わたしが落ち着くと、急にスネイプは顔を赤らめて去って行って、代わりにマダム・ポンフリーが来た。どうやらわたしの目が覚めたとスネイプに聞いたらしかった。

「ミス・七市野、目が覚めてよかったわ。校長もスネイプ教授もとても心配していたのですよ――さ、これを飲みなさい――スネイプ教授はそれはもう鬱陶しくなるくらいに落ち着きがなくって、ずっとあなたの手を握っていたのですよ」

わたしがマダム・ポンフリーから手渡されたゴブレットの中身を噴出してしまったのは、それがとんでもない味だったからだ。100味ビーンズで何か得体の知れないものを引き当ててしまったような感じ。だと、思いたい。

「あら、あなた顔が赤いわよ。熱でも出たのかしら?それを飲んだら、もう寝てしまいなさい。明日の朝になったら寮に帰っても大丈夫ですよ」

マダム・ポンフリーはわたしの額に手を当てると、「あら?私とした事が、熱ではなかったようね」と呟いて、噴出した分の薬を注ぎなおして再び手渡してきた。明日の朝になったら、と聞いてわたしはひどく慌てた。

「そんな!わたしは今すぐ寮に戻りたいのに!」

ハーマイオニーが掴んだ真実を、早くハリーとロンに教えなきゃと思っていたのに!
ぐずるわたしをチラリと一瞥すると、彼女は思い出したように「ああ、そうそう」と話をそらした。

「スネイプ教授にもちゃんとお礼を言っておかなければなりませんよ」

ついかっとなったわたしは、ベッドの脇においてあった糖蜜パイに噛り付いた。ひどい味がする薬を飲んだので、口直しが必要だと思ったのだと思う。


マダム・ポンフリーが出て行ってしばらくたつと、わたしは医務室を抜け出した。一直線にグリフィンドールの談話室に急ぐ。行く道で誰にも会わなかったのは、きっと幸いな事だったと思う。
『太った婦人』に合言葉を言って談話室に飛び込むと、目の前には驚いた顔のハリーとロンがいた。

「ハリー!ロン!」

しばらく驚いた顔で固まっていたハリーとロンだけど、わたしの姿を確認すると、2人で顔を見合わせた。そして口を開く。

「「花子!!無事だったんだね!何があったんだい!?」」

双子のように聞かれ、わたしはまくし立てた。「ハーマイオニーがスリザリンの怪物の正体を突き止めたのよ!」
これまた双子のように2人は声を合わせて「「なんだって!?」」と言った。「わたしたち、図書室にいて、ハーマイオニーが本で見て・・・!名前はええと確か『バジリスク』よ!ハーマイオニーが破った羊皮紙に何かメモをしていたわ。彼女、まだ持っているかしら」

「確認しに行こう」

「うん、そうだね」

ハリーとロンは何か大事な事を忘れているような、いまいち腑に落ちない顔をしていたけれど、ハーマイオニーのメモを探すために医務室まで走った。


「これだわ・・・!」

ハーマイオニーは、鏡とは逆の手にくしゃくしゃになった羊皮紙を握っていた。その手から羊皮紙を引っ張り出すと、わたしは中に書いてある文字を読み上げる。「『スリザリンの怪物――バジリスク――眼を直視した者は即死、間接的に眼を見た者は石化』」

