最近のわたしはやっぱりどこかへんだった。
ルーピンのアドバイスのおかげでわたしは、いつか自分の秘密を打ち明けられると思った人が出来たら言ってしまおうと心に決める事でなんとか立ち直ったのだけれど、未だにハーマイオニーから監視をうけていて少しうんざりしている。

「あなた、まさかとは思うけど・・・」

ある時、今日最後の授業が終わって談話室に戻ると、ハーマイオニーがこっそり耳打ちするように囁いた。彼女は言いづらそうに言葉を濁して、「あー、そうだ、先に部屋に荷物を仕舞いに行きましょう」とわたしの手を引いて女子寮の階段を上がっていく。部屋について教科書やらなんやらを机の上に置くと、ハーマイオニーはわたしの両手を握ってベッドの端に座らせた。わたしの隣にハーマイオニーも座って「コロポータス、マフリアート」と杖を振って邪魔されないように呪文をかけると、わたしと向かい合った。

「ええと、違ってたらごめんなさいね?花子、あなた、まさかとは思うけど、・・・スネイプのことが好きなの?」

言いづらそうにしながら、でもはっきりと、ハーマイオニーは聞いた。わたしはなぜかどきりとして「え?どうして?」と答えた。

「だって、あなた最近ずっとぼんやりしているし、さっきの魔法薬学の授業でもずっとスネイプの事を見ていたじゃない」わたしは目を丸くした。他の人から、わたしはそういうふうに見られていたのか。わたしが思っていることはお見通しですと言いたそうなハーマイオニーに「まさかあなた隠してるつもりだったの?それ。バレバレよ」と驚かれた。

「いや、好きとかじゃないと思うけど・・・、・・・よくわからないわ」反論しようとして、肩をすくめた。そう、わたしにはよくわからないのだ。

「じゃあ聞きますけどね、花子。あなたはスネイプに自分のことを知ってもらいたいと思ってる?」

「うん」

「今スネイプに自分がどう思われているのか気になる?」

「うん」

「スネイプのことをもっと知りたいと思ってる?」

「うん」

「スネイプに話しかけられるとうれしい?」

「うん」

「ほうらごらんなさい!あなたはスネイプのことが好きなのよ!」

ハーマイオニーはそうまくし立てて、最後にとどめのように言った。「だって、他の男連中がどれだけあなたにアピールしても気付かれないって嘆いていたんだもの!あなたが今興味をもっているのはスネイプだけってことよ!」わたしは「そうなんだ」となんとなく納得した。というか、納得したというよりも、降参した、と言う方が正しいのかもしれない。わたしははじめからセブルスの事を気にかけていたのには違いないし、でもわたしの役割の事を考えるとスリザリン出身でスリザリンの寮監のセブルスとは仲良くなってはいけないのだと思っていたからだ。

「わたし、セブルス先生のこと好きでいいのかな?」

ぽつりと呟くと、「人のことを好きになるのに、誰の許可がいるっていうのかしら?」とハーマイオニーに怒られてしまった。

この日、わたしは自分の事を「優秀な劣性」“の劣等した”者であると認めた。


翌日の朝、疲れ果てた顔のルーピンが声をかけてきた。

「やあ、おはよう、花子」

「おはようございます、ルーピン先生」

だいぶやつれた顔をしているルーピンに「先生、顔色が悪いですよ。医務室に行った方がいいんじゃないですか?」と声をかけたけれど、「いや、寝ていれば直るよ。セブルスの所にも用事があるし」とやんわり断られた。

「今日はなんだかふっきれたような顔をしているけれど、何か良い事があったのかな?」

「先生はするどいですね。ハーマイオニーみたい」

やつれた顔でにこやかに言われても、苦笑いをしているようにしか見えない。でも、声色から察するに本当に嬉しそうだった。わたしもにこやかに返す。

「あの、先生のアドバイス、とてもためになりました。わたしはまだ一番肝心な秘密を誰かに言う事は出来ませんが、それを言えるような交友関係を作ろうと思うんです。わたし、少し自分のことを勘違いしていて・・・誰かのことを好きになっちゃいけないと思っていたし、ちょっと頭が固かったのかもしれません」

「そうかい?それはよかった。君のその決断は将来必ず君を助けるし、かけがえのないものになると思うよ」

「じゃあね、もう1現目が始まってしまうよ。呼び止めてすまなかったね」とルーピンは手を振ってふらふらと歩いていき、わたしは時計を確認して慌てて走った。薬草学の温室に駆け込んだ時にはまだ先生は来ていなかったけれど、ハーマイオニーはわたしの事を心配してくれていたようで「もう、遅かったじゃない!」とわたしの手を引いた。


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