「そんな・・・ジニーがぁ・・・」

ロンは今にも泣き出しそうな声で言った。当然だろう。実の妹なのだから。でも、悲しいのはロンだけではない。わたしとハリーも同じように悲しい思いをしている。

「ロン、花子、ジニーを助けに行こう」

けれど、何かを思いついたらしいハリーが進行方向を変えて走り出した。わたしたちも慌てて後を追いながら問いかける。

「ハリー、何か思いついたの?」

「あのいかれロックハートがスリザリンの怪物退治を任されていた所、ロンは聞いていたろ?あいつを連れて行こう」

そりゃあ名案だ。ロンが呟いた。



「信じられない・・・」

3階の女子トイレ、そこは嘆きのマートルというゴーストが棲みついていて誰も近寄らないトイレとして有名だった。わたしたちは、マートルが以前秘密の部屋が開かれた時に亡くなった女子生徒で、彼女が“緑色の二つの眼”を見て死んだのだと知ると、確信した。秘密の部屋の入り口はここにある!
ハリーが洗面台の蛇の模様に気付いて、(本人曰く、だってわたしたちにはパーセルタングはわからない)「開け」と言うと、洗面台が開いて入り口のようになった。一番初めにロックハートに降りろと言ったけれど、なかなか言う事を聞かなかったので後ろから突き飛ばしてやった。
このロックハートという男は、実はかなりの小心者で、わたしたちが彼の部屋に駆けつけた時には大慌てで荷造りをはじめていた。逃げる気満々だった。3人で杖を向けて脅しながら連れてきたのだけれど、どこまで往生際が悪いのだろうか、この男は。

「花子、君は僕たちがいつまでたっても戻らなかったら、マクゴナガルたちにこの事を知らせるんだ。いいね?」

「・・・ええ、わかったわ」

ハリーとロンはロックハートに続き、穴を滑り降りていった。不気味な穴だった。まるで蛇の巣のような。
嘆きのマートルはずっと個室にこもってしくしくめそめそと泣いていた。何もしていなかったのに、ただここにいただけで殺されてしまった哀れなマートル。わたしはかける言葉が見つからずにただ黙った。
しばらくして穴の奥から何か言い争っている声が聞こえた。何かあったのかな・・・やっぱりわたしも付いて行った方が良かったのだろうか・・・いや、でもそんな事したら・・・・・・
とうとうわたしが頭を抱えだすと、微かにだがロンの声が聞こえてきた。

「花子ー!!何か引き上げるものをくれよ!!」

穴で反響して聞こえづらかったのか、聞き取れなかったのでわたしも声を張り上げる。

「なんですってー!?」

「だ、か、らー!ロープでも、なんでもいいから!ひきあげるものを、おろしてくれ!!」

今度は一言一言づつ区切ってロンは言った。わたしはそれに「ちょっと待ってねー!!」と声を張り上げて返してから、杖を取り出して「ドリコフーニス!」長くて頑丈そうなロープを出し、片方をトイレの便器にしっかりと結んだ。そしてもう片方は穴の中へ。

「ロンー!いいわよー!ロープは足りてるかしら!?」

「ありがとう!大丈夫!」

そうしてロンが穴から這い出してきた時、わたしは「大丈夫?ハリーは?ロックハートは?一体どうなったの?」と矢継ぎ早にまくし立てた。ロンは上ってくるときに唇を噛みながら上ってきたのか、下唇のところにはしっかりと歯の痕が残っていた。

「ロックハートに邪魔されて!瓦礫の山にハリーと僕たちは分断された!」

「ええ!?」

「ロックハートは僕たちに忘却呪文をかけようとしたんだ!どうしても助かりたい一心でね!でも、僕の杖を使ったのが間違いだったんだ!あいつ、僕らに呪文をかけようとして――間違って自分に忘却呪文をかけちゃったのさ!ハリーは一人で先に進んだよ。助けを呼びに行こう!!」

ロンはちょっぴり興奮した様子で息継ぎもまばらに言うと、ロープを引っ張って引き上げてしまった。

「ちょっと、ロックハートはどうするの?」

「今のあいつはそのままあそこにいた方が良いよ」

一体どんな事になっているのか、わたしには想像もつかなかった。
それから、わたしとロンはマクゴナガルのところに走った。彼女は一応寝る準備をしていたらしく(なぜ一応かと言うと、全く眠れなさそうな顔をしていたからだ)、すでに寝巻きを着ていたけれど、わたしたちがノックの返事も待たずに部屋に飛び込むと、慌ててガウンを着た。

「どうしたのです!」

「ハリーが、秘密の部屋に!」

「本当はハリーと僕が行った・・・えっとそれからロックハートを一緒に連れて行ったんですけど」

「とにかく、ハリーは一人で行ったんです!」

ロンの説明が驚くほど下手くそだったので途中からわたしが言葉を奪って言うと、マクゴナガルは血相を変えて走っていった。ロンは慌てて後を追いかけ、案内のために走った。わたしも後を追いかけようと思ったけど、急にひらめいて校長室に行く事にした。

校長室にはやはりアルバスはいなくて、フォークスが悲しそうな目をしていた。

「フォークス・・・アルバスのところに行きたいわよね」

フォークスを籠から出すと、美しい声でひと鳴きして部屋を一周してから何かを掴んで部屋から出て行った。
突然の訪問者に驚いた額縁の中のフィニアス・ナイジェラスは目を丸くして何か聞きたそうにしていたけれど、わたしはあえて無視をして走った。そのまま地下牢まで走って、前に来た事があるスネイプの執務室のドアを叩いた。

「スネイプ先生!」

声をかけると、すぐにドアが開いた。

「何事かね。生徒がこんな夜遅くに、我輩の部屋に用があるとは思えんがね」

部屋に入ると、スネイプは黒い革張りのソファにゆったりと腰掛けて、どうやらお酒でも飲んでいるのかもしれなかった。手には琥珀色の液体が入ったグラスを持っている。

「先生、秘密の部屋が開いて、ハリーが一人で中に・・・!」

わたしのつたない説明を聞いて、スネイプは勢い良く立ち上がった。その目は焦りの色を帯びている。まだ着替えもしていなかったスネイプは、杖でローブを呼び寄せるとさっと腕を通して走り出した。
もちろん私もすぐに追いかけたのだけど、単純な足の長さの違いだけでぐんぐんと距離を離されていく。ついには見かねたスネイプに「なにをしている!それで案内が務まるか!」と引き返してきてわたしを抱き上げた。
突然横抱きにされてひどくうろたえたわたしだったけれど、「道を教えなさい」と耳元で言われて何も考えられなくなった。それでも無事道案内の役目を果たしたわたしを誰か褒めてほしい。まあ、「『嘆きのマートル』がいる女子トイレです」というのが精一杯だったんだけどね。


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