ムーニーの助言を聞きながら選んだクリスマスプレゼントは、なんの変哲も無い普通の濃紺のマフラーだった。


とある週末、わたしはムーニーの言うとおりにマクゴナガルの目を盗んで4階の『隻眼の魔女』の像の所からハニーデュークスの地下を経由してホグズミードに入村した。別にアルバスなら行きたければ許可してくれると思うのだけれど、ムーニー曰く「怪しまれる」とのこと。それに、今回はムーニーも同行するので、わたしはホグワーツに残っていることにしておいたほうが都合がいいらしかった。
ハニーデュークスのぎしぎし言う木製の階段をそろそろとなるべく音を立てないようにして上がると、生徒たちの群れの中にひょろりと背の高い鳶色の頭を見つけた。「ムーニー」「!やあ、花子」彼はたくさんのお菓子たちをきらきらした目で見つめていたけれど、わたしが声をかけるとすぐに振り返ってにこりと笑った。本当に甘いものが好きなんだなぁ、リーマスは。彼のクリスマスプレゼントはハニーデュークスのチョコレートをたくさんあげることにしようと決め、ペロペロキャンディーを2つ(1つはバニラパンプキン・フレーバーで、もう1つはハニーチョコレート・フレーバーだ)買って、チョコレート色の方をムーニーに差し出した。

「えっ、いいのかい?」

「ええ、だって今日はわたしの買い物に付き合わせているんだから」

わたしが気にしないで、と言うと、ムーニーは「それじゃあ、ありがとう」とペロペロキャンディーを受け取った。

ペロペロキャンディーを舐めながら、ゾンコの悪戯専門店に向かった。わたしはそこで透明インクとしゃっくり飴を買った。ムーニーが「このティーカップにその飴を詰めて送るなんてのもまた洒落てると思わないかい?」と言ったけれど、わたしは「セブルスに送るのよ?冗談じゃない!ドラコ・マルフォイに送るのならわたしも大賛成よ!あの天狗鼻をへし折るどころか無くしちゃえるかも」と笑ってムーニーの手から鼻食いつきティーカップを奪って棚に戻した。「でもいい考えね」「まあね」

「セブルスはきっと花子になら何を貰っても飛び跳ねて喜びそうだけど、花子が防寒用具がいいと言うなら、やっぱりマフラーがいいんじゃないかな。もう一捻りしたいところだけど、君はまだ4年生なんだし、それくらいの方が可愛らしくていいと思うな」

「そうかな?」

「そのかわり、あんなふざけたマフラーじゃなくて、彼が日常的に使いたいと思うようなものを選ばないとだめだけどね」

ムーニーが指差した方を見ると、ホグワーツの生徒らしきカップルが道端で抱き合っていて、2人はショッキングピンクゴールドのおそろいのマフラーをしていた。ムーニーはふふ、とこらえ切れなった笑みをこぼして「今はラブラブらしいから気が付いていないみたいだけど、後々見ると顔から火が出そうなくらいに恥ずかしいらしい。パッドフットがよくそうなってた」そう言うと、思い出し笑いでもしたのか、ついにお腹を押さえて笑い出した。
「パッドフットって?」聞きなれない名前(?)に思わず聞き返すと、ムーニーはひーひー言いながら答えてくれた。「私の昔からの親友でね。学生時代はプロングス・パッドフット・私・ワーム・・・いや、この3人でよくつるんでいたんだよ」
わたしの知らない名前がまた出てきて、わたしはもっと聞きたくなった。「ねえ、ムーニー!あとでムーニーの昔の話を聞かせて欲しいの!マフラーを選んだらパブにでも行きましょう!」
ムーニーは「そうだね」と笑って、わたしのマフラー選びを手伝いはじめた。


「ああ、花子。こんないいものがあったよ」

わたしが濃紺のマフラーを手にとると、横からムーニーが声をかけてきた。「ちょっと見てくれるかな。巻いてみたんだ」「え?・・・ぶっ、それはないでしょ!」ムーニーがしているマフラーを見て思わず吹き出し、ゲラゲラと笑ってしまった。ムーニーがしているマフラー――おそらく普通に置いているときには無地の黒いマフラーだっただろう――の垂れ下がっている部分にチカチカと点滅する『Lovin you!!!』の赤い文字があったからだった。

「もうっ、わたし真面目に選んでるんだから!そんなマフラーをしているセブルスなんて想像できぶっくくく!」

想像できないと言おうとしたところで、マフラーを巻いたら赤い文字が浮かび上がって点滅してきてうろたえるセブルスの姿が脳裏を過ぎってしまって、先を言えなくなってしまった。

「私だって真面目に選んでいたんだけれど、これを見つけたら報告せずにはいられなくってね。・・・あ、花子が今手に持ってるそのマフラー、セブルスの感覚から言ったらすごくいい趣味してるかもしれないよ」

「え?」

マフラーを外しながらムーニーはわたしが持っているマフラーを指差した。わたしはまだじっくり見ていなかったそれに目を落とした。黒に近いんじゃないかって言うくらいの濃紺一色だったけれど、アラン模様の模様編みがあって、もこもこと暖かそうだ。

「それ、のばしてみてくれるかい?」

ムーニーはにこにこしながらマフラーを広げるように促す。「そこのポップに書いてあるよ。『密かな想いを告げる、内気な手段』だって」マフラーのXXXの模様を目で追う。普通のアラン模様のマフラーに見えるけれど・・・XXXXXXXXMXXIXXSXXSXXX・・・!「MISS!わたし、これ今気が付いたわ!」

「へえ、こんなふうになっているんだね」

ムーニーもまじまじとマフラーを眺めて感心したように呟いた。「これは面白い。セブルスが気付いたらどんな反応をするだろうね?」ムーニーの後押しもあり、わたしはこのマフラーを買うことにした。


