6月19日、火曜日。午後9時21分。

お風呂から上がって冷蔵庫から冷えたチューハイを取り出し、プルタブを開けて氷をたくさん入れたグラスに注ぐ。少しかき混ぜてこれでもかと言うくらい冷やした。アルコールを摂取するのは随分と久しぶりである。そんなことを思いながら彼の方を見てみると、彼はやはりぼんやりとテレビを眺めながらワインを飲んでいた。昨日買ってきたチョコレートは思いの他好みだったらしく、出した分を全部食べていたので今日も同じものを買ってきていたが、チョコレートに加えてコンビニで買ってきたスモークタンを一緒に出したところ目を丸くして驚いていたようだった。尤も、私がそれを食べたくて買ってきたと言うのもあながち間違いではないのだが。チューハイを手に彼の隣に座ると、彼は少し驚いたような素振りを見せた。私がスモークタンをつまんでチューハイを煽るのを確認すると彼が「飲めるのか」と呟いた。「ええ、飲むわよ」「そうか」彼は機嫌良さそうに言った。
昼間は暇を持て余していただろうから、私がいる時だけはなるべく構ってあげたい。最低限の家事ぐらいはやってくれているし、さり気無い気遣いも嬉しい。私が無理やり拾って帰ってきたのに、彼があんまりにも紳士っぷりを発揮しているので申し訳ないとさえ思ってしまう。晩酌くらいは付き合いたい。
二人とも黙ってグラスを傾けていたが、彼がおもむろに立ち上がってベランダに行こうとしたので私は声をかけた。

「今日は雨でしょう?気にしなくていいから、中で吸ってよ」

「・・・そうか。お前が良いと言うなら」

彼は一度ベランダに出ると灰皿を持って戻ってきて、元の場所に座ると煙草を咥えてマッチで火をつけた。煙草の煙と一緒に火薬の香りが漂ってきた。このご時勢でマッチとか。そんな感想を頭の中だけで述べていると、彼が窓が開いているか確認していた。気にしいだなぁ。アルコールの力で少し気が大きくなっている私は、彼の頭に手をやってこのサラサラの銀髪の手触りを堪能しながら笑った。「気にしなくていいのに」彼は不服そうに目を細めたが、咎める事はしないで「そうか」と短く言った。
煙草を燻らす彼を見て、普通にしていれば美男なのにと思った。しかし・・・私の感性がそう思っているだけで、世間の目はどう思うかわからない。私はこの奇妙な同居生活を思ってグラスを傾けた。・・・あれ、もうない。立ち上がってグラスを持って、買ってきていた二本目をとりに冷蔵庫のところに行く。新しい缶を手に取るとグラスに氷を足してから注いだ。かき混ぜてキンキンに冷やす。そして元の場所に戻る。座ると、丁度彼がタバコを灰皿に入れてグラスを傾けたところだった。グラスが空になっていたのでボトルを手に取りお酌する。彼は何も言わずに受けると、また一口飲んだ。テレビは何かのドラマがやっているようだったけれど、彼が見ていなさそうだったので一応了解を得てからチャンネルを変えた。ニュースは丁度天気予報を放送していた。なるほど、明日は晴れるのか。なら洗濯は明日の朝したらいいかな。もし雨が降ってきても彼に入れておいて貰えばいいし。
ぼんやりとそう思っていると、ニュースは今日起きた高速道路の事故について報道し始めた。ああ、だから今日は下道が混んでいたんだなぁ。
またおつまみを口に入れて二三咀嚼してグラスを傾けると、彼が甘えるように私に寄り添った。んん、頭がくらくらする。もう酔ってしまったのだろうか。明日も仕事だし、速めに寝た方がいいかな。胸が苦しくなったのでこっそりブラジャーのホックを外した。目が回りそうだ。一度水を飲もうと思って立ち上がると、彼に腕を掴まれた。・・・いや、ただ掴まれたわけではない。私が体勢を崩してふらふらしたのを見かねて掴んだのだ。あれ、おかしいな。思考は全然・・・というよりむしろ、いつもよりは冴えているのに。

「ふらふらじゃねぇか。水なら持ってきてやるから、座ってろ」

そう言われて大人しく腰を下ろす。私が腰を下ろしたのを確認してから彼は立ち上がり、キッチンに行くと新しいグラスを用意して水を注いだ。そして戻ってくる。

「あまり強くないなら、無理して飲むんじゃねぇよ」

呆れているような声色だった。私は「たまに飲むくらいなんだから、ふらふらになったっていいでしょー」とむくれて見せた。さらに呆れた様子の彼は舌打ちをして私を支えた。「まずは飲め」
「ありがとう」と言ってから水を一気に飲むと、喉が潤ったようだった。しかしそう簡単にアルコールが抜けるわけではない。未だにくらくらする頭で明日に残らなければいいなと思いながらもおつまみを口に入れると、なんと、味がわからない!これはもうだめだろうと一気にグラスを傾けて中身を飲み干すと、とうとう駄目だと思ったのか、彼が私の手を掴んだ。

「もうやめとけ」

「私もそう思っていたところよ。明日も仕事だし、悪いけど先に寝るわね」

彼の手をやんわりと離してグラスを片付けようと立ちあがろうとした。が、出来なかった。思うように動かない体に焦りを覚える。ちょっと、待ってよ!さっきも思ったけど、頭はこんなにも回るのに!

