6月16日、土曜日。午前3時13分。

目が覚めたのでスマートフォンのディスプレイを確認すると、まだまだ起きるのには早すぎる時間だった。私はスマートフォンをローテーブルに戻して、寝返りを打つ。二度寝しよう。そして目の前の温度に腕を回したとき、気が付いた。暖かい。どうやら昨日の男は体温を取り戻したようだ・・・よかった。安心すると、眠気が襲ってきて、私はそれに身を任せて再び眠りについた。
その二時間後だ。私が男に叩き起こされたのは。

「おい、起きろ。ここはどこでお前は誰だ」

「う・・・ん?」

「一体どうしてこんな事に・・・チッ」

もぞもぞと動く気配と声が聞こえる。

「どういうわけか知らねぇが・・・こういう関係だったのなら体に聞くのが一番だろう」

お腹を優しく撫でられた。私の意識が浮上する。するすると撫でる手が上に上がってくると、私は目を開けた。男の手が私の胸に到達するのと、男の冷たい目と私の目がかち合ったのは同時だった。

「あ、目が覚めましたか」

「それはこっちの台詞だ」

やわやわと胸を揉まれる。私は男の腹部に触れた。

「っ、」

男は私から手を離して呻く。私はその隙にするりとベッドから抜け出すと、男の肩を押さえつけて仰向けにした。

「あなた・・・何者かは聞かないで置くけれど、怪我をして倒れていたのよ。しばらくは安静にしておくことね」

「ここはどこだ」男は体を強張らせたまま問う。闇の底のような冷たい目が私を射抜く。やっぱり、とんでもないものを連れて帰ってしまったのだろうか。一瞬怯むが、それを表に出さないように努めて返答を返す。「ここは米花町2丁目の私の家」
何かしら抵抗されると怖いので私はベッドに上がって男の腰の両脇に自分の膝をつけて、身動きが取れないようにした。男はまだ質問があるらしい。少し間を空けてからまた口を開いた。

「今は・・・いつだ」

日付の事を言っているのだろうか。私はゆっくりと答える。

「6月16日、土曜日」時間も教えた方が良いかと思い、壁掛け時計に目を向ける。「・・・時間は午前5時20・・・っ!?」
一瞬の出来事だった。それは何があったかわからないほど。気が付けば形勢逆転。男は私の上に居て、両手は頭の上で押さえつけられ、両足は男の脚で押さえつけられていた。

「な、何を・・・!」

「どうやら俺はお前に助けられたようだな・・・礼を言う。だが、お前は知ってはいけないことを知ってしまったかもしれない。疑わしきは罰せよ・・・だ」

男は私の両手を片手でまとめなおすと、再び私の服に手を入れてブラジャーを押し上げた。「・・・!!」男は胸には触らずに鎖骨辺りを撫でると、今度はズボンの中に手を入れる。「ちょ・・・やめっ」男は私の声には耳を貸さず、そのまま下着の中に手をすべりこませた。男の手は何かを探すように弄る。・・・待てよ、本当に何かを探している・・・?男の手が引き抜かれ、もう一度お腹を押したり撫でたりして胸を触った時、私は確信した。この男・・・私が武器を隠し持っていないか探っている。

「あっ、ちょっと・・・やめて、私何にも持っていないわよ」

「俺は自分で確かめねぇと気がすまないのでな」

これ以上は貞操の危機だ。必死に声を絞り出すと、男はクツクツと笑って服をたくし上げた。胸が外気に晒されて震える。顔を逸らしたかったのに、男の視線が私の視線を捕らえて逃がさない。男は顔を落として胸の頂に唇を寄せると、それを口に含んで噛んだ。「はあん!」耐え切れずに声を出すと、男はべろりと舐めてから反対側も同じようにする。私はまた声を抑えられなかった。「あっ、あん」体の中心が熱い。男は口をそのままに舌だけを動かしながら私の腕から手を離すと、両手を体のラインをなぞりながら下に這わせてズボンと下着を下げた。これはまずい。私は自由になった両手を男の頭に添える。男は口を離して私の顔を覗き見る。その顔には嘲笑が張り付いており、冷たいと思っていた目には何か熱いものが揺らめいている。私はその目から目を離さないまま、思いっきり頭を引っ張った。

かくして、バランスを崩した男は私の上に倒れこみ、その衝撃が腹部の傷に響いたようで呻きながら「お、覚えてろ・・・」と殺意の篭った目を私に向けたのだった。



「さて、お腹すかない?」

私はまた彼を布団に寝かしつけ、服を直してから台所に立った。男は機嫌を悪くしたのか黙っている。それでも私は何か食べさせなければとお米を研いで炊飯器にセットした。おかゆがいいだろう。おかゆモードにして水を入れると、炊飯器のスイッチを二回押してお急ぎ炊飯にする。それから冷蔵庫を漁った。
あー・・・週末だったし、冷蔵庫空っぽだ・・・。唯一封を開けないまま残っていた白菜の漬物とたくあんを出して、食べやすい大きさに切り、お皿に盛り付けた。白菜の漬物には鰹節をかけて醤油を少し垂らした。
飲み物は冷たい方が良いかしら・・・と、冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出してグラスに注ぐ。それらをお盆に載せ、あとはおかゆだけ。棚からインスタントのたまごスープを出して、封を切って置く。丁度炊飯が終わったようなので、炊飯器を開けて固形のたまごスープをいれ、お玉で荒く砕きながらかき混ぜてまた蓋をした。お椀とレンゲと箸を出してお盆にセットし、もう一度炊飯器を開けると、丁度良く出来上がっていた。味見をして塩を足すと、お椀に入れてベッドの方に運んだ。

「何か食べないと駄目よ。塞がるものも塞がらなくなるわ」

男はそっぽを向いている。私はローテーブルにお盆を置くと、クッションを持ってきて男の背中に手を差し込む。男は無言のまま体に力を入れて抵抗した。私は溜息をつくと、一度男の背中から手を放し、ベッドに上がりこんでから両手で男の背中に手を回す。訝しんだ男が私の方を向くと、私は男の唇に口付けて、驚いて体の力が抜けたところを抱き起こして背中にクッションを挟んだ。
さて、離れようと思ったが、男の手が私の後頭部を抑えて離れられない。手を離して、と言おうと口を開くと、待ってましたとばかりに舌が侵入してきた。何をやっているんだ、こいつは・・・!男の舌が歯列をなぞり私の舌を探して奥まで入ってくる。私は思いっきり噛んでやろうと限界まで口を開けて――ガチン!「・・・ったく、とんだじゃじゃ馬娘だ」噛み損ねた。

「ふざけてないで、早く食べてね」

私はベッドから降りると、ローテーブルをベッドに寄せて手が届くようにしてやった。男は少し機嫌を直したのか、短く返事をするとおかゆに手をつけ始めた。さて、私も食べるとするか。


名前、聞いてなかったなと気付く午前6時。


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