6月18日、月曜日。午前7時。

朝食を食べていた時、時計を確認した彼がおもむろに立ち上がり、玄関に向かった。何をするのだろう、と思いながら後姿を見つめていると、そのまま玄関のドアを開けた。「!!」そこには黒服でサングラスをかけた男が立っていた。あまりにも突然だったのでビクリと跳ねてしまった。彼はその男と何事か話すと、やたら大きい紙袋を受け取った。サングラスの男は彼に一度お辞儀をすると、今度は私の方に向かってお辞儀をした。つられて私もお辞儀を返す。玄関のドアを閉めて戻ってきた彼に、私は詳しい説明を求めた。

「部下だ」

「詳しい説明!!!」

思わず突っ込んでしまった。しれっと朝食の続きを食べ始める彼に殺意が沸く。私はトーストをまるで親の仇のように千切って口に入れた。

「昨日言っていただろう・・・酒と煙草だ」

彼が足元に置いていた紙袋の中身を私に見せる。なるほど、確かに朝届けさせると言っていた。・・・あの部下の人、不憫だなぁ。きっと7時丁度にこの部屋のドアの前に来るように言われていたんだろうなぁ。それもただの酒と煙草のために。なんて甲斐甲斐しいのかしら。

「許可はしたけど、酒も煙草もほどほどにね。・・・じゃあ、私はご飯食べたらすぐ出るから、お留守番、頼んだわよ。お昼ご飯は冷蔵庫の中に入ってるから、暖めて食べてね」

「ああ」

彼は朝食を食べ終わりコーヒーを飲み始めていた。



「ただいま。どうやらちゃんとお留守番していてくれたみたいで、嬉しいわ」

リビングに入り、彼の顔を確認して異常がなかったと知ると、私は彼に微笑みかけて言った。彼はテレビを見ながら「ああ・・・」と短く返事をしてグラスを傾けた。どうやらお酒を飲んでいるらしかった。ローテーブルにはウイスキーのボトルが置いてある。大分減っている所を見ると、昼間から飲んでいたのだろう。まあ、する事もないしね。逆に暇で暇ですることがなくて退屈になっていなくてよかったと思う。
すぐに晩御飯の支度をと思い、脱衣所で着替える。そう言えば家に入って煙草臭さとか感じなかったな・・・。一応気を使ってベランダで吸ってくれているのだろうか。意外だ。少し彼に対しての扱いを改めた方がいいのかもしれない。もともと怪我人として拾ってきたのだし、もう少し優しくしてあげた方がいいのかも。そう思いながら脱衣所を出てキッチンに行く。
「・・・!」意外その2を発見した。冷蔵庫の中身を確認する。・・・ない。お昼ご飯はちゃんと食べたらしい。しかし、食べ終わった食器も流しにはない。と言うことは、まさか洗ってくれたのだろうか。ここまでくるとなんか・・・申し訳なくなってくる。私は大急ぎで、しかしいつもよりは少し手をかけて晩御飯を作った。

「ご飯出来たよ」

そう言いながらローテーブルに料理を運ぶと、彼はテレビを消して座りなおした。そしてお酒のボトルとグラスを自ら端に寄せる。新しいグラスにお茶をついで箸と一緒に手渡すと、私が座るのを確認してから料理に箸をつけた。私も小さく「いただきます」と言ってから箸を取った。

「何か・・・変わったことは無かったか」

ご飯を食べる合間に彼が問う。

「なかったわ。土曜日休んじゃったからその分のしわ寄せが今日来たくらいで」

「そうか」

ただの世間話のようだ。

「今日お昼ご飯足りた?」

「ああ。丁度良い」

「お皿洗っといてくれてありがとうね。朝の分も洗ってくれたんでしょ?」

「暇だったしな」

やっぱり・・・暇を持て余していたんだろうな。

「世話になっている間はやってやろう。・・・朝はいつも今日ぐらいの時間に出るのか?」

「そうよ」

「そうか。帰りの時間は?」

「遅くても6時には帰るわ」

テンポ良く会話が進む。しかし箸も進んでいる。ご飯を食べ終わったら何かおつまみを出してあげようかしら。何か好みはあるのかな?チョコレートくらいならあったと思うけど。とりあえず出してみよう。しかし、今日の彼はやけに饒舌だ。たった数日しか一緒に居ないのになんだか調子が狂う。
ご飯を食べ終わった彼はベランダに出て行った。煙草でも吸うのだろうか。遅れて食べ終わった私は、食器を下げてローテーブルを拭き、チョコレート菓子を置いてから洗い物を始めた。洗った食器を布巾の上に裏返しで重ねて置いていると、窓が開く音がした。彼が部屋に入ってきたのだろう。・・・と、「!」背中に重みを感じて驚く。煙草の香りがした。背後から腕を回されて抱きすくめられる。私は水を止めて「どうしたの?」と振り向けないまま言った。

「・・・・・・お前が居なくて退屈だった」

拗ねた声色でそう言われれば、この体勢でよかったと心底思った。向かい合っていれば顔と言葉のギャップに笑ってしまいそうだったからだ。


かわいい、なんて思ってしまった午後8時6分。


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