マフラーも買ったということで、わたしはムーニーたちの学生時代の話を聞こうと三本の箒へと足を向けようとしたけれど、「今の私達にはあっちの方が相応しいんじゃないかな」というムーニーにホッグズヘッドへ連れて行かれた。蜂蜜酒を2人分頼むと、ムーニーはひそひそとしゃべり始めた。

「まずプロングスとパッドフットの話をしておこう。プロングスというのは、ジェームズ・ポッターの事で――そう、君も良く知っていると思うが――ハリーのお父さんだ。そして、パッドフットというのがシリウス・ブラックといって、ハリーの名付け親さ。私たち3人は学生時代悪戯ばかりしていて教授たちを困らせていた・・・君たちで言ったらフレッドとジョージのような感じだね。私たちのおかげでいつもグリフィンドールの点数は低かったなあ――ああ、ありがとう――・・・・・・それから、プロングスとパッドフットはセブルスの事を毛嫌いしていてね、フィルチと同等か、それ以上にちょっかいをかけていたんだよ。セブルスがハリーに対して酷い態度をとるのはそれが原因だと思う。私は積極的に参加していなかったけど、彼ら2人を止めることは出来なかったから、セブルスはあまり好ましく思っていなかっただろうけどね。今思うと、若気の至りというかなんというか・・・少し恥ずかしいよ。でもね、花子。前に一度私の秘密の事を話したよね。彼ら2人は私の秘密を無理やり知って無理やり協力してくれたんだ。私は2人にとても感謝しているよ。こんな私に、いろいろなことを教えてくれて、一緒に笑いあって、心から信頼できる友となってくれた。セブルスも私の秘密を知ってしまった一人ではあるが、彼も他の人と違って私の事を疎んではいなかった。教師としてホグワーツにいた時も私の為に薬を作り続けてくれたんだ。私はセブルスにも感謝をしているよ」

わたしは相槌をうちながらムーニーの話を聞いていた。蜂蜜酒が運ばれてきた時だけ一旦言葉を切って蜂蜜酒を受け取ると、わたしと目を合わせて乾杯のポーズをとる。わたしがそっとジョッキをムーニーのそれに当てると、2人揃って蜂蜜酒に口をつけた。

「本当にセブルスには悪いことをしたなあ・・・。ああそうだ、花子。そのうち君もパッドフットと合うことがあるかもしれないから先に注意しておくけど、パッドフットとセブルスは本当にウマが合わないらしいから、無理に間を取り持ったりしない方がいいよ。セブルスは君を誰にも渡したくないと思っているし、パッドフットは学生時代すこぶるモテていたからね、君がセブルスにぴったりくっついているのが納得できないと怒るはずだから」

そんな事を言われたわたしは、急に蜂蜜酒の味がわからなくなってしまい、顔も暑くてそこからのムーニーの話はほとんど頭に入ってこなくなってしまった。記憶もおぼろげなままグリフィンドールの自室について、ハーマイオニーが声をかけてくるまではずっとぼんやりしっぱなしだった。もしかしたらたった一杯の蜂蜜酒で酔ってしまったのかもしれない。


Dear花子

君この間ずいぶんぼんやりしながら帰ったけど、私の話をしっかり聞いていたかどうか不安になったのでこうして手紙を書いたよ。あ、でも、とりあえずハニーチョコレート・フレーバーのペロペロキャンディをありがとう!とても嬉しかったよ。
さて、本題だけどね花子。あの日口頭でも言ったけど、クリスマス当日は自分の手でプレゼントを渡すんだよ。渡しにいく前に『フェルーラ』で自分にリボンを巻いてから、誰の目にも付かないようにこっそり行くんだ。出来れば朝一番誰もいない時間帯がいい。誰かに見られたら厄介だからね。それから、フェイクのプレゼントとしてとびきり甘いショートケーキを持っていくといいよ。本命のマフラーは少し地味めにラッピングして、セブルスの部屋に入ったら執務机か何かの上にさりげなく置いておくこと!真っ先に置くんだよ。いつまでも持っていたら怪しまれるからね。
で、一番最初の言葉は「セブルス、クリスマスプレゼントです」とだけ言ってニコニコ笑ってればいいよ。そしたらセブルスが勝手に真っ赤な顔をしてうろたえるから。あわあわと何か言おうとしたらケーキの方を出すんだ。すぐにセブルスが落ち着くと思うから、そしたら何事もなかったかのように部屋を出て自室に戻る。
忘れちゃいけないことは「クリスマスプレゼントはこっち 花子」と書いたメモをマフラーのラッピングにつけておくこと!
良いクリスマスを!花子!

Fromムーニー



ムーニーへ

クリスマスプレゼントありがとう!ムーニーはお菓子作りも得意だったのね!フィナンシェとシュークリーム、とっても美味しかったわ!今度わたしにも教えて欲しいな!

それから、クリスマスプレゼントの事はあなたの言う通りの結果だったわ!ムーニーって本当にセブルスの事を良く知っているのね!
あのマフラーに隠された文字にセブルスが気付いたかどうかはわからなかったけど、次の日なんだか真っ赤な顔で「マフラーありがとう。大事に使う」なんて言われたわ。そんな顔されたらわたしまで照れちゃう!
それからね、セブルスからもクリスマスプレゼントを貰ったのよ!すっごく可愛いネックレス!ハートモチーフの大人っぽいネックレスで、セブルスが真っ赤な顔で「つけてやる」なんて言ってつけてくれたんだけど、わたし口から心臓が飛び出るんじゃないかと思ったわ。ああ、ムーニー、どうしよう!わたし本当にセブルスに恋しちゃったのかな。どきどきして眠れないよ。

花子より


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