わたしはまたしても図書室にて、隠せない動揺を抑えるために呪文学の本を探していた。
最近、わたしの両親からの形見である『愛の魔法』が弱くなってきているような気がする。
閉心術が、うまく使えていない気がするのだ。


今、この図書室にはわたしとマダム・ピンスしかいない。本と静寂をこよなく愛する彼女は、この図書室では私語も物音もまるで親の敵のように嫌うので、わたしはなるべく音を立てないようにしながら歩き回る。
3年生にあがったわたしは、トレローニーの呪文学を「体調が悪い」と欠席した。トレローニーは「では、体調が良くなったら今日の授業内容である茶葉占いの事について羊皮紙半ロール分レポートを書いて、次回の授業の前までに提出なさい」と言って欠席を許してくれた。ハリーたちは「大丈夫かい?」と心配してくれたけれど、別に体調自体は悪くなかったので曖昧に笑ってみせた。閉心術がうまく使えていない(気がする)のが気がかりすぎて、どうせ授業に集中できないから仕方がないのだ。
こんな時、お父さんはどうしていたのかなと思う。お母さんは嫁いできたらしいのでこの『愛の魔法』は受け継がなかったはずなのでわからなかったのだと思うけれど、きっとお父さんも今のわたしみたいに悩んだ事があったはずだ。誰かに相談したいけれど、誰も事情を知らないので相談するわけにはいかない。あのアルバスでさえ、両親から秘密を聞き出せなかったのだ。わたしはとうとう頭を抱えた。

――もしかしたら、友達と仲良くしているうちに気が緩んでしまったのかも。

きっとそうに違いないと、わたしは心を奮い立たせた。それはそうだ、友達に心を開きそうになっているのだから、閉心術なんてうまく使えないに決まってる。そうと決めたわたしは、占い学に関する本をいくつか借りて、グリフィンドールの談話室に戻った。早くレポートを書き上げてしまわなければ!


談話室でレポートを書いていると、次の変身学の授業の用意を取りに来たらしいハーマイオニーが「あなたが授業を欠席するだなんて、大丈夫?」と声をかけてきた。

「大丈夫よ。心配させちゃったわね、ありがとう」

にこりと返すと、「あなたへんよ。どうかしたの?」と言われた。感の良いハーマイオニーに少しイラっとしながらも「どうかしたのかもね」と返すと、ハーマイオニーは何事もなかったかのように「次の授業遅れるわよ。早く支度してこなきゃ」とわたしを急かした。さっきはイラっとしたなんて思ってごめん、ハーマイオニー。嘘だよ。その勘の良さ、わたし好きよ。だってわたしは何回もそれに助けられているんだから。
教室でマクゴナガルを待っている頃には、わたしはずいぶんと落ち着いていた。友達とは一定の距離感を保っていれば大丈夫なんだと思うことにした。


「やぁ花子、こんにちは」

「ルーピン先生、こんにちは」

ふと、声をかけられて振り返ると、ルーピンがにこやかに手を振っていた。

「ちょうど今時間をもてあまして退屈していた所だったんだ。よければ一緒にティータイムでもどうかな?」

にこやかに言われて断りづらく、今わたし一人だったし別にいいかとOKの返事をした。今回は大広間でのティータイムではなく、ルーピンの部屋でのティータイムのようだった。
部屋に着くと、ルーピンはテーブルの上を適当に片付けて場所を作ると、そこにティーセットと大量のお菓子
を出した。わたしは促されてソファに腰掛けると、ルーピンも反対側に腰掛けてお茶を入れてくれた。

「はいどうぞ・・・ああ、これを食べるといい。元気が出るよ」

「ありがとうございます」

ティーカップを受け取ると、ルーピンが自分のポケットからチョコレートを出して、わたしに手渡した。机に出したお菓子ではなく、そのポケットから出てきたチョコレートをうけとり、眺めた。なにか特別なものというわけではないのだろうとわたしは思った。もしかしたらルーピンが一番好きなお菓子がこれなのかもしれない。チョコレートを口に入れると甘く溶けた。温かい紅茶で流し込むと、心なしかほっとした。

「元気が出たみたいだね。よかった。・・・さて、花子。きみ、へんな顔をして歩いていたけど、なにかあったのかい?」

こんな短期間で立て続けに聞かれ、わたしは溜息をつきそうになった。みんな優しすぎる。わたしの些細な変化に気が付いて気にしてくれているようだ。

「セブルスと喧嘩でもした?」

「セブルス先生と喧嘩なんてしませんよ」

「そうかい?セブルスが花子の事をとても気にしていたからね。では、セブルスには君のせいじゃないらしい、と伝えておくよ」

ルーピンはくすくすと笑って、「でも、」と続けた。

「私の経験上、君みたいな表情にはとても思い当たる節がある。もし君が昔の私のように悩んでいる事があれば、なにか手助けをしてあげたいと思ってね」

「え、」頭を殴られたような衝撃だった。ルーピンは、もしかしたらだけど、自分の事を話した上でわたしの悩みを聞いてくれようとしている。わたしは何か言わないと、と思ったけど、良い言葉が見つからなかった。

「君はどこか心を開いてないというか・・・あー、もしかしたら、自分に後ろめたさがあるとか?」

もうほとんど正解だった。肩をすくめると、それを返事ととったらしいルーピンはほっと息をついた。

「実は、私にも君くらいの年に同じような悩みがあったんだ。当時仲良くしていた友達にも打ち明けられない秘密さ。でも、私は選ぶ友達を少し間違えたみたいでね。彼らときたら、力づくで私の秘密を知り、そして全力で味方になってくれた。どうしてこんな私に優しくしてくれるんだろうと思ったよ」

ぽつりぽつりと話し始めたルーピン。きっと、今のわたしとひどく似ているんだと思った。

「わたしにも、みんなに心を開けない秘密があって、今、それで悩んでるんです・・・」

つられるようにして話し始めたわたしに、ルーピンは優しく「うん」と相槌をうって話を促してくれた。

「本当は心を閉ざさなきゃいけないのに、最近は閉心術もうまく使えなくって、誰にも相談できなくて」

言ってて、言葉を選んでいても矛盾した嘆きに戸惑いを隠せない。わたしはもうなにがなんだかわからなくなってしまった。
「うーん」とうなっていると、扉からノックの音が聞こえて、ルーピンが立ち上がった。「どうぞ」

「ルーピン、今日の分の薬だ・・・、・・・花子?」

「セブルス先生、こんにちは」

ルーピンにゴブレットを渡したセブルスがわたしに気が付いて少し驚いたような顔をした。ルーピンはひどく苦しそうに悶えながら危機迫る表情でゴブレットの中身を飲み終えると、よたよたとソファに座り込んで口を開いた。

「セブルス、安心してもいいよ。花子が落ち込んでいたのは君のせいじゃなかったらしい」

「な、にを・・・!」

ルーピンの手からゴブレットを奪い取って、セブルスは鼻息を荒くした。

「花子、私の秘密はこのゴブレットだ。この薬なくして、私はここにいることが出来ない。閉心術を習うのなら、丁度良い先生がそこにいるよ――なぁ、セブルス?・・・それに、さっきの私の話の続きだが、私は親友たちに秘密を打ち明けて良かったと思っているよ」

ルーピンは今にも死にそうなくらいげっそりとした顔をしていたけれど、その言葉はわたしにとってはとっても的確なアドバイスのように聞こえ、少しだけ安心した。

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