「そうか、それでハーマイオニーは手鏡を持っていたんだ!直接バジリスクの眼を見ないように、警戒していたんだ!」

「でも他の人たちはどうなるんだ?ミセス・ノリスとか」

「あの時は廊下に水がたまっていたじゃないか!きっとミセス・ノリスは水面に写った眼を見たんだ」

「・・・え?そうだよ、ちょっとまってくれよ、眼を直視した者は即死ってことは・・・」

ロンが言いづらそうにわたしに目を向ける。すぐにハリーもロンが言いたい事に気が付いて、同じように目を向けた。そして、ロンの言葉を引き継いで言う。

「花子、君ってもしかしてバジリスクの眼を見たんじゃ・・・どうして、・・・?」

どうして、の後の言葉は簡単に想像できて、わたしは息を飲んだ。
2人はわたしの事を凝視していて、できればもう一度ベッドの中に入り込みたくなった。わたしの秘密はずっと守っていきたいし、知らない方が良いと思った。それを知って希望のように思われたくはなかったし、仮に希望を持たれても、わたしはそれに答えるだけの力を持ち合わせてはいなかった。
誰も口を開かない医務室は無情にも静寂に包まれている。ついにわたしはいたたまれなくなって「えっと・・・」と声を漏らせば、「ミス・七市野!目が覚めたそうですね。心配していましたよ」と思わぬ所からの助け舟を貰った。マクゴナガルだった。

「ああ、マクゴナガル先生、ありがとうございます」

「話はセブルスに聞きました。それから――立ち聞きしたわけではありませんが――今聞いた話を踏まえると、ミス・七市野はミス・グレンジャーとピープズにお礼を言わなければなりませんよ。――なにしろ、ミス・グレンジャーの持っていた手鏡に写ったバジリスクの眼を、ピープズの太ったお腹越しに見たのですからね」

「え・・・あ、はい。そうですね」

「・・・なんだ、そうだったんだ」

「・・・そっか。花子はすぐに意識を失ったんだから、何があったかよくわからなかったのも無理はないよね」

なんだかよくわからないけれど、マクゴナガルのちょっとした勘違いによってわたしは救われた。マクゴナガルにはスネイプが説明したらしいが・・・そういえば、マダム・ポンフリーがスネイプにお礼を言うように言っていたのを思い出した。後で行ってみようかななんて、こんな時にぼんやり思った。

「さて、ミス・七市野。少し話があります。ミスター・ポッターとミスター・ウィーズリーも。来なさい」

マクゴナガルなんでもないような顔のふりをして言ったが、失敗していた。その目はゆらゆらと揺れており、何かがあったんだと直感した。「はい、マクゴナガル先生」わたしたちはマクゴナガルの後に続いた。


「まず、ミス・七市野はまだ知らないでしょうから、先に伝えておきます・・・アルバスが校長職を停職させられました・・・」

マクゴナガルの部屋について、彼女はわたしたちに紅茶を出した後、衝撃的な事を言った。本当は「なんですって!?」と言いたかったけれど、あまり驚きすぎると声も出せないもので、情けなく空気を吸い込んだだけで終わった。隣に座ったハリーとロンの顔を見てみると、困ったような顔をしていた。どうやら本当の事らしかった。

「前に一度、ミス・グレンジャーに聞かれ、授業中にもかかわらず『秘密の部屋』の話をしたことを覚えていますか?」

「・・・はい、覚えています」

なんとか声を絞り出して返事をする。ひどく掠れた声が出たので、慌てて紅茶を一口飲んだ。

「その時容疑者だと思われていたのはハグリッドでしたが、二度目の事件となると、どうしようもなく・・・彼はアズカバンに送られてしまいました。そして、その事で責任をとらせるという形でアルバスは・・・」

「そんな・・・ハグリッドまで・・・」

マクゴナガルは悲痛な声を上げて、わたしたちの目の前のソファに崩れ落ちるように座った。「こんな事になるなんて・・・」今にも泣き出しそうな顔だった。

「悪い話はこれだけではありません。ここからはミスター・ポッターとミスター・ウィーズリーにも聞いていただきます。・・・ジニー・ウィーズリーが『秘密の部屋』に攫われてしまったようなのです」

これには3人して息を呑んだ。
ジニーが、さらわれた?
頭が何か勘違いしたのかと思って言われた言葉を反復する。反復したところで、間違いを訂正できなかった。

「私達で話し合った結果、明日の朝、生徒たちを全員帰宅させることになりました。このホグワーツは一時閉鎖しなければなりません」



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