目の前に銀色の光が舞い込んできた。とある朝の事だった。
銀色は牡鹿の形を作って、じっとわたしの事を見つめている。わたしは急に心に温かい風が流れ込んだような気がして、その牡鹿をそっと抱きしめた。きっとセブルスが寄越したに違いない。
わたしは最近マクゴナガルに教わったばかりの動物もどきに変身して空を駆けていく牡鹿の後を追いかけて飛び立った。何かするときはマクゴナガルに報告するという日課の事は頭の中から抜け落ちて部屋に置いてきてしまったことさえ忘れてた。
分厚い黒い雲の中へ駆けていく牡鹿のまばゆい光に目を細めることで精一杯だった。

辿り着いた先は叫びの屋敷だった。牡鹿はわたしがちゃんとついて来た事を確認するように一度振り向くと、すぅっと消えてしまった。随分長い事飛んでいたような気がして疲れきってしまったわたしは、変身を解いて壁に背中を預けて座り込んだ。張り詰めたような緊張が一瞬途切れて、気が緩んでしまったわたしは気が付くまもなく意識を手放していた。


わたしが次に目を覚ましたのは、物音と話し声が聞こえたときだった。呆けた頭で一瞬ここはどこだろうなんて思ってしまったけれど、すぐに全部思い出してわたしは立ち上がった。足音を殺しながらドアを探して隙間から中を覗く。

「・・・!!」

中にはハーマイオニーとロン、それからハリーの姿が見えた。そして、「!・・・!!!」私を見ろ、と、聞き覚えのある愛しい声を聞いて、そこにもう一人いる事に気が付いた。わたしは思わずドアを開ける。ドアを開けるという行為さえ煩わしかった。

「セブルス・・・!!」

突然入ってきたわたしに、みんなの視線が集まる。「花子!?」ハーマイオニーがわたしに駆け寄ってきたけれど、ハーマイオニーが目の前から退いた事で露になったセブルスの姿に息を呑んだ。セブルスはいろんなところから血を流し、ハリーが泣きながらその流血部を押さえていた。

「ああっ、セブルス・・・!」わたしが彼の所に駆け寄ると、ハリーはわたしに場所を譲ってくれた。

「花子、会いたかった」「わたしもよ!折角会えたと思ったら、ばか!なにやってるのよ!」セブルスは掠れる声で名前を呼んでくれたけれど、わたしはそれ所じゃ無かった。どうやったらセブルスを救えるか、それだけを考えて杖を振った。みるみる血は止まったが、セブルスの顔色は良くならない。ああ・・・どうしよう。「花子・・・」とハーマイオニーが後ろからわたしの肩を抱いて額を押し付けてきた。やめてハーマイオニー、そんな悲しそうな態度をとらないでよ。それじゃあまるで・・・。・・・・・・。

「花子、愛している」突然セブルスが口を開いた。わたしははっとしてセブルスを見つめる。ハーマイオニーが嗚咽を漏らしたのが聞こえた。

「・・・私はもう長くない。聞いてくれ、頼みがある」掠れた声を聞き逃すまいと必死になって耳を寄せて息を殺した。「どうせ死ぬのなら、お前の手で死にたい・・・」

「・・・・・・」

一体何を言われるのかと思って身構えていたけれど、そんなことを言うものだからわたしは少し面食らってしまった。そして運命を受け入れる覚悟を決めた。すると、愛する人の死に際なのにも関わらず、不謹慎にも唇の端が少し上がってしまった。そんなわたしの表情を見て、セブルスは不安そうに瞳を揺らしてわたしを見つめた。
わたしは跪いてセブルスの頬を両手で包み、上を向かせた。すると、今度は目を見開かせて、その黒い瞳は驚きの色を帯びる。

「・・・なにを、」「どうせなら、」

「キスで窒息死なんて、ロマンチックじゃない?」わたしはセブルスの反応を待たずにその薄い唇に吸い付いた。

セブルスの唇の感触を確かめながら、あ、ファーストキスだなあ、だなんて現実逃避したみたいにわたしはそんな事を思った。

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