少し眠っていたようだ。
頭がぐわんぐわんする。目が回っているような気分…きもちわるい。そしてだるい。あとあつい。
もしかしなくてもこれは風邪だろう…。
どうしよう…。

「おひゆご飯の時間れちゅよ〜!」

「!?!?!?」

突然ドアを開けて元気良く入ってきた声に驚いて、私は飛び上がってベッドから落ちてしまった。強かに体を打ち付けて呻く。あれ、こんな事さっきもあったな…。

「アッチョンブリケ!!」

入ってきたのは小さい女の子で、落ちた私に驚いて駆け寄ってきた。サイドボードに何かを置くと、「らいじょうう?たてゆ?」と私の体を気遣ってくれた。「あなた、かららじゅうアザらやけらったのよさ!このせいらったのね」女の子は呆れたような、憤慨したような顔をして私の背中に手を回して起き上がるのを手伝ってくれる。なんとか起き上がって、這うようにしてやっとの思いでベッドに戻った。「あー!ビックリしたわのよ」ふぅ、と溜息をついて腕でおでこの汗を拭う仕草をした彼女は、私の背中に大きな枕を二つ押し込んで上体を起こさせると、ベッドの上によじ登ってきた。…しかしこの子見た目以上に力持ちだな…。私の体を支えたり、支えたまま枕を押し込んだり。いくつなんだろう。

「さあて、ちきりなおちなのよさ。おひゆご飯の時間れちゅよ!」

彼女はサイドボードに置いていたお皿を引っつかんで、レンゲを持ち上げる。優しいにおいがした。…お粥だ。レンゲにふうふうと息を吹きかけて、彼女は私の口元までレンゲを運ぶ。…しかし私は食欲が無いどころか、気分が優れないために食べ物を口に入れたくない…。胃の中がシャッフルされたような感覚があるのだ。きっと食べれば吐いてしまうだろう。
私の気持ちなんて分かるはずのない彼女は、なかなか口をあけない私に「あ!そう言えば先生にいわえたこと、やってなかったのよさ」と呟いて、レンゲのお粥を一口自分で食べた。
「…うん!さしゅが先生がちゅくったらけあるわのよ。おいちい!」

誰が作ったのか、そのお粥の味を賞賛して、そしてまたお粥を掬ってふうふうと息を吹きかけては私の口元に持ってくる。自信満々のキラキラした目で食べる事を促されれば、断るのはあまりにも心が痛い。眉尻を下げて、口を開けると待ってましたとばかりにレンゲを口に入れられる。少しだけ口の中に入れて、飲み込んで目を閉じる。もうだめ。おいしいんだけどごめん…「うっぷ」こみ上げてくるものを堪えて、体の力を抜くと、女の子は「あら?もういいのかちら?」と呟いてからすぐに「先生〜!」と走って部屋を出て行ってしまったようだ。…悪い事をした…。回復したら先ずは謝罪とお礼をしなければと私は心に誓った。



ピノコが私を呼びながら書斎に飛び込んできた時は、一体何事かと思った。

「あの人、先生がちゅくったおかゆ、たえないのよさ」

「ちゃんと毒見はしたのか?」

「したのよさ!ちょこっとやけたえて、くゆしそうにしてゆの」

「…苦しそう?」

「先生見てあえてェ〜!」

泣きついて来たピノコの頭を一度だけ撫でて、私は病室に向かった。

部屋に入ってみると、ピノコの言ったとおり彼女は力なく横たわってこちらに視線も寄越さなかった。目は閉じられていて、睫毛だけがふるふると震えている。額には脂汗が滲んでいた。

「ピノコ、診察器具一式持ってこい!」

そう指示を出すと、ピノコは「あらまんちゅ!」と叫びながらバタバタと走って行った。
女の顔色は悪い。

「気分はどうだね。……って、喋れないか」

独り言を言ってからまずは触診に移ることにした。額と頬と首筋に軽く触れて、それから脈を計った。早い。それに息も荒い。触ったところは熱を帯びていて、食欲は無い。当人が喋れれば一番いいのだが、今この状況では余計に望めないだろう。……しかしまあ、ピノコに道具を持ってくるように言ったが、それはどうやら必要無さそうだ。別のものを用意させなくては。

「先生!持って来たのよさ!」

出て行ったときと同じようにバタバタと走って戻ってきたピノコが鞄を私に差し出す。

「どうなの?よくなゆの?」

「ああ…心配はいらないさ。ただの風邪だよ。…濡らしたタオルと氷嚢とたくさんの毛布、それから着替えを用意してくれ」

指示だけして鞄から体温計を取り出す。「失礼するよ…」一応一言言って、腋に体温計を差込み、腕を固定する。一応どこか異常ないかの診察をして、ふむ、と頷いた。やはりただの風邪のようだ。解熱剤を飲ませておこう。
それから私はピノコが最初に持って来たタオルで汗を拭いてやる。病衣の中は可能な範囲で拭いた。氷嚢をピノコに任せると、毛布で出来るだけ彼女を包み込んだ。こういうものはたくさん汗をかけば直るというのは、実は本当のことなのだ。

「よし。これでいい。後は二時間おきに着替えをさせてやってくれ。頼んだぞ、ピノコ」


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