6月17日、日曜日。午後8時12分。

男を拾ってから三日目。男は会話と私を襲う事ができるくらいには回復していた。痛みも大分引いたのか、立ち上がって部屋をうろうろする事もある。今朝思い出したように自分のスマートフォンを探し、どこかに電話をかけると手短に話して会話を終了した。どうやら彼は長電話が嫌いらしい。
そして、三日目にしても未だに彼の名前を聞いたことがない。昨日一度彼の名前を聞いた事があったが、無視されてしまった。私は密かに心の中で数年前の某映画から名前を取って「借り暮らしの黒ズクメッティ」と呼んでいる。もしばれたら殺されそうなネーミングだ。もちろん教えるつもりは毛頭無いが。
さて、今私は何をしているかと言うと、彼がお風呂から出てくるのを待っている間にガーゼや包帯などを準備している所だ。傷が傷だけに、ばい菌が入らないように清潔にしなくてはならない。昨日は濡らしたタオルで傷の周りを拭いて消毒をしたが、歩けるのなら自分でお風呂に入ってもらった方が良い。はじめは「もちろんお前が洗うんだろ・・・?なぁ」と駄々をこねた彼だったが、一歩も譲らない私に痺れを切らしてお風呂場に入った。最初から大人しく言う通りにしておけば良いものを・・・!

「おい、」

声をかけられて振り返る。遅かったじゃないと声をかけようかと思ったが、彼のサラサラの銀髪を見てやめた。乾かすのに時間がかかったのだろう。あんな長髪じゃ仕方ない。必死にドライヤーで自分の髪を乾かす彼を想像してニヤリと笑いそうになったけど、乾かさずに寝て翌朝酷い寝癖と戦う姿を想像したらニヤリで済まされそうに無い。今そう思って噴き出しそうになったのは墓場まで持って行こうと思う。

「良かった、サイズは丁度よかったみたいね」

私はさり気無く自分の太腿を抓ると、出来るだけ平静を装って開きかけた口で服の感想を言った。彼はフンと鼻で笑った。その服は私が昨日のうちに買ってきたもので、当たり障り無い黒のスウェットだった。

「じゃあ、折角着た所悪いけど、上は脱いでね。で、ここ座って」

私がベッドを指差しながら言うと、彼は大人しく指示に従う。ベッドに座って服を脱いだ彼に近寄って、ガーゼを剥がした。包帯はお風呂に入る前に外していた。傷口の様子を見る。傷のあるところには新しい皮膚が出来てきていている。が、まだまだだろう。新しいガーゼを手に取り消毒液を染み込ませて傷口に当てる。滲んだ血を拭き取ると、傷口がより良く見えた。・・・正直言ってグロテスクだ。彼はやはり直接傷口に触れば相当痛いらしく、眉をしかめて歯を噛みしめ、痛みに耐えているようだった。手早くガーゼを貼り包帯を巻き終えると、私は一息ついて飲み物を用意した。背後で彼が布団に寝転がる。

「あー、私明日仕事だから家を開けるけど、お留守番頼めるかしら?」

「ククッ、良いだろう。だが、代償を要求する」

「・・・そうね、私に出来ることならなんなりと」

不適に笑う彼を尻目にお茶を飲みながら、私は答える。変な事を言ったら追い出そう。よしそうしよう。

「抱か「結構。お留守番は頼まないから出て行ってくれる?」・・・酒と煙草の許可を」

「そうね・・・私は医者じゃないから怪我に触るかどうかわからないけれど、少しだけなら許可してもいいわ。なんなら買って来ましょうか?」

「いや・・・明日の朝にでも届けさせる」

「そう」

彼の返答に満足した私は、「じゃあ私はお風呂に入ってくるから、先に寝ていること。いいわね?」とお風呂場に向かった。
なんとなく彼の扱い方がわかりはじめた。


安心してお風呂に浸かった午後8時50分。


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