O.W.Lの試験が近付くと、生徒たちは必死になって勉強した。長期休暇の時や普段から勉強をしていたわたしやハーマイオニーはそれほど困ってはいなかったけれど、どうやら周りのみんなは違ったみたい。だって、あのセブルスの所にでさえ質問に来る生徒が押し寄せていたんだもの!わたしはセブルスに本を返すタイミングを失ってしまい、どうしようかと考えた。
とりあえずいつでも渡せるように肌身離さず本を持っている事にして、わたしはタイミングを伺っていた。


「ミス・七市野、ちょうどいい所に通りかかりましたわ」

背後から甘ったるい猫撫で声で声をかけられて、わたしは思わず舌打ちしてしまいそうになった。できるだけ顔を取り繕って同じように猫撫で声で「はい、先生。なんでしょう?」と振り向く。

「明日の夜の罰則を今夜に変更しようと思うの。明日の夜は予定が入っちゃって」

んふふっ、と笑ったドローレス・アンブリッジに内心で舌を出して、わたしは「わかりました。では今夜9時からでよかったでしょうか?」と下手に出た。ドローレス・アンブリッジ(最近わたし思ったのだけれど、彼女の略称はドロリッジでいいのではないのだろうか)は満足そうに「良いでしょう。では今夜は罰則が終わったら特別に、このわたくしが紅茶でも入れて差し上げますわ」と言った。なんてこと!それは遠慮したい!!「いえ、わたしのためにわざわざ先生のお手を煩わせるだなんて、親衛隊の方々に睨まれてしまいます。謹んで遠慮させていただきます」恐縮しきった様子を漂わせながら言うと、ドローレス・アンブリッジはまたしてもんふふっ、と笑った。

そして罰則の時間になった。今夜もドローレス・アンブリッジの部屋にはたくさんの罰則者が列をなしている。罰則者には基本的に女子が多く、みんなシクシクと泣きながら書き取りの罰則を行っていた。一人が罰則を終えると、新たな女子生徒が入室してきて、この部屋の主に挨拶をしてから罰則をはじめる。絶えず聞こえる啜り泣きの声はまるで悲しみのループだ。ドローレス・アンブリッジは満足そうにその様子を眺めながら、部屋に飾られたお皿(?)を磨いているわたしに声をかけた。「ミス・七市野、あなた、本当は悪い子じゃないのよね?」自分で罰則を言い渡したくせに、何を言い出すのかしらこの女は!

「いいえ、先生。わたしは先生の作った規則を破った悪い子です。こうして罰則を受けるのは当然です」

あくまでも従順なふりをして返事をする。ふりではあっても、ドローレス・アンブリッジはそんなわたしの事を少し気に入っているようだった。

「わたくしはそんな事はないと思っているのですよ。あなたの罰則はいつも「男子生徒と異常なまでに近付いていた」や「立ち入り禁止の教室の前に立っていた」など、いつもミスター・マルフォイがわたくしに教えてくれる事で決まっているでしょう?あなたは何も言わずにわたくしの罰則に従っているけれど、本当は異論があるんじゃなくて?」

「いいえ、先生。紛らわしい事をしていたわたしが悪いので、どうかお気になさらず」

「他の先生方にあなたの事を聞いてみたのだけれど、あなたは特に目立つ事も無い普通の、というより、どちらかといえば優等生であるとみなさんが口を揃えて言っているわ」

「恐縮です」

「もしかしたらミスター・マルフォイに一方的に嫌われていて嫌がらせをされているんじゃないかとわたくし、心配しているのですよ」

ドローレス・アンブリッジがそこまで言って、はじめてわたしは他の生徒たちに「わたくしは優しい先生なのよ、悪い事をしたあなたたちが悪いのよ」と暗に示しているのだと悟った。その証拠に啜り泣きの声が少し大きくなっていた。

「ドラコ・マルフォイはわたしに何もしていません。先生、どうか彼に罰則など与えないでください」

少しひっかけてやろうかとわたしは気持ち声を大きくしてドローレス・アンブリッジに懇願した。必死な様子のわたしに心が打たれたのか、彼女はぐすっと鼻を鳴らして「何かあったらわたくしを頼るのですよ」と言った。ちぇー、引っかからなかった。確かに、ドラコ・マルフォイの父親であるルシウス・マルフォイは魔法省の人間なのだから、ドローレス・アンブリッジがドラコ・マルフォイに罰則を言い渡す事は天地がひっくり返ってもないことかもしれなかった。

そうそう、そんな日々でも一つ朗報がある。ハリーと何とか仲直りできたのだ。もちろん間を取り持ってくれたのはハーマイオニーだったのだけど。ハリーが談話室でわたしの悪口を言った時、ハーマイオニーは「ハリーたちは知らないだろうから教えてあげますけどね、花子はあなたたちと違ってしっかり勉強をしているのよ。たまに私が戦うのに有効な呪文を引っさげてくるのは花子が新しい呪文を学んでくるからなの!ただ与えられた呪文を練習すればいいだけのあなたたちとは大違いよ!!それに花子が敵側の人間だと思っているのなら、それは大間違いですからね!!」と少し言いすぎなんじゃないだろうかと思うような事を怒鳴り散らした。ハリーとロンがしゅんと項垂れる中、わたしは焦って少しだけ否定した。そんなわたしを見て2人が笑みをこぼしたので、わたしも何となく笑ってしまった。ハリーは「ごめん、僕ってついかっとなっちゃう事が良くあるんだ」とわたしに握手を求めた。「ううん、わたしこそ、ごめん」わたしはその握手に答えてはにかんだ。

そんな出来事があったのだけれど、ドローレス・アンブリッジの大きな影響力のおかげでホグワーツ全体はお葬式の時みたいな雰囲気になってしまっていたので、わたしは自室と図書室以外に落ち着ける場所が無かった。図書室はいつでも同じように静かで、同じような雰囲気が漂っている。(テスト前やレポートの締め切り前は修羅場のような雰囲気になってしまっているのだけれど。)
わたしが最近良く図書室に顔を出している事に気が付いたマダム・ピンスは、わたしが図書室に入ると「あら、今日も来たのね」と言いたそうな顔でニコッと笑みを向けるようになった。このまま仲良くなればムーニーの読み通り禁書の棚の閲覧もこっそり許してもらえるようになるのだろうか。わたしは呪文の本を数冊と小説を一冊借りて、マダム・ピンスに小説の事を聞く事にした。「失礼、マダム・ピンス。わたしそろそろ小説も読んでみようと思うのですが、最初はこの本など読みやすいでしょうか?」「ああ、あなたなかなかセンスが良いわね。私もその作者の小説から読み始めたのだけど、とても読みやすいと思うわ。もともと子供向けの作家なのよ。ちなみにその作者の本で私がお勧めするのは『吟遊詩人ビードル』ね」彼女は嬉しそうにお勧めの本まで教えてくれた。「ああ、『吟遊詩人ビードル』ですね!わたしも少しだけ内容は知っていますが、実は読んだ事なかったのです。では、これを読み終わったらそれを読む事にしますね。ありがとうございました」わたしはお礼を言って図書室を出た。そして、ムーニーに『マダム・ピンスと仲良くなれそう!』という内容の手紙を書くために急いで寮に戻ったのだった。

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