O.W.Lの試験が終わってから、はじめて私の元に来たのは花子だった。しかも、アンブリッジが権力を握っているこのご時勢に、消灯時間の30分前というかなりギリギリの時間に彼女は現れた。

「もう消灯時間が迫っていますぞ。もし君が聡明な生徒であったのなら、速やかに寮に戻ることをお勧めしますがね」

「ええ、そうね。わたしは聡明な生徒だから透明マントを借りてきたのよ」

悪戯っぽく笑った彼女はキラキラと銀色に輝くマントを掲げて言ってみせたので、私は眉間に指を押し当ててゆっくり揉み解す事に集中した。「それにね、セブルス。わたしずっとこの本を返さなきゃいけないと思っていたし、もうそろそろセブルスの紅茶が飲みたくなってきていたところだったの」花子のその言葉を聞いて、私は溜息をついて杖を振った。


「ねえ聞いたセブルス?フレッドとジョージが試験中に“大問題”を打ち上げて学校から出て行ったのよ」

「ああ、聞いた・・・。全く持って嘆かわしい。しかし、あの女史をぎゃふんと言わせたらしいな。試験を妨害した事に50点減点、あのすばらしい花火に100点加点、というところか」

「そうなのよ。さすがセブルスね。真っ先に駆けつけたマクゴナガル先生がしれっとそう言ってのけたのでドローレス・アンブリッジは面食らった顔をしていたわ」

「そうか」

「あれにはスカッとしたわ。もう少し落ち着いたら2人にお礼の手紙を書こうかしら」

「ならばこう書き加えるといい。『2人がいなくなってホグワーツは毎日平和になりました』と」

「そうね。それから『誰かさんが大いに喜んでいたわ』と書き加えておくわね!」

「そんなことよりも、君は罰則の対象者になっていたようだが・・・何かしでかしたのかね」

「いいえ。わたしは何もしていないわ。ドラコ・マルフォイが因縁つけてるのよ。・・・でもね、ドローレス・アンブリッジはなんとなくわたしのことを気に入っているみたいだし、罰則と言っても彼女の部屋の壁にかかった奇妙なお皿を拭いたり掃除したりするだけで他の子と違って書き取りの罰則はさせられていないわ」

「そうか。それは安心した。先日廊下でドラコが楽しそうに君の罰則の事を話していたので少し心配になった」

私は彼女の両手を取ると、その手に傷が無いかどうかを確かめて溜息をついた。彼女の言っている事は本当だったらしい。綺麗で小さな手を包んで、ゆっくり撫でた。花子は顔を真っ赤にさせてから、両手を私に取られているので紅茶も飲めずに俯いている。

「あ、そ、そうだわ、セブルス。わたしに手紙の受け渡しに使った本がこの本で助かったわ。いろいろな呪文が載っていたので、ほとんど全部の呪文を試してみたの」

「出来たのかね」

「ええ、どうしても理解できないところは図書室で他の本を借りたりして補ったけれど、問題ないくらいには使えるようになったわ」

「それは良かった。もともと返される予定の無かったものだ。意図を読み取ってもらえたのならそれを選んだ甲斐があった」

花子に渡したのは闇の魔術に傾倒した魔法使いが執筆した闇の呪文集で、昔ノクターン横丁で手に入れたものだった。良識のある彼女ならばその呪文をいい方向に役立てる事が出来るだろう。私は花子の両手を開放してやると、手元に帰ってきた本の背を撫でた。花子はしばらく両手を所在無さげにそわそわとさせていたが、ティーカップを手に取る事で落ち着けた。

「今私が君に出来る事はこれくらいしかない。知識はいくらあっても良いものだ」

「ええ、わかってるわセブルス。わたしも自分にもう少し力があればなって思っていたの」

「君はグリフィンドールに入寮したのが本当に不思議な生徒だな」

「わたしってきっと猪突猛進で向こう見ずな性格なのよ」

「・・・本当に君は良くやっていると思う。私としてはスリザリンに欲しいくらいだ」

「あら、わたしの家はスリザリンを避けているのよ。・・・でも、わたしはどうやら劣性の劣等らしいからわたし個人としては関係ないのかもしれないわ」

「君は劣性でも劣等でもない。私からすれば花子はとても優秀で優良だ」

褒められて照れたその頬に手をやると、そこは熱を持っていて、私の冷えた手はぬくもりを手に入れた。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -