セブルス・スネイプと花子・七市野が相思相愛だった事に気が付いていたのは、このホグワーツ内ではハーマイオニー・グレンジャーとミネルバ・マクゴナガルとリーマス・ルーピンだけであったが、彼女らは2人の事を見て苛立ちを隠せないでいた。なんとも、じれったすぎるのだ。
まず、お互いがお互いの事をひどく意識していたのにもかかわらず、2人ともその気持ちに蓋をして気が付かないふりをしていたのだ。ハーマイオニーは魔法薬学の授業のたびに花子がぼんやりとスネイプの事を見つめているのに気が付いた時は流石に戦慄した。あの、スネイプに恋心を抱く女子生徒がいるなんて思ってもみなかったのだ。それからは花子の行動が気になって授業が手につかず悶々としたが、たまに見せるスネイプの花子に対する優しげな眼差しにも気が付いてしまった時は愕然とした。まさか、相思相愛だったなんて!2人を見て、だんだん苛立つようになったハーマイオニーは、思わずルーピンに相談した。ルーピンも同じような気持ちだったらしく、たまにルーピンを見かけるとすぐにスネイプと花子の話になった。一向に進展する様子のない二人にやきもきしながらもなんとかならないかと頭を悩ませるだけだったのだが。ちなみにグリフィンドールの寮監であるマクゴナガルはじれったいとは思いながらも、まるで慈愛に満ちた聖母のように2人の事を見守っているようだった。おそらく、2人の事を一番よく知っているのはマクゴナガルなのだろう。

ある日、ルーピンは花子に守護霊の呪文を教えるからハリーと一緒に来なさいと誘った。ハリーと花子は少し不思議そうに顔を見合わせた。

「守護霊の呪文に必要なものはなんだかわかるかな?ハリー」

「幸せの記憶です」

「では、それを強く心にもつんだ。さあ、2人とも目を閉じて、自分の中にある一番幸せだったことをイメージするんだ」

2人が目を閉じると、少し置いてからルーピンはたずねた。「何が思い浮かんだ?ハリー」

「はじめて箒に乗った時のことです。風をきって飛んでいくのはとても興奮しました」

「では、花子は?」

「わたしは、このホグワーツで出会った人たちを思い浮かべました。みんなわたしに微笑んでくれてる」

「それじゃあ2人とも、目を開けて。まずハリーからいこう。杖を構えて、1・2・3で蓋をあけるから、ボガートが出てきたらすぐに呪文を唱えるんだ。エクスペクト・パトローナムだよ」

ハリーは頷いて杖を構えた。ルーピンが「1・2・3!」と言いながらロックをはずした箱の蓋をはずすと、中から吸魂鬼の姿になったボガートが飛び出してきた。

「エクスペクト・パトローナム!」

ハリーは杖を向けてそう叫んだが、呪文がうまく発動せず、そのまま気絶してしまった。

「エクスペクト・パトローナム!」気絶したハリーに駆け寄って守護霊の呪文をかけたのはルーピンではなく、花子だった。ルーピンは花子がハリーに駆け寄った時からその光景を呆然と眺めていた。花子の杖の先からは銀色の光が出てきて、それは大きな蝙蝠の形になって、2人の盾になった。銀色の波動に押されてボガートが箱の中に入った時、ルーピンはやっと慌てて箱の蓋を閉めた。

「花子、君は大成功だったね。何を思い浮かべてた?」

「さっきはみんなの姿を思い浮かべていましたが、今咄嗟に思い浮かんだのはセブルス先生だったんです。いつもわたしを気にかけてくれて、守ってくれていたので」

「そうかい!これは良い収穫があったな」

「え?」

「いや、なんでもないよ。こちらの話だ。・・・さて、ハリーは大丈夫かな」

不思議そうな顔の花子を放っておいて、ルーピンはハリーの肩を揺すった。「ハリー、大丈夫かい」「・・・ん、先生・・・僕、」ぼんやりと言いながら起き上がったハリーにルーピンはポケットからチョコレートを出して渡した。「食べるといい、気分が良くなる。はい、花子も」
ルーピンから受け取ったチョコレートを口に入れると、ハリーは肩を落としてルーピンにたずねた。

「僕は失敗したんですね」

「そうだね。少し幸せの気持ちが足らなかったのかも」

「じゃあ違うのを思い浮かべてみます」

目を閉じて杖を握りなおしたハリーに、ルーピンは再び箱の蓋に手をかけて待機した。

「準備はいいかい?」

間を取ってから聞くと、ハリーは頷いてゆっくり目を開けた。「1・2・3!」の掛け声で蓋が開かれると、「エクスペクト・パトローナム!」飛び出してきたボガートに銀色の幕が立ちふさがった。
「やった!」ルーピンは歓喜の声をもらす。ハリーがボガートを蓋のところまで追いやると、ルーピンは急いで蓋を閉じた。「やったじゃないかハリー」すぐにロックがかかると、ルーピンはハリーに駆け寄った。

「食べるといい」

先ほどのようにチョコレートを渡すと、ハリーと花子を階段の所にかけるように促した。

「今度は、少し弱いかもしれないけど、両親の事を思い出していたんです。2人とも優しそうな顔で僕の事を見つめてる・・・」

「そうか・・・」ルーピンが天井の隅を見つめながらそう言うと、ハリーは「そういえば、」と口を開いた。「あの、花子はやらないんですか?」

「実は、花子はもう成功しているんだ。ハリーが意識を失ってしまった時に咄嗟に呪文をかけたんだ」

「そうだったの?花子、君ってすごいね」

「そんなことないわ」

照れたように笑った花子だったが、ルーピンは花子よりも嬉しそうに笑っていた。

「ハリー、私はひとつ仮定を立てたよ。この呪文を使うときは、幸せの記憶よりも愛の記憶のほうがより強い効果があるのかもしれない」花子の愛情の恩恵を受けられるただ一人の人物を思って、ルーピンはまたいっそう笑顔を深めた。


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