ここ数週間で気付いた事がある。
どうやら、セブルスはファーストネームで呼ばれる事が好きなようだ。


一人で暇な間、ピープズに対抗できるようになろうと図書室で呪文学を猛勉強してきた帰りの事だった。階段を降りていると、セブルスが目の前の廊下を横切ろうとしていたので、何か良い呪文を教えてもらえないかと声をかけようとした。その時わたしは「セブルスっっ!!」階段を踏み外してしまった。階段が残り2、3段でよかった。お尻を段差で数回打ち付けて舌を噛んだだけですんだわたしは、いひゃい・・・と涙目になりながら俯いていた顔を上げると、丁度目の前にいたセブルスは眉尻を下げて(驚きに)大きく開けた口の両側を持ち上げて、さらには少し顔の血色をよくさせていた。セブルスはすぐにハッと我に返ると、「花子、大丈夫か」わたしを助け起こした。

「はい、らいようふれす」

「意味がわからん」

「舌を噛んだのか」と問うセブルスにこくこくと頷くと「エピスキー」と治癒魔法を使ってくれた。舌から痛みが引いていき、わたしは満足にしゃべる事ができるようになって、お礼を言った。

「ありがとうございます」

「いや、良い」とセブルスは杖を仕舞って「それより、私に何か用があったのではないかね」と続けた。そこでようやく用事を思い出したわたしは、セブルスに良い攻撃呪文がないか聞いた。「ピープズをぎゃふんと言わせてやりたいのです」
そして攻撃呪文の話になり、わたしは今の今まで転んだときの事を忘れてしまっていたのだけれど、いつもはお世辞にも血色が良いとは言えないセブルスの顔色がすこぶる良くなった事から、もしかしたら(事故であったのだけれど、)セブルスと敬称も付けずに言った事が嬉しかったのかもしれないと思った。

それだけではなかった。
学校を辞めざるをえなくなったギルデロイ・ロックハートの代わりに就任することになったリーマス・J・ルーピン先生がアルバスや他の先生方に挨拶をしに来た時の事だった。

「やあ、はじめまして。君はミス・花子・七市野だね?私は来年度このホグワーツで闇の魔術に対する防衛術の教師を務める事になったリーマス・ルーピンだ。よろしく」

「よろしくお願いします、ルーピン先生」

ルーピンはとてもいい人で、愛想よく握手をするとお茶に誘ってくれた。まだルーピンの部屋には何も無いとの事だったので、わたしたちは大広間でお茶をすることにした。ルーピンは大広間に行く前にある絵画(溢れんばかりの果物が書かれた大きな絵画だ)の前に立つと、おもむろに梨の絵をくすぐった。すると、絵がひらいて通れるようになった。ルーピンはわたしに向かってウィンクした。「誰にも内緒だよ」
ルーピンはハウスエルフにアフタヌーンティーを要求して甘ったるそうなスウィーツまで作らせると、それを(もちろん魔法で)運んで、適当な席につくと早速紅茶をいれた。

「花子は、砂糖いくついれるんだい?」

「あ、ひとつでお願いします」

わたしの分もいれてくれながら、ルーピンが聞いた。ルーピンはわたしのティーカップに角砂糖をひとつ入れると、杖を振ってくるくるとかき回した。「はい、どうぞ」「ありがとうございます。いただきます」ティーカップを受け取ったわたしだけれど、目はルーピンのティーカップから離れなかった。――この人、一体いくつ砂糖を入れれば気が済むのかな!これでもかというほど砂糖を入れたルーピンは満足そうに紅茶を一口飲んで、糖蜜パイ(糖分増し増し)に手を伸ばした。その紅茶きっと砂糖の味しかしないよね。わたしはルーピンに習ってマカロン(こちらも当然のように糖分増し増しだった)を手に取ってそう思った。

「君は、ダンブルドアやセブルスと親しくしているんだね。さっきダンブルドアに自慢されてしまったよ」

「そうですか?それはご迷惑をおかけしまして・・・」

アルバスはいろんな人にわたしの事を言いふらすのが癖らしい。苦笑いで返すと、ルーピンは「ダンブルドアとセブルスだけはファーストネームで呼んでいるそうじゃないか」と言った。

「あー、いえ、あの、アルバスはアルバスと呼んでいますが、セブルス先生の事はセブルス、と呼ばずに敬称をつけています。それにセブルス先生は自分からわたしに「花子!!!」!?」

わたしの言葉を遮ったのはセブルスだった。むしろ彼しかいないと思った。セブルスはカツカツカツと長いローブをはためかせながらわたしたちの所に来ると「ルーーーピン、なぜここにいる」いつもの地の底を這うような声ではなく、地中深くを這っているような声で言った。あれ、わたしに用があるんじゃなかったのかな?

「なぜってセブルス、ダンブルドアに聞いてなかったのかい?来年度からは私が闇の魔術に対する防衛術の教授を務める事になったんだよ」

「そんなわけがあるか」

「あるから私がここにいるんじゃないか。ねぇ、花子。そうだろう?」

「軽々しく名前で呼ぶな」

刺々しくセブルスは言うけれど、ルーピンは面白そうにニコニコしている。上機嫌な彼は、糖蜜パイのほかにパンプキンパイ(いわずもがな以下略)とチョコレート・タルト(これも以下略)を平らげて「そんなに真っ赤になるくらいならもっと踏み込むべきじゃないかい?」と言った。

「なんのことだ」

「えー。しらばっくれても無駄だよ」

「誰がそんな事」

憤慨している様子のセブルスだったけれど、ルーピンが最後に「私も、君には幸せになってほしいんだ」と言うと、顔を真っ赤にした。

「そんなわけで、花子。彼の事をよろしく頼むよ」

「え、ええと、はい・・・」

なんだかよくわからないけれどウィンク付きで話を振られたので返事を返すと、セブルスはもうこれ以上余計な事をしゃべらせたくないとばかりに「シレンシオ!」ルーピンに呪いをかけた。果たして、口を開きかけていたルーピンは言葉を発する事が出来なくなって、肩をすくめて最後にとっておいたらしいチョコレートケーキ(以下略)を頬張った。
セブルスが立ち去った後に「フィニート」呪文を解除してやると、ルーピンはわたしにこっそり耳打ちした。

「たった一瞬だが、君が不意打ちでセブルスを呼び捨てにしたから、セブルスのやつ照れて焦っていたんだよ」


そんなような事が続いて、わたしはセブルスが名前だけで呼ばれると嬉しく思うのだろうと結論付けた。今度から何か悪い事か良い事があったらセブルスの事を呼び捨てで呼んでみようかなと思ったのがわたしの最終結論だ。


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