「片付けなら明日やりゃ良いじゃねぇか・・・もう寝ろ」

「そうね。でもその前にトイレ・・・」私がそう呟くと、彼は私の肩と背中を支えながらトイレまで連れて行ってくれた。用を足す間、恥ずかしいし世話をかけてしまったなと思った。もう彼が居る間はお酒を飲まないようにしよう。そんな事を思っていると、「おい、大丈夫か」と扉越しに言われた。・・・大丈夫じゃないのかもしれない。私は「大丈夫」と答えると、急いでトイレを出た。
トイレの鍵を開けると、すぐにドアを開けられた。おぼつかない足取りでトイレを出ると、またすぐに彼に支えられた。本当にやばいかも。目が回る。焦点が合わない。そう思いながら手を洗い終えると、突然視界が変わった。

「うっ・・・」

急な事なので頭がついていかない。目が回って本当に吐きそうになった。思わず顔をしかめると、頭上から「気をしっかり持て。今ここで吐いたらただじゃおかねぇぞ」と地を這うような声が聞こえてきた。頭上って、ちょっと・・・。そう思い目を開けてみると、案の定頭上には彼の顔があって、私は横抱きにされていた。頭はくらくらしているのに体はふわふわしている。私が息を飲むと、彼はゆっくりとした動作でベッドまで歩いて、私を下ろした。どうやら運んでくれたらしい。彼は私に布団をかけると、部屋の電気とテレビを消して戻ってきた。どうやら彼も寝ることにしたらしい。ギシッとベッドが軋んで、私に重みがかかった。・・・は。

「ん、なに?」

「惚けるなよ。自分から誘ってきて、なにとは言わせねぇよ」

「なにがっ、んっ・・・!」

なにがよ、と言おうと開いた口は柔らかいもので塞がれた。それが彼の唇だということに気付くまでにはあまり時間を必要としなかった。もともと開きかけていた口の中に舌が侵入してくる。歯列をなぞり、舌を絡ませ吸い付いてくる。されるがままになっていると、不思議と自分もやってみたくなってきた。私は彼がしたように舌を絡ませて吸い付いた。気持ち良い。お互いの唇が離れると、唾液が糸を引いた。ぞくぞくする。

「いつの間にか準備も万端じゃねぇか。そんなに触って欲しかったのか?」

彼は私の服を捲り上げると、ホックが外れているブラに気が付いて妖艶な笑みを浮かべた。そして浮いたブラの下から手を差し入れて愛撫する。

「ふあっ、ちが・・・!」

「違うだと?もうこんなに硬くして、淫乱なお前がか?」

「ひぁ・・・!」

きゅうっと胸の先端を抓られて声が出る。背中にビリビリと何かが走った。同時に下半身がじわっと体液を分泌したのがわかった。思わず太腿をこすり合わせると、それに気付いた彼が私の太腿に片手を置く。そしてそのまま優しく、ゆっくりと撫で上げた。「あっ・・・はぁっ・・・」息が上がる。苦しい。何とかして欲しい。

「ああっ・・・だめぇ・・・。苦し、いよ」

息も絶え絶えに伝えるが、彼は聞いていない振りをした。太腿を撫でていた手をまた胸まで持ってくると、両手で揉みしだきながら先端を口に入れてころころと舌で転がされた。強い刺激に絶えられず、高い声が出る。「ひゃあっ、ん!」絶えず口で息をしたり悲鳴を上げていたお陰で口の中に溜まった唾液がふとした瞬間に喉を通り抜けて器官に入ってしまった。「!げほっ、げほ!」何度か堰をして与えられる快楽に耐えていると、先ほどの堰が原因だったのか胃から内容物が逆流してくるのがわかった。「うっ、だめ、もうだめ・・・出ちゃう!」「ああ・・・出しちまえ」彼は胸から口を離して下着に手をさし入れ、割れ目を撫でだしたが私はそれどころではない。
咄嗟にベッドから上半身を出すと、口に手を当てた。「うっぷ、」後は自主規制。私は片付けて口を濯ぐとすぐにベッドに横になり今度こそ眠りについたが、彼は飲み直すのか何なのか、私が眠るまではベッドに入ってくる事はなかった。


お互いに何となく気まずい午後11時45分。


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