「・・・・・・・・・はあ」

誰もいない談話室でわたしは溜息をついた。最近ハーマイオニーはなんだかこそこそしていていつもどこかに行っているし、ハリーとロンはぼーっとしながら何か考え事をしているみたいだし、みんなもどこか浮き足立っていた。みんなわたしにも話題を振ってきているようだったけれど、とてもそんな気分ではなくって適当に聞き流した。わたしはいつもふわふわと浮いている感じがしていた。
セブルスは部屋にはいないようであっちに行ったりこっちに行ったりするのに忙しいとアルバスが言っていた。この間セブルスに注意されたから(勝手に)知っているわけだけど、今回トライ・ウィザード・トーナメントで起こっている摩訶不思議な事件の数々は全て闇の帝王がハリーを殺すために準備した罠だったらしいから、セブルスはきっとそれを何とかするのに忙しいに違いない。アルバスが落ち着き無く校長室をぐるぐると歩き回っているのも、それが原因だ。
だけど、生徒たちは何も知らないはずなのに、なんでみんな様子がおかしいんだろう。これもまさか罠だったりするのかな。そしたらわたしだけが浮いているのも頷けてしまう。だって、わたしは闇の魔術に対する防衛術が先天的に備わっているのだから。
とりあえず、談話室には誰もいないし、わたしは外に出ることにした。

「花子」

「あ、セブルス先生。・・・なんだかお久しぶりですね」

声をかけられて振り返ると、そこには長いこと会っていなかったような気がするセブルスの姿があった。なんだかほっとして笑いかけると、セブルスは少し疲れたような顔色を残しながらも不器用に笑いかけてくれた。

「・・・・・・クリスマスのダンス・パーティーだが、君はもう相手が決まったかね」

「え?」

「は?」

少し間を空けてから話し始めたセブルスの言葉に、わたしは間の抜けた返事しか返せなかった。セブルスも全く想像していなかった回答が帰ってきたのだろう。ポカンと開けられた口からは気の抜けた音が聞こえてきた。

「クリスマスのダンス・パーティー?えっと、ああ、そういえば、そんなような事を言っていたような気がしますね・・・・・・」

とりあえず知ってはいますよ!アピールだけはしておいたけれど、セブルスは額を押さえて唸った。

「幸か不幸か・・・・・・いや、良い、その様子ではまだ相手は決まっていないようだな」

「あー、はい。その通りです」

「誘われた事もなかったのか?」

「え?ええーと、・・・・・・あ!どうりで最近知らない人から声をかけられることが多いなと思ったら、そう言うことでしたか」

「・・・・・・・・・」

額を押さえていた手で今度は顔全体を覆う。「まあ、なんだ、・・・・・・それでいい」セブルスは顔から手を離すと、見たことの無い顔で笑った。「その調子で、心を閉ざし続けたまえ」「!」
まさか、自分でも気が付いていなかったけれど、無意識のうちにしっかりセブルス以外の人には完全に心を閉ざしていたようだ。最近おかしかったのはみんなじゃなくて、自分の方だったと気が付いて、わたしは少し笑った。


それからクリスマスのダンス・パーティー当日まではあっというまだった。少しだけハーマイオニーに意識を向けてみると、彼女は朝からそわそわしていた。わたしは結局誰の誘いも断ってしまっていたけれど、一応パーティードレスだけは用意した。目立たないようにこっそり途中参加して最初からいましたよのアピールをしておこう。


「あら、花子!あなたやっぱり誘われていたのね!」

パーティーが始まって、しばらくしてから大広間に『今休憩から戻りました』みたいな顔をして行くと、美しい女子生徒に声をかけられた。一瞬頭の中の情報を整理するためにわたしは固まってしまったけれど、その声は紛れも無くハーマイオニーのものだったので、この美しい女子生徒はハーマイオニーなのだと理解した。

「わあ!ハーマイオニー!あなたとっても綺麗よ!」

「ありがとう!花子も、とっても可愛いわ!ねえ、誰に誘われたの?あなた今1人でいるじゃない!パートナーはどうしたの?あなたを1人ほっぽってどこかに行っちゃったって言うの?そんなパートナーの所にはいちゃだめよ!!」

ハーマイオニーはわたしに発声する間もあたえてくれる気がないような勢いでまくし立てると、満足したのかにこりと微笑んだ。そしてそのままわたしにこそこそと耳打ちする。「――なんてね、あなたがスネイプ以外の人をパートナーに選ぶだなんて想像がつかないわ!」どきっとした。「それに、それだけが理由じゃないんでしょう?」本当に、ハーマイオニーは将来占い師か探偵にでもなるつもりなのかな。わたしの心が筒抜けになっているようで、少し居心地が悪かった。
わたしの反応を見て、ハーマイオニーは「図星みたいね。でも、何も言わないでおいてあげるわ」とウィンクしてからわたしに手を振った。どうやらそっとしておいてくれるらしい。
わたしはハーマイオニーと分かれて、壁際でパートナーを待つふりをしたり、飲み物を貰って休憩しているふりをしたりして過ごした。よし、次は外で火照った体を冷ましに行くふりをしようと中庭に出ると、暗闇の中からほんのりと土気色が見えてきた。土気色ははっきりと形作って色濃くなった。というか、それはセブルスの顔で、どうやら近づいてきているようだった。

「セブルス先生」

「む、花子か」

わたしに気が付いたセブルスは、早かった歩調をさらに速めて――そしてわたしは突然何も見えなくなった。

「わっ」

「静かに」

何かに顔を押し付けられた。「一応参加していたのか」頭上から声が聞こえて、なるほど、わたしはセブルスのローブに包まれたわけだとわかった。セブルスの鼓動を頬に感じる。

「パートナーは」

「いないです」

「そうか」もごもごとセブルスは言いづらそうに口篭ってそっとわたしの顔をローブから出した。「私が止めておいて言うのもおかしいと思うが、ダンスパーティーで踊るのも良い経験になりますぞ」どういう風の吹き回しなんだろうとわたしがまばたきをくり返すと、セブルスは溶けこんでしまいそうな暗闇にわたしを誘った。

「ここなら気付かれまい。私がダンスの相手をしよう」


後日、一人の女子生徒がパートナーに振られた腹いせに暗闇で一人ダンスを踊っていたという怪談話(?)を噂で聞いて、わたしは噴き出すのを堪える為に尋常じゃない精神力を使うはめになったのだった。

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