君の家系はスリザリンと交わる事を禁止されている・・・・・・スリザリンを除いたら、君にふさわしいのは・・・・・

グリフィンドール!!

わたしにとってはかなり衝撃的なことを口走ってから、くたびれた組み分け帽子は高らかに叫んだ。わたしは咄嗟に辺りを見渡したけれど、気付いた人は誰もいなさそうだった。
『スリザリンと交わる事を禁止されている』ことは、代々親から子へのみ語り継がれる我が家系のしきたりみたいなものなのに、なぜ、この組み分け帽子が知っているの?
一瞬でそんな事を頭の中で考えていると、組み分け帽子はささやいた。

「安心なさい。誰も知らない。ただ、私だけは知っているということだ」

ホッと胸を撫で下ろしたわたしは、「・・・どうも」と小さく挨拶をしてからほっそりした女性教諭に促されてグリフィンドールの席に向かった。


新しい友達も無事出来て良かったと思いながらベッドへと倒れこむ。うーん。なんだか疲れちゃったな。
あの組み分けの儀式の後、アルバスの挨拶が一言二言(本当に言葉通り一言二言だったからかなり驚いた)あり、わたしたちはご馳走にありつけた。豪華な料理を食べながら、近くに座っていた数人の子達と仲良くなった。中でも、ハーマイオニー・グレンジャーというふわふわと波打つ髪をもった女の子は、マグル生まれだと言うのにとっても頭が良くって、もういくつかの魔法を使えるのだと言う。わたしも学校に通う前にたくさん勉強をさせられたのだけど、彼女ほど出来はよくなかった。
それから、ウィーズリー家の人たちもすっごく面白かった。何しろ人数が多かったので名前と顔を覚えるのが大変だと思った。(中でもフレッドとジョージの顔と名前を一致させるのはかなり困難な事だと思った。だって、それくらいそっくりなんだもの!)
そして、ハーマイオニーとウィーズリー家のロナウド――ロンって呼んでと言っていたので次からはロンと呼ぶ事にする――とホグワーツ特急の中で仲良くなったのだと言う、あの、ハリー・ポッター!
お父さん、お母さん、わたしはついに彼に会ったわ!

「あなたのためにわたしたちはいるの!」感極まって言うと不思議そうな顔をされた。そして、反対にひゅーと冷やかしの口笛や野次も飛んでくる。(主にフレッドとジョージからだったけど)
言ってしまってから、わたしは自分が何を口走ってしまったのか思い出して、「あー、ええと、ごめんね。つい、興奮しちゃって。だってあなた、有名人でしょ?」慌てて手元のジャガイモをフォークで小さく切り刻むのに夢中になったふりをした。いけない。つい興奮してあんなこと、言っちゃった。
でも、あれでもかなり分厚いオブラートに包んで言った方だと思う。わたしたちは、ただの保険みたいな存在だからだ。秘密をバラしたわけじゃなかった。


そして食事が終わると、そこからはとにかく目まぐるしかった。監督生と呼ばれる班長みたいな人がわたしたちをグリフィンドールの寮に連れて行ってくれた。『太った婦人』という絵画の前で立ち止まると「カプート・ドラコニス」と唱えた。これがグリフィンドールの合言葉らしい。忘れないように小さく復唱した「カプート・ドラコニス」。『太った婦人』の絵画が開いて、中に入ればそこは談話室だった。
談話室で一人一人自己紹介をしたあと、部屋で荷物を片付けたり同室の子とおしゃべりをしたり(そのおしゃべりのおかげでわたしの荷物はほとんど片付かなかった)した。そして消灯の時間がきて、みんなが寝静まってもちろんわたしもすやすやと休んでいた時だった。優しい手がわたしのおでこをさらりと撫でた。

「!!」

驚いて眠気も吹っ飛んだわたしが飛び起きると、ベッドサイドにはこのグリフィンドールの寮監だというミネルバ・マクゴナガルが優しげな笑みを浮かべて立っていた。

「ミス・花子・七市野ですね。来なさい」

「でも、あの、先生・・・・・・消灯時間を過ぎています」

寮ごとに点数を競っていると聞いて、早速減点を恐れたわたしだったけれど、マクゴナガルは少し困ったような笑みを浮かべた。「アルバスがどうしてもあなたに会いたいと言って聞かないのです」そう言われたら行くしかないじゃない。わたしはマクゴナガルの気持ちも汲んで、同じように笑いかけた。


アルバスとは祖父母の代から交友があるらしかった。彼は度々家を訪ねてきては小さかったわたしと遊んでくれたり、綺麗な魔法を見せてくれたりしていたのをよく覚えている。
アルバスはわたしの家の家系のことについてとても興味があったようで、いつも何か期待しているような、それでいていたずら好きの子供のようなキラキラとした目で両親と話していたりした。でも、彼が望む真実はいつも得られなかった。そしてとうとう、わたしの両親の口から真実が語られる事はなかったらしい。わたしが7つのころ、両親はわたしにすべてを語っていなくなってしまった。数日たって引き取られた親戚の家で、両親が死んだ事を聞かされた。
まだ7つのわたしには信じられる話ではなかったけれど、両親からとてつもなく愛おしい魔法をかけられたわたしは、全ての真実を忘れられないでいる。当時のわたしにはいまいちなんのことかわからなくって、それを呪文のように覚えていたのだけれど、今になって怖いほどその意味を理解している。

『私たちは、決してスリザリンとは交わってはいけないのよ』
『どうして?』
『それはね・・・』

と、物思いに耽っていたところだったけれど、マクゴナガルに入りなさいと言われてハッとした。どうやら校長室についたらしい。ガーゴイルの間を通って階段を上る。後ろからマクゴナガルがついてきていた。

「花子!大きくなったのう!元気じゃったか?素敵なご親類にはひどい事はされなかったかの?ん?」

両手を広げて迎え入れてくれたアルバスに夜の挨拶をして、「元気でした。アルバスもお元気そうで何よりです。・・・少なくとも、わたしが早くホグワーツに行きたいと言う想いを駆り立てられるような親戚たちでしたよ」と笑ってみせた。
親戚たちはわたしに対して、少しだけ厳しいようだった。同い年のドラコ・マルフォイはわたしの遠い親戚にあたるのだけど、彼はわたしの事を『優秀な劣性』と呼んでいた。わたしの家系とは全く逆で、スリザリンばかり輩出しているマルフォイ家の子供にとって、わたしはただの搾りかすのようなものだと思っているみたいだった。「君の一族がいたから、僕たちのほうには劣性が出ないんだから。感謝すらしてるよ」わたしもそんなドラコ・マルフォイの事なんて気にもかけたくなかったので、勝手に嫌ってくれるならそれで構わないと思った。

「おお、それはかわいそうに!わしが迎えに行ってやりたかったのじゃが、すまなかったの。なにしろ、約束があってのう」

アルバスは悲しそうに目を細めると、わたしの目をじっと見つめた。
そのまま数秒間わたしの目を見つめて、アルバスは溜息を吐いた。いたずらが失敗して落ち込んでいる子供のような顔だ。

「おや、もうこんな時間じゃ。子供はたくさん寝ねばならぬ。・・・・・・ミネルバ、彼女を自室のベッドまで送ってやってはくれぬか?」

マクゴナガルは少し大げさに「あなたが連れ出したんでしょう」と溜息を吐いてからわたしの肩を押した。これでやっとわたしは今度こそ眠れる事になるらしかった。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -