長期休暇になって、わたしはまず真っ先にリーマスに手紙を書いた。この間消灯時間も過ぎているのにセブルスの部屋にお邪魔して一緒に夕食をとったという話を中心に書かれた手紙は、きっとリーマスは微笑みながら読んでくれるだろう。書き上げた手紙を手にふくろう小屋へ行く途中でセブルスとすれ違った。「・・・・・・手紙か?」「はい。友達に」
わたしは『ペンフレンド・ムーニーへ』と書かれた手紙の宛名を見せると、セブルスは「そうか・・・」と言って「外はまだ寒い。・・・これを」とわたしにマフラーを巻いてくれた。

「ありがとうございます。・・・セブルス先生も手紙を出しに行ったんですか?」

「そんな所だ」

やけに厚着をしていると思ったらそういうことか。思いの外寒がりなセブルスに笑みがこぼれた。そうだ、今度の手紙でセブルスにプレゼントする防寒用具について相談しよう。そんな事を思っていたら、セブルスは「朝食の時間に間に合うように戻ってきなさい」とわたしの頭に手をやってから階段を降りて行ってしまった。わたしはぼんやりとしてしまって返事を返せずにいたけれど、セブルスの姿が見えなくなってしまってからハッとして急いで階段を駆け上がった。
大広間に朝食をとりに行くと、すでにほとんどの人が集まっていた。ほとんどの人とは言っても、全校生徒はもう帰ってしまったので大広間は普段と比べるととても静かだったのだけれど。
一番最後にトレローニーが入ってくると、アルバスは手を叩いて食前の挨拶をした。そして食事が始まると、わたしはスクランブルエッグに手を伸ばした。セブルスには悪いと思うけど、外はそこまで寒くなかった。でも、嬉しいからもう少しだけマフラーを預かっておく事にしよう。


「マクゴナガル先生、わたしは今から中庭で本を読んできます」

「はい。わかりました。夕食までには戻ってくるんですよ」

わたしは恒例になったマクゴナガルへの報告を済ませると、本とセブルスに借りたマフラーを持って中庭にある大きな木の根元へ向かった。ここはこの長い休みの間に見つけたわたしのお気に入りの場所で、寒いときは日当たりのいい場所で日向ぼっこできるし、暑いときは木陰で涼めるというとても素敵な場所だ。
木の根元に座って、セブルスに借りた黒くて長いマフラーをしげしげと眺めてみた。全身黒で固めているのにマフラーまで黒だなんて、なんて飾りっけがないのだろう。そのマフラーに顔をうずめてみると、何かの薬草の匂いと自分ではない他人の匂いがした。これがセブルスの匂いなのかな・・・わたしはマフラーに顔をうずめたままうとうとし始めた。


早朝はあんなに寒かったのに、日が出てくるとそうでもなくなったらしい。スネイプは禁じられた森に生えている薬草を摘みに行くために中庭を歩きながらそう思った。そのまま中庭を歩いていれば、木の陰に今は一人しかいない子供の姿を捉えた。――花子である。
花子は膝を抱えて黒い何かに顔をうずめて、どうやら眠っているらしかった。近寄って髪を梳いてみたが起きる気配はない。この陽気では風邪を引く心配をしなくてもよさそうだったが、なんとなく花子の背後に回って抱きかかえるようにして座った。そして花子の体を自分の方に倒すと、あっけなくもたれかかってきた。(・・・無防備すぎる。後で注意をしておかなければ)スネイプは頭を抱えたが、ふと、花子が顔をうずめていたものが見覚えのあるマフラーだった事に気が付いて、顔を赤くした。これは、見紛うこともない、スネイプが愛用しているマフラーだったのだ。
自分のマフラーに顔をうずめて眠っていた花子がどうしようもなく愛しく思えて、思わず花子の額に小さくキスを落とすと、禁じられた森に行くのは諦めて自分も少し日にあたることにした。手持ち無沙汰だったので、花子が持ってきたらしい本を手に取ったスネイプだが、暖かな陽気とそよそよと吹く風と、2人分の体温と鼓動に、眠気を誘われたのは言うまでもなかった。


背中の方が汗ばんできたのを感じて目を覚ました。さっきまで木陰になっていたここは、太陽の位置がずれてきた事によって日向に侵食されてしまったらしい。ふと手元の黒いマフラーに目を落とすと、自分以外の良く見慣れた手があることに気が付いた。瞬間、心臓がはねた。
恐る恐る背後に目を向けると、行儀良く並んだボタンたちが目に入った。そのままゆっくり見上げれば、予想した通りの顔がそこにはあった。ただし、両目は閉じていたのだけれど。・・・こうやって目を閉じているセブルスなんてはじめて見た。なんて穏やかな顔をしているんだろう。いつもは痕が残るんじゃないかってくらいに皺が寄った眉間は、この時ばかりは真っ直ぐに伸びていた。まるで引き伸ばし呪文でも使ったみたいに!
しばらくまじまじとセブルスの寝顔を眺めて記憶にしっかりと刻み込むと、わたしはさて、次は何をしようかと考えた。セブルスの頬に手を伸ばして手のひらで包んでみたけれど、起きる様子はない。わたしはもう片方の手を地面につけると、――何を思ったのかわたしにもわからないのだけど――少しだけ背伸びをしてセブルスの顎に口付けた。な、なんてことをしているのわたし・・・・・・!自分のとった行動に驚いて、ばっと顔と手を離した。
そろりそろりと元の体勢に戻ると、膝に置いたマフラーに顔をうずめた。そう、きっとこれは夢!セブルスのマフラーなんか枕にして眠ってしまったから見た夢だったんだ!夢の中でもう一度眠れば、次は現実で目覚めるだろう。目が覚めたらマクゴナガルに昼寝をしたと報告して、セブルスを探して一緒に大広間に行こう。それから夕食を食べて明日の予定を考えよう。そんな事を考えてもわたしの上がってしまった体温は下がる事はなく。心臓はいつまでも忙しなくどきどきと鼓動を続けていて、結局わたしはセブルスが目を覚まして「・・・・・・ん、眠ってしまった」と呟いてから「・・・・・・!私は、何を・・・・・・!」と慌てふためくまで眠る事が出来なかった。眠れなかったという事実が、全部現実だったとわたしに強く思わせ、また顔が暑くなってきてしまったのでしばらく寝たふりを決め込んだ。セブルスはそろりそろりとわたしがやったのと同じようにしてゆっくりわたしから体を離して立ち上がると「こんなところで眠れるとは・・・“花も恥らう”という言葉を知らないのですかな」と声をかけた「花子は花以下ですな」。
わたしはたった今起きましたよという顔を大急ぎで作ってから顔を上げたけれど、もしかしたらばれていたかもしれない。


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