矢さんが用意してくれた彼用のTシャツとジャージに身を包んでいる。時刻は午後2時34分。ああ、私はこんなところで何をやっているんだろう・・・と溜息をついた。

回想。
沖矢さんの上に倒れこんでしまった私だったが、思いっきりついてしまった手の痛みと火傷の痛みで暫くその場から動くことが出来なかった。「ホォー・・・これは良い眺めだ」などとのたまった赤井秀一の鳩尾に手が滑った振りをして頭突きをかましてやった。「きゃっ」「ぐぅ!」その際強かに頭を打ち付けたらしい赤井さんには自業自得だとしか思えない。

「いい度胸をしているな・・・」

「!?」

形勢逆転。赤井さんは私の体を両手で拘束すると、ぐるりと体を反転させた。そして私と赤井さんの立ち位置は見事変わったと言うわけだ。しかし感心している場合ではない。赤井さんは私を拘束しながら器用に泡と水に濡れてしまった服を脱いで行き、変声機まで外してお風呂の蓋の上に置いてしまった。顔以外はまるっと赤井さんだ。

「なっ、何をして・・・!」

なるべく赤井さんの体が目に入らないように言うと、先ほどまでの沖矢昴の声ではない、赤井秀一の声で「そんな顔をするな・・・誘っているのか」と言われた。体を押し付けられて素肌を感じる。危険信号が鳴り響く頭は早く逃げろと言っている。しかし・・・どうやって逃げようか。

「んっ・・・あ、」

近くに落ちていたボディータオルで再び体を洗われるが・・・手付きがおかしい。嫌だ・・・早く逃げないと・・・!赤井さんの体を押し返すと、右手一つで頭の上に纏められて手出しが出来なくなった。ボディータオルから手を離した赤井さんの手が太腿を撫でた時、私は咄嗟に足を閉じて膝を少し上げた。

「くっ、」

赤井さんが切なげに息を漏らす。私は腿に当たったそれの感触に愕然とした。なんだ、この人・・・ガチで欲情していらっしゃる・・・!!浴場だけにってか!誰が上手い事言えと!!

「やだっ、赤井さっ・・・!こんな所でそんな!聞こえちゃう・・・」

「君の声だけなら問題ないだろう」

本気だ・・・この人・・・私は固唾を飲み込んだ。こうなったら致し方あるまい。強行手段を取らせてもらおう。私はゆるゆると足を広げ、少しだけ隙間を作ってそこに赤井さんの性器を挟んだ。石鹸のおかげで滑りがいいので、ぬるぬると挟んだり離したりを繰り返してみた。赤井さんは熱っぽく息を吐いて私を見つめる。・・・ううう、声さえ聞かなければ、この人が赤井さんだなんて思えないのに!私は腰を動かしてより性器を確実に挟めるように体勢を直すと、ちょっとだけ勢いをつけて睾丸ごと挟んだ。ぱちんっ

「!!!」

驚きと痛みで倒れこむ赤井さん。・・・勝ったな。私はするりと拘束から逃れて赤井さんの顔にシャワーヘッドを向ける。

「わかった・・・降参する・・・顔はやめてくれ、面倒だ」

そして赤井さんは大人しく体についた泡を落とし、着ていた服と変声器を持って出て行った。私はもう一度体を洗い直して、今しがた起こった事を思い出しては赤面し、火照った体の中心は見て見ぬ振りをした。火照りがなくなった頃にお風呂を出れば、確かに着替えとタオルが置いてあり、私はそれに着替えて抗議のために居間に戻った。そして今に至る。

「どういうつもりですか」

「本当に花子さんが赤井秀一を嫌っていたのか、試してみたかったんです」

「そうですか。結果はわかりましたか」

「いえ・・・まだ、」

項垂れる赤井さんはすっかり沖矢さんに扮している。私が沖矢さんに弱いのを知った上でわざとだと思われる。なんてあざといのかしら・・・!

「どうやら僕は・・・花子さんの事を全く知らなかったようですね。これから、よく知っていけたらいいと思うのですが・・・」

「・・・っ」

沖矢さんが眉を寄せて私の顔を覗き込んでくる。また私の顔に熱が集中したのがわかった。ふっと息を吐いて部屋の中を少しだけ歩き回って沖矢さんの隣に腰を落ち着ける。

「・・・お風呂から出たら手当て、してくれるんですよね」

「・・・・・・そうでしたね。では手を貸してください」

後で有希子さんに文句の電話でも入れようか。なぜこの顔と人物設定にしたのか。まったく、全部任せるんじゃなかった・・・!

その後、服が乾くまでの間と言って結局朝まで普通に沖矢宅で過ごしてしまった。生憎ここにはソファも何も無いので雑魚寝しかないかなぁと思っていたのだけれど、沖矢さんに本当に何もしないので一緒に布団で寝ましょうと言われ、しぶしぶながらも一緒に寝てしまった。本当に何もされなかったので良かったのだけれど。
早朝になり、服が乾いたと知らされたので私は急いで着替えた。人通りが多くなる前に車を出さなければならない。夜は目立たないゴキブリも昼間には注目を浴びてしまう。

「そろそろ行かないと」

「そうですね。また今夜来てくれるんでしょう?」

「なんで勝手に決めてるんですか」

「違いましたか?」

「今夜はきっと集まりがあるわ。私だからこそ早めに切り上げてこれるけど・・・期待しないでよね」

「ふっ・・・きみのそういうところ、好感が持てますよ」

「全く・・・あなたがそんなに饒舌だったなんて、知らなかったわ」

「ではお気を付けて」

「はいはい」

沖矢に別れを告げてすでに明るくなってしまった街を走る。とりあえず一度家に戻って身支度を整えてから本部に行こう。それからジョディを慰めてやらなければ。彼女・・・昔赤井さんと付き合っていたからな。ショックは計り知れないだろう。ジェイムズもシルバーブレッドと恐れられた赤井さんを失って悲しんでいるはずだ。なんせ彼は良く出来た部下だったし。あとは・・・あの怪しい男の子・・・江戸川コナン。有紀子さんとつながりがあると本人から聞いたが・・・。なぜか私は彼に疑われているので信用は得なければならないだろう。それに作戦の成功を報告しなくては。


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